プロローグ
夢から覚めればだいたい現実。現実と言えば俺は学生。学生と言えば学校。
今は朝だろう。眩しい太陽が俺の部屋を照らす。二度寝の魔物に襲われるが俺はそれを振り切り立ち上がる。
「やれやれ時計はどこだ」
目覚ましが鳴っていないということはそれよりも早く起きたのだろう。全く勿体ないものだな。
やれやれあったぜ。
「ふむ……今は……十時、か」
よし寝よう。
そうして俺は二度寝という親友を抱いて眠ることにした。
「ということがあった」
次の日、俺はなんとなく友人の夢野筑紫と登校していた。
「そうだったの。瞳が心配してたよ」
「あいつは心配症だからな」
野中瞳。俺の幼馴染だ。無駄に心配性で高校生になったのに一昨日まではわざわざ俺を起こしにきていた。なぜ昨日は来なかったかというと俺が怒鳴って来ないよう仕向けたからだ。
「やれやれどうして俺を独りにしてくれないんだかな」
「知るか。ならあたしに一緒に行こうとか言うな」
「お前は特別なんだよ」
「と、特別……?」
「ああ、気軽に話しやすい友人だ」
「……ぶっ飛ばす」
「うぼるぁぐへぇちょっつぐわっ!」
やれやれ俺はぶっ飛ばされて電柱に頭をぶつけた。いったいなにが悪いってんだよ。
「んじゃあたしは先に行ってるからな。お前もんなとこで寝てんじゃねーぞ」
誰のせいだ、という俺の怒りは底なしの沼に引きずり落とされてしまった。
「ん、ここは?」
目を覚ますと背中に柔らかい感触があることに気付く。コンクリートではないようだ。
「目を覚ましたようだね」
「ああ。……ん?」
声がしたんだが人影が見当たらない……いや、ここはどこだ?
俺はどうやらベッドの上にいるようだが、保健室でも自分の部屋でもない。真っ白な空間。どこまでも白く、先には白しかなかった。もちろん空なんてない。
「なるほど、これは夢か」
ならば目覚めなければ。さてどう目覚めるか。
「ここは夢の中じゃないよ。僕が作った空間さ」
「やはり目覚めるなら氷だよな」
「おい話を聞いてるのか?」
「おう、一応聞いているぜ」
やれやれ夢の中でも俺を孤独にしてくれないらしい。神様はどこまでもいじわるだな。
「さて、この空間に呼び寄せた――」
「次回は相性逆転なんだよな。やれやれ無属性最強伝説が始まるじゃないか」
「――しかし――」
「まあ俺は霊を使って上から殴り倒すつもりだが逃げられる可能性があるんだよな」
「――なので――」
「後は鬼耐久の処理か。やれやれ課題はたくさんあるな」
「おいこら聞いてるんだよな?」
「おう。だが調整しないのはどうかと思うぞ」
「なんの話だ!」
やれやれヒステリックな声だ。そもそも人と会話するにはまず目を合わせるべきだろう。俺の周りもそんなことできない連中ばかりだったな。すぐに俯いたり目を逸らして顔を赤くしたりして。リンゴ病かと心配しても怒鳴られるしわけがわからん。
俺が苛々し始めると目の前の空間に妙な雲が現れる。
「ったく、うるさいったらありゃしない人間だね」
その妙な雲はなんと人の形をしたかと思うと少年になったではないか。
まあそんなことはどうでもいい。
「俺には亜城禁綺羅という立派な名前がある」
「ん、そ、そうだね、立派立派」
やれやれこいつもろくに目を合わせられないようだ。
「っと、そんなことより」
ようやく目を合わせるが、俺は少年に苛立つ。
「そんなことではない」
「黙れ。お前には魔法少女になってもらう」
「いいだろう」
「は?」
「なんだよ」
折角了承したというのにこいつはあろうことか目を見開いて素っ頓狂な声を上げた。
「え、そこは即決する場面なの?」
「なんだ、悩んでほしかったのか?」
「いや、そんなことないけど……魔法少女だよ?」
「それがどうした?」
「少女だよ?」
「そうだな」
「…………」
やれやれまた視線を逸らす。親の顔を見てみたいものだ。
「ま、いっか。それじゃあ次に起きた時、君は魔法少女だ」
「おう」
俺が返事をするなり耳障りな金属音が鳴り響く。そして空間は崩れ始める。真っ白な空間が闇に包まれ始めたのだ。
そして俺は意識を失った。