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宝石少女奇譚  作者: 香山 結月
第3章
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17 モノローグ緋

 午前中、訓練室の中にいるのは柘榴と柊の二人きり。

 蘭と浅葱、蘇芳と鴇がいなくなった訓練室で、数学の問題から目を離し、柘榴は今にも寝そうな柊に声を掛ける。

「柊さーん。ここ分かりませ―ん」

「ん、ああ。どこだ」

 肩肘をついて、寝そうだった柊は椅子から立ち上がり、柘榴の問題を覗きこむ。頭を傾げた後、柊は窓の外を見るように呟いた。

「最近の学生は難しい問題ばかりだな」

 柊の回答に、今日何度目かの溜め息をついてしまう。いつもは希に教えてもらっているだけに、柊に聞いてもまともな回答が返ってきたことがない。

「柊さん、やる気ないでしょ」

「そんなことはないんだけどね。ほら、俺って教えるってこと苦手だからさ」

 椅子に座り直し、タバコを吸い始めてしまう始末。柘榴はもはや勉強する気にならない。持っていたシャーペンを机の上に置いて、声を潜めて尋ねる。

「柊さん、希ちゃんのお兄さんの消息ってどうなの?」

 希の組織へ入った理由。希は一切兄の生存を、柘榴に話さない。生きているのか、死んでいるのか。わざわざ希には確認出来ないし、情報は一切ない。

 煙草を吸いながら、柊は答える。

「ああ、今もあの町の周辺で探しているんだがな。希くんのお兄さんらしき人は見つかっていない。偶然あの場にいなかったとも考えられるからな、何も言えない状況だ」

 柘榴は椅子に深く座り直し、考えるように少し視線を下げた。そんな柘榴に、今度は柊の方から尋ねる。

「希くんのことなんだが、柘榴くんは何故あの時。希くんが中学校にいたのか、知っているかい?」

「確か…気が付いたらそこにいたって前に言っていた気が?」

 希が何故、あの場にいたのか。

 柘榴も気になっていたから、聞いてみたことがあった。希自身が、その前後の記憶が曖昧だったと言っていたと思う。

「そう、聞いてはいるんだけど。どうも腑に落ちないんだよ。希くんの故郷からは離れているし。希くんだって、知らなかった場所にいたわけだろう。不思議なんだよ」

 柊が考え始めるので、柘榴も同じように希について考えた。

 突然現われた不思議な少女、それが希の印象だった。

 ラティランスに襲われた苺を守ってくれた。何故か誰にでも敬語で話し、時々抜けていて、でも可愛くて、強い女の子。

 出会った時から誰よりも守らなくてはいけない、と感じた子。

 希のことを守る気持ちは、きっとこれからも変わらない。

 夢は今でも見る。それは希ではなく柚だけど。それでも、夢の中の出来事は、何かの前触れのような気がして、時々不安を感じる。

「希ちゃんは希ちゃんだと思いますけどね」

 柊に聞こえないくらい、小さな声で呟いた。

 希のことを、聞かれれば結構何でも答えられる。ずっと一緒にいるから。それは蘭も同じこと。

 でも時々、遠い存在に感じてしまう。

 友達のはずなのに、まだまだ知らない二人のこと。

 一緒にいるはずなのに、心の距離が遠い。

 それはこういうことなのか、と柘榴は空へと視線を移した。




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