02 少年の嫉妬 Side:浅葱
冬、一月中旬。
柘榴と希は、二年と言う月日を経て帰って来た。その事実は喜ぶべきことで、浅葱だって嬉しくないわけがなかった。
けれども、だ。
毎朝一緒にランニングをする蘭は、走りながら二人の話ばかりするので面白くない。
「それでね、柘榴はね」
「はいはい」
「ちょっと、ちゃんと話を聞きなさいよ」
頬を膨らませて浅葱を盗み見した蘭に気付かず、浅葱は眉間に皺を寄せていた。
何度も柘榴と希の話を聞いた。最初の頃は許していたが、段々柘榴と希を聞くのが嫌になってきた。嬉しいのは分かるが、いい加減にしろ、と言いたくなる。
蘭の大切な人、は変わらず柘榴と希。浅葱ではない。
その事実が、悔しいやら悲しいやらで何とも言えない。適当に相槌を打ちつつ、いつものコースを走り終わる。ランニングが終われば、蘭を高校の入口まで送るのが日課。
その途中でも、蘭の話は終わらない。うんざりしながら歩いていると、入口では蘇芳と鴇が待っていた。
珍しい、それも鴇がニヤニヤ笑っている。嫌な予感を感じつつ、浅葱と蘭は二人に近づく。
「浅葱、蘭ちゃん。おっはよー!」
「おはよう」
「おはよう、蘇芳と鴇」
「…なんでいるんだよ」
ボソッとぼやいた浅葱。まだ早朝なので生徒の数は少ない。道の真ん中で立ち止まることになった不機嫌な浅葱は、鴇を睨みながら言う。
「なんでこんなところにいるんだよ」
「いやー、浅葱には用はないよ。浅葱には」
「おい、何で二回言った」
低い声で言い返しても、鴇は笑顔を絶やさない。
「嘘嘘。本当は浅葱と蘭ちゃん二人に用があったんだって。そんな怒らないでよ、浅葱」
「怒ってねー、っよ!」
最後の言葉と共に、浅葱は右手で力いっぱい鴇の顔を殴ろうとした。けれども鴇はそれを軽やかに避けたので、ますますムキになった浅葱は殴るために追いかける。
「鴇!逃げるんじゃねーよ!」
「普通逃げるでしょ!」
騒ぐ浅葱と鴇を遠目に見ていた蘭と蘇芳。呆れている蘭の隣にいた蘇芳は、興味もない様子で素っ気なく一言。
「五月蠅い」
「そうね。鴇、大した用がないなら私は学校に行くわよ」
「ちょ!ちょっと待って、蘭ちゃん。用はあるし、浅葱にも関係していることだからっ――!」
話している鴇の顔を、思わず殴ってしまった。勢いよく地面に倒れ込む鴇を見下ろして、浅葱は棒読みで言う。
「悪い、鴇」
「いや、全然そんなこと思っていないでしょ?」
鴇の言う通り、途中からは怒っていた理由も忘れていた。頬を押さえながら立ち上がった鴇は、ため息をついた蘭の方を向いて言う。
「蘭ちゃん、次の土日は暇?」
「まあ、特に予定はないけど…」
鴇を怪しんでいるようで、言葉を濁した。蘭の言葉を聞いて満面の笑みを浮かべた鴇は効果音を言いながら、ポケットから二枚のチケットを蘭の目の前に差し出す。
「これさ、次の日曜までのチケットなんだって。元々は結紀さんのチケットで、陽太さん経由で貰ったんだけど。浅葱もどうせ暇だし、二人で行ってきたら?」
何かを企んでいる、その顔で鴇は言った。
あの蘭が浅葱と一緒に行くとは思えない。暇あれば訓練をし、中々遊びにも行っている様子のない蘭。行くはずがないだろ、と浅葱が口を開く。
「お前な…そんなの行くわけが――」
「ちょっと見せて」
鴇が見せびらかせていたチケットを、蘭が受け取って興味ありげに見る。
「プラネタリウム、よね?」
「そう。楽しく星を見に行かないかなっーて…どう蘭ちゃん。行く気ある?」
「…行きたい、かも」
呟いた蘭の言葉に、浅葱は自身の耳を疑った。あの蘭が、行くと言っている。何も言えなかった浅葱を無視して、蘭と鴇が勝手に話を進める。
「本当!チケットが無駄にならなくてよかった。俺と蘇芳と、それから苺ちゃんは別の用事があるから、今回は行けないけど楽しんで来なよ」
「そうなの?それは残念ね」
「だよね。すっごく行きたかったんだけど、浅葱は暇だから」
「…俺の意志はなしか?」
誰にも聞こえないくらい、小さな声だった。
鴇に断定して言われると苛立つが、暇は暇である。鴇の白々しい態度を蘭は疑っておらず、呆れていた浅葱を振り返った。
「浅葱、行きたくないなら、来なくていいわよ」
「いや、別に…」
「浅葱が行けないなら。柘榴か希、洋子を誘えばいいかしら?とりえず、チケット貰っていいのよね?」
「うん、勿論。そのチケットは蘭ちゃんに差し上げます」
「ありがとう。プラネタリウムなら行ってみたかったのよね」
チケットを握りしめながら、蘭はとても嬉しそうな顔をした。蘭の中で勝手に、浅葱は行かない人間扱いされている。浅葱は即座にチケット一枚を奪い、ムスッとした顔で言う。
「どうせ暇だから、付き合ってやるよ。文句あるか、チビ」
「…文句はないけど」
浅葱の言い分に、蘭の方が少し驚く。
「無理しなくていいわよ?星とか、本当は興味もないでしょ?」
遠慮がちの言葉。確かに星など全く興味はないが、蘭にそんな心配をされていたとは思わなかった。見つめられて、うっと顔が熱くなる。
何か言わなければ、と早口で言う。
「暇だからいいんだよ。暇だから」
「そう?なら、いいけど…あ、日曜日でいいかしら?土曜日は勉強したいし、日曜なら図書館に本を返した後は暇になるから」
「あ、ああ」
ぎこちなく、頷く。もう蘭の顔は見られないので、曖昧にしか頷けない。
冷静になった頭で考えれば、つまりはデート。蘇芳や鴇と一緒になら出掛けたことはあるが、二人で出掛ける約束は初めてではないだろうか。
徐々に実感が湧いてきた。
居ても立っても居られなくなり、浅葱は身を翻し早足で歩き出す。
「ちょっと、浅葱!時間とかは!?」
「後で!」
振り返りもせずに叫び返した浅葱を、蘭は追わずに見送った。またねー、と明るく挨拶をした鴇が蘭に手を振って、蘇芳と一緒に浅葱の横に駆け寄る。
真っ赤な顔の浅葱の両脇を、二人は速度を合わせて歩く。
「いやー、蘇芳。予想以上に上手くいったね。浅葱、後は頑張るんだよ!」
「ファイト、浅葱」
勝手に応援をし出す蘇芳と鴇は、楽しそうに笑っている。嬉しい反面、恥ずかしくもある。やり方が許せなくて、浅葱は鴇と蘇芳を睨んだ。
「って、何考えているんだよ!!!」
「いやー。だって、中々二人の仲が進まないから、背中を押してあげたいなーとか?」
「面白そうだから」
鴇の言葉より、蘇芳の言葉の方が確実に正解だろう。落ち着け、と思っても落ち着けない浅葱である。喚くように言う。
「と言うか、お前ら用事なんてねーだろ!絶対、ねーよな!!」
「いやいや、見守るっていう任務が」
「結構、重要」
「重要じゃねーよ!!!」
ああ言えばこう言う蘇芳と鴇。浅葱が二人に敵うはずがない。にやり、と笑った鴇は、ちなみに、と話し出す。
「ちなみに、苺ちゃんは俺らと尾行組です」
「どうでもいいし!ぜってい付いて来るなよ!絶対だからな!!!」
捨て台詞を吐いて、浅葱は逃げ出したのだった。
約束の日曜日。
待ち合わせ時間も待ち合わせ場所も、蘇芳や鴇には言っていない。にもかかわらず、約束の三十分前に図書館に来た浅葱の目の前には、何故か見知った三人の姿。いつも通り無表情の蘇芳と楽しそうな鴇。それから、眠たそうに欠伸をしていた苺が、浅葱を見つけて一礼した。
げっそりとした表情になった浅葱は、三人に向かってぼやく。
「なんでいるんだよ」
「いいじゃん、いいじゃん。それより気合入っているね、浅葱」
じろじろと見られて、浅葱は思わず自分の服装を見直す。無難な服装、と思って黒のピーコートと長袖のグレーのパーカー。カーキのチノパンに、焦げ茶のショートブーツを履いている。
ちなみに昨日の夜は服装に悩んだので、結紀に電話をしたことは絶対に言わない。
蘇芳は明るめのベージュのロング丈のトレンチコート。ブイネックの濃いグレーのニットと、白いシャツに紺のネクタイ。ジーンズと黒のブーツスニーカー。
鴇はネイビーのフード付きミリタリーブルゾンで、中は白に近いベージュのシャツ。下は茶色のチェックの長ズボンと黒のブーツ。
いつもと同じ雰囲気の私服なので、尾行すると言うよりも遊びに行く感じである。
唯一紅一点の苺は少し化粧をしていて、普段はしていない黒の眼鏡をかけている。白いブラウスと紺のジャケット、ギンガムチェックのミニスカート。黒いタイツとロングブーツ姿。
苺と一緒に出掛けることは滅多にない浅葱なので、まじまじと見てしまった。視線に気が付いた苺は少し顔を赤くして問う。
「もしかして、似合っていませんか?」
「いや」
素直に否定すると、ホッと息を漏らして苺は肩の力を抜く。
「と言うか、本当に尾行する気なお前らが未だに信じられない」
真顔で言った浅葱。その言葉が聞けて満足と言わんばかりの鴇が話し出す。
「そりゃー。ちゃんと尾行するよ。そのために苺ちゃんも誘ったんだから」
「私は蘇芳先輩から誘われたんですけどね」
突っかかるような言い方の苺の言葉に、鴇の表情が固まった。蘇芳はその通り、と言わんばかりに言う。
「鴇が誘って断られたから、俺がもう一度誘った」
「だって鴇先輩だから、冗談だと思って。あ、蘇芳先輩と浅葱先輩ならそんなことありませんよ?」
「ちょっと、苺ちゃん!?」
容赦ない一言で、鴇が一人ダメージを負うが誰も気にしない。基本的に後輩らしく、礼儀正しい苺だが、鴇にだけは手加減のない態度で接する。
前々から聞こうと思っていたことを、浅葱は問う。
「てか妹、実際鴇のことあんまり好きじゃないだろ?」
「浅葱、普通それ本人がいる前で聞く?」
あり得ないでしょ、と言う鴇を無視し苺は口を開く。
「そうですね。好きではないかもしれません」
「え、嘘?」
あまりにもあっさり肯定した苺を、鴇が悲しそうに見つめる。憐れに思いつつも、浅葱も蘇芳も何も言わず、苺の言葉を待つ。
「深夜でもくだらないことで逐一メールをしてくるし、冗談でも週に一回は告白してくるし。たまに待ち伏せされて、同学年の子に睨まれるし」
段々と早口になっていく苺に、鴇は打ちのめされたように落ち込む。
鴇は自分でモテている、と自慢する。
それが嘘か真かは分からないが、浅葱はそれを軽く受け流すのが日常茶飯事で信じていない。
蘇芳曰く、誰にでもフレンドリーに接しているので、男女ともに人気が高い。特に大学に入ってからは、異様にモテている、らしい。
蘭がモテることになら興味を示す浅葱だが、鴇のことにはさほど興味はない。
それに、と未だ怒りの収まらない苺が言葉を続ける。
「今日は朝早いから、早めに寝ようと思っていたのに。深夜の三時に電話をしてくるし、朝も確認のメールを送って来るしで起こされるし。睡眠不足は鴇先輩のせいです!」
日頃の恨みを言い切った苺は、ふう、と息を吐く。
いつの間にか立ち上がれないくらい鴇が頭を抱えて落ち込んでいた。蘇芳は憐みその肩を叩くが、浅葱は特に何をするわけでもなく苺に言う。
「寝不足なら尾行に来なきゃよかったんじゃねーの?」
「それはそれです。だって面白そうじゃないですか」
両手を合わせて、笑顔を浮かべている姿は柘榴そっくりである。
面白そうなことに関して、苺も柘榴同様に積極的である。じゃあ、と浅葱は言う。
「今日その姉の方は?日曜日なら、暇だろ?」
「お姉ちゃんは最近忙しいみたいです。これからのこと、希さんと一緒に色々調べているみたいで…だからあんまり相手にしてもらえなくて」
少し悲しそうに、苺は視線を下げた。
蘭がいつも楽しそうに柘榴と希の話をするので忘れがちになるが、柘榴と希には空白の二年がある。年齢的には浅葱と同学年だが、パッと見では同じに見えないだろう。むしろ柘榴と苺が並べば、姉と妹が逆に見えてもおかしくない。
暗くなった雰囲気を打ち消すかのように、ようやく立ち直った鴇が気合を入れて立ち上がる。
「よし!とりあえずそろそろ蘭ちゃんが来るといけないから、俺らは離れよう」
「そうですね。蘇芳先輩、行きましょう」
「て、俺は!?」
苺が楽しそうに蘇芳の腕を引っ張って、その後ろを鴇が慌てて追いかける。
愚痴はたくさんあった苺だが、実際鴇とも楽しそうに話しているので嫌ってはいないのだろう。と、考えて浅葱は蘭を待つことにした。
蘭の私服を予想しながら、浅葱は図書館の入口で待つことにした。
何度か五人で出掛けたことはあるので、その時の服装を思い出す。思い出そうとしたが、実際は服装なんてあまり気にしていなかったことに気が付いた。
「――っごめん、浅葱!遅れたわ」
走って来る足音と息を切らしながらの蘭の声が聞こえて、浅葱は視線を向けた。
少し高さのある焦げ茶のブーツを履き、真っ白なレースがあしらわれた真っ赤なフレアスカートの丈は膝下。前のボタンを全て留めている薄い茶色のロングコートの襟やポケットにも、レースの装飾。
あまりにも可愛らしい格好に、浅葱は言葉を失った。
制服姿よりも浅葱好みの服装だけれど、そんなこと言えるはずがない。浅葱が黙っていたので、蘭は息を整えた後に顔を上げた。
「浅葱、どうかした?」
「別に、何でも!」
急いで顔を横に振って、視線を外した。あまりにも挙動不審だったが、蘭はそれ以上追及しない。平常心、と何度も心の中で唱える。
浅葱の様子を気にしつつ、蘭が言う。
「先に図書館に本を返してくるわね。少し待ってて」
「ああ…いや、やっぱり一緒に行く」
頷いた後に意見を変えたのは、少し離れた場所で浅葱と蘭の様子を観察している三人組が見えたからだ。蘭の登場で忘れかけていたが、尾行している三人がいる。今一人になったらにやけてしまいそうなので、蘭と一緒に図書館に入って一度姿を消した方が得策なような気がした。
蘭は浅葱と二人で出掛けることに抵抗がない。
それを喜ぶべきか、嘆くべきか。考えながら、浅葱は図書館に足を踏み入れた。
図書館で蘭が本を返して、二人でプラネタリウムに向かった。上演時間は一時間程度で、浅葱は興味こそなかったがそれなりに楽しめた。隣に座っていた蘭は始終嬉しそうで、楽しそうだった。上映が終わっても、入口で貰ったパンフレットを幸せそうな顔で眺めている。
そこそこ好調なスタートだったので、浅葱は嬉しさを知らせようと尾行しているはずの三人の姿を探した。後ろの席を振り返れば三人はすぐに見つけられたが、見つけた瞬間に本音が漏れた。
「まじかよ」
蘇芳を真ん中にして、両脇の鴇と苺は熟睡している。蘇芳の肩に頭を預けている二人は、上映が終わったことに気付いていない。
一人だけ起きていて、困った顔の蘇芳と目が合った。
両脇の二人を起こさないように携帯をいじり、すぐに浅葱の携帯に蘇芳からのメッセージが届く。
『早く行け』
たった一言。メッセージを確認した後に蘇芳を見れば、一度だけ首を縦に振った。了解、と浅葱も頷き返し、蘭より先に立ち上がって言う。
「チビ、そろそろ行くぞ」
「え?もう少しパンフレットを見てから――」
「いいから、行くぞ」
置いて行くように歩き出した浅葱に、蘭は不満そうな顔を見せたのは一瞬だけ。すぐに諦めて、浅葱を追いかける。隣を歩き出した蘭は怒ってはいない。
プラネタリウムを見れた喜びの余韻で、無言だが微笑んでいる。
心の中で蘇芳に感謝した浅葱は、蘭と一緒に早足でプラネタリウムを出るのだった。
プラネタリウムの後には特に予定はない。目的もなく蘭の歩幅に合わせて歩いていた浅葱。両手をポケットに入れながら、何か会話を、と思って話し出す。
「そう言えばさ、なんでチビはプラネタリウムに行きたかったんだ?」
その理由を聞いていなかったので、ただ純粋な興味から尋ねた。蘭ははにかみながら答える。
「だって、希が星好きだもの。私も詳しくなりたくて」
その一言で、一気に崖から突き落とされた気分になった。今更ながら始終浮かれていた浅葱だが、結局のところ蘭の心の中心はいつだって柘榴と希の存在なのだ。
だよな、やっぱりそういうことだった。と、冷静になる。
「…それで、プラネタリウムか」
「そうよ。星の知識を増やすためにも、一度はプラネタリウムにも行ってみたかったのよね。でも一人で行く気にはなれなくて、結局足が遠のいていて。だから、今回行けてとても嬉しいの」
心底嬉しそうな蘭とは対照的に、浅葱は悲しい。浅葱の心情に、蘭が気付くはずはない。それにね、と蘭の声が続く。
「今度一緒に星を見に行こう、て話をしていたの。だから星を撮るためのカメラも買いに行きたくて。でも、機械は苦手なのよね。どのカメラがいいとか、よく分からなくて」
話を聞いている限り蘭にとって、浅葱と二人で出掛けることには興味はないらしい。プラネタリウムのおまけの存在のような気がして、疎外感を感じる。
緊張したり、デートだと張り切っていたりしたのが馬鹿らしくなった浅葱。その顔を突然覗き込んだ蘭は、にっこりと笑った。
「浅葱、機械系得意よね?どうせ暇なのでしょう?それなら電気屋に付き合ってくれるわよね?」
あまりにも当然のことのように言った。行かない、とは言わせない口調。強気で自分勝手で、浅葱を振り回せられるのは蘭ぐらいだと思いながら、肩の力を抜いた。
「はいはい。どこでも行きますよ」
「よかった。でもその前にランチよね、お腹が減ったわ」
行きましょう、と歩き出した蘭の横を浅葱も歩く。
歩きながら、蘭は言う。
「最近は色々なパーティーに呼ばれるから、質素なものが食べたいわね…ファーストフードに行きましょう!」
「パーティー?」
「そう。お父様の付き添いで、色々と呼ばれるのよ」
聞き返した浅葱の言葉に、淡々と言った蘭。
一応、蘭はお金持ちのお嬢さんだったのだと思い出す。学園長の一人娘、今までは戦うことに夢中で興味もなかった、らしい。
お金持ち、と言えば、浅葱の友人にも一人いる。誰かに広める人間でもなく、自分から話すこともない無口な友人を思い浮かべて、浅葱はぎこちなく問う。
「蘇芳も…いたか?」
「いた、わね。随分前のパーティーの時は、婚約者の女の子も一緒だったと思う。でも今はイギリスに留学中、だったかしら?」
「さあ、そこまでは知らねーけど」
聞いておいて何だが、浅葱は蘇芳の婚約者のことはよく知らない。幼い頃は何度か蘇芳の家で会ったことがあるが、もう何年も会っていない。
蘇芳は家の話をするのを嫌う。わざわざ浅葱が聞くこともない。
「蘇芳、パーティーでも喋らねーの?」
「そんなことないわよ。適当に世間話をするし、作り笑いが上手よ」
「作り笑いかよ」
呆れながら、浅葱は言った。それからどちらかともなく笑いだし、楽しい時間を満喫するのだった。




