白亜の外交館
北の道の海から「おこしやす」に引っ越した東条です。
今月更新できるかひやひやしていましたが無事更新できました(安心)
これからも月一ペースではありますが、確実に更新していきたいと思います。新生活も頑張ります。
読者の皆様、読んでくださってありがとうございます。
*
自分たちが連れてこられたところは、白亜のきれいな建物だった。
きれいだと思う反面、自分たちが泥水をすすり、身体を痛めつけながら生きている。ひどく惨めな気分だった。信頼したわけではないが、こいつらに助けられたのは事実なのに。もやもやと黒い感情が胸中で暴れまわった。
自分とカルーを抱えているこの男は黒絹のような髪を一つに束ねてまるで女のようだったが、身体に巻き付いている腕は確かに男だと実感する力強さがあった。
あたりを注意深く見渡しながら、裏口のほうへ入っていく。
こいつも何か訳ありなのか、自分たちを利用するつもりなのか…
ドアをノックし、返事もなくドアノブを回した。するとかちゃりと鍵が開いた。鍵穴はなにの…と驚きながら暗い建物の中へ入っていった。
そこそこ長い廊下の先の部屋には男が全部で三人いた。
「どうも、こんにちは。こんばんは、が正しい時間ですが」
「いえ、お出迎えせずにすいません」
この男より年上の男が頭を下げている姿が異様に映った。
確かにこいつは強かった。そのせいか?
自分たちは年長にかしずくのが当たり前なのに、こいつらは女が尾の若造に頭を下げている。よほどの実力者か、それとも権力者か。
「こちらの子供たちはあの荒波を超えてきた」
「では……やはり」
「限りなく黒に近かったものが真っ黒になった
「リョクはどうしましたか?」
「ガーダンの男どもが回収に来たから、その後始末を」
それより、と言葉を切った男は自分たちに顔を向け、男たちに言った。
「熱を出している子が二人いるんだ。他の子も栄養失調ぎみだ。身体が冷たくなっている。温かいものと寝床を準備してくれないか?」
「かしこまりました」
自分とカルーは一度床にそっと下ろされた。
男の服は暗くて見にくいが、自分とカルーの汚れがついていた。しかしそんなことを機にした様子もない。そして躊躇なく自分たちの前に膝をついた。
「とりあえず、君たちは身体を休めなさい。危害は加えないし、安全なところだ。信用できないかもしれないが……君たちの名前を聞いてもいいかな?」
「……」
子供たちは視線をさまよわせながら縋るように自分を見てきた。そうだ、自分はここでいちばんの年長者。子供たちを守らなくてはいけない、指揮をしなければならない。考えろここで生きんくためには。
この状況で自分たちはどう足掻いても勝てないだろう。身体も弱っている。
もしこいつらがやばいやつでも身体を休めれば隙もつける。粗食で生き抜いてきた自分たちはどんな環境にだって耐えられるはずだ。
「……そっちが先に名乗れ」
「そうだね、訊ねたなら先に言わないとね。そうだな…」
言葉が乱暴にもかかわらずそれを気にした様子は全く無い。ただ名前を言われて思案顔を作っているところをみるとやっぱりヤバい奴なのかもしれない。
「俺たちは今、ある調査をしている。その、君たちが運んできたものと、君たちの存在が世界の条約に反している」
自分たちの存在を指摘されて子供たちが動揺した。自分たちは命令されたことしかやっていないのに、それが条約に反しているだと?
「正確には君たちがここにいることが問題だ。あそこの荒波からここにやってきたということがね」
だから、と続けた男は言った。
「君たちがこの先俺たちの障害になる可能性があるならば、俺は君たち不用意に情報を与えられない。だから偽名を名乗るよ。“伊吹”だ、よろしく」
偽名を名乗ると堂々と言っている。自分のあかぎれて汚れてべたべたする手に手を差しのべてきた。しかも自分たちの行動次第では動くとほのめかしている。
それでも、自分は。
「ロジャー」
手は握らず、イブキの手の甲に自分の甲を押しあてた。
*
「ロジャー、カルー、ラック、ダタン、ロマ、ベガム、ね」
子供たちが全員名乗った後、リュシオンの部下のマモスに子供たちを預けた。
ここはガーダンにあるバーデの外交館である。
安全性のため、この館はバーデが造った。そのため作っている間はガーダンとのいざこざが多発したといわれている。
今この場にいるのは南の貴族の外交担当 リュシオン、西の貴族の貿易担当 ルーシャス、そして俺 イゼア・バーデの三人である。
「ついたその日に結果を出していただけるとは…さすがカルマ様の息子ですね」
「将来のバーデも安泰そうで何よりです」
子供がいなくなり、ソファについた途端そう声をかけられ、何と反応するべきか悩む。これは龍巫をまともに使えないという俺への当てつけ勢力の言葉なのか、それとも素直にそう言っているのか。
「そう言っていただけると嬉しいです。リョクの協力によって無事証拠はつかめました」
「…鍵は普通に空いたのですね。昔より龍巫も扱えるようになったとか」
「自分の龍巫の性質は少し皆さんと異なるのでしっかり把握していないと命取りですからね」
「……」
「……」
「……」
沈黙が部屋を支配した。つ、つらい。
「バーデの扉の鍵は登録した龍巫でしか開かないようになっているのですが、…イブキ様の前ではそれも無効になるようですね」
「龍巫で鍵をそのようにしているのならそうでしょうね」
なるほど、あの時ドアに感じた違和感はそのせいか。指紋認証登録のようなものだろうが…そんなものがあるなんて知らなかった。
となると、俺の龍巫は使いようによってはすべてのカギに合致するカギになるではないか。…やばくないか。金庫からお金がなくなったってなったら疑われるパターンじゃね?これ?やばいよね。
「…クッ」
「フハハ」
今まで黙っていたルーシャスが漏らすように笑ったのをきっかけに、リュシオンも耐えきれなくなったように笑った。
「そう固くならないでください、イゼアさま」
「いじめているわけではありませんよ。ただ噂はあてにならないって言うことと、さすがカルマ様の息子だということで…」
その年でポーカーフェイスもバッチリとは…とクスクス笑いながらルーシャスは言った。さっきもカルマの息子といっているが、二度目は意味合いが違うのだろう。
「…人が悪いですね」
ちなみにポーカーフェイスをしているつもりはないが。噂もあまり聞きたくないが、カルマの息子という言葉がしっくりくるようになったということは、バーデの規格外がこの十五年間でしみついてきたということ何だろう。…なんか複雑。
「改めまして、リュシオンです」
「ルーシャスです。今回よろしくお願いしますね」
「よろしくお願いします」
あ、リョクが帰ってきた。
イブキは前世の名前から
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