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宝石少女奇譚  作者: 香山 結月
小噺
33/59

003 男女逆転劇場

 夢だ。

 そう実感して、鴇は嬉しいような、泣きたいような気持ちになった。

 なぜか、性別が逆転している。

 射撃場で射撃の練習をしているのは、三人の少年。鴇と同い年に見える少年達の姿を、物陰から確認した鴇は思わず呟く。

「蘭ちゃん…ものすごく様になっているし」

 どうしてだろう。浅葱と同じ身長なのに、醸し出す雰囲気がクールだからか。かっこいい少年に見えなくもない。その、銃を持ち、的を狙う姿がかっこいい。

「蘭さん、もう少し。上を狙った方がいいですよ」

「分かった」

「あと、少し…そこです」

 その蘭の横に立ち、指示を出しているのは希。眼鏡を掛けて、知的なイメージの生徒会長にでもなりそうな、物腰柔らかな希。

 美少年に見える。

「拳銃苦手なんだよね」

 練習をせずに、だるそうに寝っ転がっているのは、柘榴。拳銃の引き金の部分に指を引っ掻けて、くるくる回す。

 パンッと音が鳴った。蘭の狙いは外れず、真っ直ぐに狙った的に当たった。ホッと息を吐いて、嬉しそうに希を振り返る。

「どう?」

「上手でした」

「おお、凄い」

「そう思うなら、練習しろ!」

 蘭は思いっきり、柘榴を蹴った。その容赦ない動き。柘榴は直撃した腹を抱えていて、希はそんな二人を見て仕方がないと言う顔をしていた。

 柘榴と希、蘭が男になったらこんな風になるのか、そう一人で納得した鴇は射撃場を後にすることにした。


 つまり、ここは夢の中で。

 おそらく鴇以外の性別が逆転した世界である。それはなんて面白いのだろう、と一人で廊下を歩く鴇は、顔がにやけるのが止まらない。

 さて次は誰に会うかな、とドキドキしながら歩けば前から歩いてくる三人組。

 どことなく、見知った面々。

「あ、鴇!」

 先頭を歩いていた女性に声を掛けられて、一瞬だけ、誰だ、と首を傾げる。名前を呼び捨てにして、意地悪そうな笑みを浮かべて鴇に近づいた女性。

「…陽太、さん?」

「どうしたの?変な顔してさ。まあ、いつも変だけど」

 喋り方が微妙に女だ。あと顔のパーツも所々女に変わっている。

 その横にいる大柄な、女性。山賊の頭と言われても違和感のない女性が親方。そうなると、陽太の後ろでさっきから、黙ったままの少女は一人しかいない。

 さっきから鴇を見て、不服そうに言う。

「鴇、仕事ないの?」

 イケメンが女装しても違和感ないレベル。パーツそのまま、友樹が女の子。

「…友樹先輩。ですよね?」

「頭打った?」

 首を傾げても可愛いんですが。希と同レベルで、可愛いのですが、と言いたくなる気持ちを押さえて、一人で悶えるしかない。

「夢だ…これは、夢なんだ…」

 頭を抱えて蹲ってしまった鴇に、三人とも首を傾げた。

「鴇、本当に頭を打ったんじゃない?」

「いいから、仕事」

「そうだな。行こうか、陽太、友樹」

 そのまま、ぶつぶつ呟き始めた鴇をその場に残して、いなくなってしまう。

 そのことに鴇は気が付かなかった。


「鴇くん、こんな場所で何してるの?」

 声を掛けられ、顔を上げる。ボサッとした髪、禁煙も関係なしにタバコを吸い、軍服をきちんと着ていない女性。いや、雰囲気はそのままかもしれない。

「…柊、さん。似合ってない!!!」

「え?」

 不思議そうな顔をされたが、鴇はそれどころではない。友樹を見た後にこれはない。確かに女性だけど、これはなんか酷い。陽太のようにパーツを変えてくれ。

 これじゃあ、ただの変態にしか見えない。笑いを隠すように、鴇は顔を背ける。

「お、お腹…痛いっす…」

「医務室行ったらいいんじゃない?」

 そう言われて、鴇は医務室に向かうことにした。というか、あのまま柊の傍にいたら笑い死ぬ。失礼します、と叫びながら鴇は駆け出すのだった。


 医務室の中から聞こえるのは二人の男性の声。どちらもハスキーな声で、声だけでもかっこいいと予想出来る。

 男性、つまり元は女性。

「だから、柊は駄目なんだよ」

「そうだね…まあ、それはね…」

「この前なんてさ――」

 ゆっくりとドアを覗いて、見えたのは白衣を着こなし、長い髪を後ろに束ねた香代子と金髪の外人モデルのような長身のキャッシー。

「…こうなるのか」

 医務室に、入れない。入りたくない。

 性別逆転、つまりキャッシーは男好きになったのか。それはそれで、確かめるのが怖い。もし男好きなら、何故か身の危険を感じるので鴇はそっとドアを閉め、ばれないように医務室を後にした。

 

 正直、楽しい。

 それから、後はと考える。

 会ってないのは、浅葱と蘇芳。それから食堂にいるであろう結紀とキャサリン。

「まずは食堂に行こっと」

 浅葱や蘇芳がどこにいるか分からないし、いつ終わる夢か分からないのだから。確実な方から、見に行くことにした。

「結紀、皿!」

「はーい」

 カウンターの奥に見えるのは、一人の少女というより、女性になる。

 おそらく結紀。背が高めで、楽しそうにキッチンを動き回っている様子。ああ、普通に女。よくいる店の看板娘的な存在の結紀である。

 鴇の存在に気付かないことを祈って、カウンターに座り鴇は考える。

 キャサリンの場合、男で男好きということは。逆転すると。

「女で、女好き?」

 キャサリンとキャッシーの逆転。そういう結果にならないか。

 あの、ごつい顔がそのまま女になるのか。それとも、別の結果になるのか。

 意を決して、その瞬間を待った。カウンターにやって来た、一人の女性。

「なんだ、鴇か」

「喋り方忘れてたぁああ!!!」

 カウンターにやって来たキャサリンは確かに女性だった。それも、キャッシー並みに体型まで変化しているのは、わざとか。

 わざとなのか!

 見た目は男性を意識してか、男っぽいし。下手すりゃ、ホスト風。けど、女。

「やばい…俺、頭やばい」

 妄想からこんな夢を見ているのか。まだ夢は覚めないのか。

 カウンターに顔を伏せていた鴇の傍に、誰かが近づく足音。それから、二人の少女の声。

「鴇、こんなとこで何しているわけ?」

「サボり?」

 どことなく聞いたことのある声。顔を上げるとほぼ同時に、二人の少女は躊躇いもなく鴇の両隣に座った。

 間違いなく、いや、絶対にそうだと確信しつつも、聞いてみる。

「…浅葱、と蘇芳?」

「鴇、馬鹿なの?」

 小さい、いや。元々浅葱の背は高くないけど、それより背が小さくなっている。蘇芳は蘇芳で、変わらないはずなのに。浅葱の小ささが異常。

 正確は変わったのかな、と聞いてみることにした。

「浅葱ってさ…蘭、くんのこと…」

 途中まで言って、言葉を止める。ああもう、からかうのが躊躇われるくらいに、その顔が物語っている。女バージョンの浅葱の方が、ものすごく素直。

 蘭、と言う名前で固まって、赤くなった顔。叫ばずにはいられなかった。


「浅葱が、女の子だぁー!!!」


「ざけんな!!!」

 浅葱に蹴られて、目が覚めた。脇腹が、痛い。

「…い、痛い」

「何で俺が女なんだよ!!!」

 怒っている浅葱が、鴇を見下ろしで仁王立ちだ。雰囲気、怖い。恐る恐る起き上がって、弁解をしようと言葉を考える。

「お、落ち着こうよ。それには、きっと深いわけが―」

「ない」

「蘇芳!!!」

 朝から浅葱に叩かれて、怒られて。散々な一日が始まってしまうのだった。


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