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絶対零度の眼差し、とその後

あけましておめでとうございます

今年もよろしくお願いします。


 そんなわけであちらこちらとガーダンの城下町をめぐる羽目になったリョクとイゼアだが、どうにもこうにも、どんなに頑張っても馬が合わない模様。


「リョク、あそこのさ、」

「……ッチ」


 話しかければ舌打ちを打たれ、


「リョク、これってさ、」

「無能が」


 ちょっとした疑問を尋ねればこの始末。


 ここでイゼアについていっておこう。前世に日本の健全な男子高校生だったイゼア。程々に気は小さく、事なかれ主義の日和見主義者である。しかし、やると決めたからには真正面から取り組む真面目な人間である。

 気は長いと思われがちだが、チキンである。そしてストレスはため込むタイプ。絶対的に勝てない相手ならば胃痛がイゼアに襲うが、自分と同等の相手ならば―――


「……リョク、ちょっといい?」

「お前に合わせる暇はない」

「……そう」


 イゼアはにこりと微笑むと、人通りの多い道から離れるためのルートを目ざとく見つけると、リョクの腕をつかむみ、そのまま裏道に引きずり込んだ。


「っ!?てめぇ…何しやっ」

 リョクが抵抗し大声を出そうとした瞬間、彼の懐に入り込み、そのまま一本投げをして地面に投げ飛ばした。


「がたがたうるさい」

「はぁ!?」

 投げ飛ばされた拍子に背中を強く打ち付けたリョクがせき込みながら起き上り、イゼアを射殺すように睨みつけたが、イゼアはそんな眼差しを鼻で笑って、紺碧の目が絶対零度で見つめ返していた。

 急に変わった態度と雰囲気にリョクが警戒心を持ちながらふらりと立ち上がろうとする。

しかしイゼアは距離を詰めてリョクの肩に手を置き、そのまま地面に向かって垂直に力を加える。同時にリョクの足を払って地面と顔面を密着させた。

「グフッ…う゛!?」


 イゼアは起き上がらないように力の背中に膝をのせ、身体の重心を抑える。また腕をひねりあげて背中に縫い止めた。


「リョク、俺の話は聞いてもらう」

「何を…!?」

 顔は見えないが反抗心と抵抗は弱まっていない。そんな彼にため息をつきながらイゼアは言葉を続ける。

「お前が俺を無能扱いしても一向にかまわないが、当初の目的を忘れるな。お前の主は誰だ?」

「っは!まさかお前だとでもいうのか?次期領主の立場にいるからってうぬぼれるなよ!」

 俺の主はカルマ様だけだ!と言い放つリョクにイゼアは全くだと首肯する。


「そう、お前の主は領主たるカルマ・バーデだ。あの人はお前になんて命令した?お前と、俺と、二人にこの事件の調査をして証拠を集めるように命令したんだ。領主の命令ぐらい順守しろ。俺に不服があっても、あの人がお前に俺をあてがったならば、それ相応の態度をとって事件解決に励め。くだらない反抗心はバーデに戻ってからにしろ。お前とのやり取りは非常に無駄だ。時間の無駄だ。お前とこんなにふうに時間を過ごすならば、バーデ発展のためのことを考える方がはるかに有意義なんだよグズ」


 リョクの意見は一向に聞く気はないようで、淡々とイゼアは今の時間の不毛さを説いた。カルマの話を持ち出したくらいからリョクの身体から力が抜けたので、イゼアは固定していた腕を放した。


 そしてふらっと立ち上がると未だに地面と接吻しているリョクを見下す。イゼアは衣服についた土を払うと、リョクの胸元をつかみあげていった。


「俺が嫌いなら、さっさと俺から離れる努力をしろ」

「……」


 リョクもゆっくりと立ち上がると、同じように土を払う。そして沈黙した。

 イゼアは首を傾げる。先ほどまで動き回っていたのに、と。

「……おい?」

「………なんだ」

「行かないのか?俺に合わせている暇はないんだろう?当てがあるなら…」


 リョクがうつむいたまま何かを言う。しかしイゼアは聞き取れない。

「なに?聞こえない…」

「だから!当てなんてねーよ!」


「「………」」


 沈黙がその場をおそった。


「……やみくもに歩いて俺を邪険にしていたのか?」

「……もうしない。仕事に私情を持ち込んだことは謝る」

「あぁそう」

「……」

「……」

 イゼアは頭をめぐらす。

 こいつは俺より年上だが、精神年齢は俺より下のはず。しかも妙に目につくこの反抗心。貴族らしさはないが、微妙な貴族社会に揉まれたが故かもしれない。

 よし、と決めて大きく息を吸う。

 

「俺の名前はイゼア。年は15。今回の女装は不本意です。さっさとバーデに戻りたいと思っている。投げ飛ばしたことも悪いと思っているが謝る気はない。接近戦が得意です」

「……チアギク・リョク。カルマ様の元で密偵をしている。年は17。隠密や潜入などの情報収集が主な仕事だ。武器は靴に仕込んでいるが、護身術程度だ。戦闘専用じゃない」

「了解。あらためてよろしく、リョク。さっさと終わらせて帰ろう」

「……あぁ」






「で、俺が気になったことを聞いてもいいかな?」

「…なんだ」

「ガーダンは密輸をしている。これはほぼ間違いない」

 情報を一旦整理するため、イゼアは壁に背を預けながら、リョクを見つめる。リョクも無言で先を促した。

「ガーダンの密輸品はほぼ向こうの大陸のもの。ならばバーデにばれないように密輸するには安直にガーダンの海からだと考える。しかしガーダンの海は海流が渦巻いて居るため渡れない。そのためガーダンでは普段海に船を出す人間は皆無といっていいだろう」

「ならばどうやって密輸をする?」

「やっぱり海だと思う」

 リョクは眉をピクリと動かす。クイっと眼鏡を上げる様子を見てイゼアは気が付いた。投げた飛ばし衝撃で、眼鏡のパッドが歪んでしまっているようだ。


「ガーダンの海はグダリムから流れてくる海流が、アービャンから流れてくる海流に押されるように交わって、ガーダン側に渦巻くものになっている。そのため、外からは入ってこられるんだ」

「なるほど。帰りは?」

「…俺が思うに、ガーダンから帰っていないんだと思う。証拠の流出を抑えるためにガーダンが城で働かせているんじゃないかな、派遣労働者として」

 給金があるかどうかは微妙なラインだ。派遣労働者の書類がなければ正式な航路を通って自国に帰ることができないため、ガーダンにとどまることになるだろう。派遣労働者の書類はバーデで行き来の際、確認される。密輸をしているガーダンが楽に良い人件をただ等しく手に入れられるのならば。


「……なるほど。しかし密輸は夜行われているだろうが…外からくる人間も、あのガーダンの荒い海流に耐えられるのか?しかも密輸の現場を取り押さえるのは時期がわからないと無理だ」


「今回密輸に気が付いたのは前回のガーダンとの会合から約3か月たっていた。三か月に14個の密輸品に35人のアービャンの人間。大きな船ならば発見される恐れがあるし、アービャン――否、協力しているのは…」

「シェンカだな。意地汚い商人の集まりがいい船を出すとは思えない。船が沈没する恐れがあるから一度に骨董品を大量に売り出すとは思えない」

 人の数からして、密輸は割と頻繁に密輸をしていたのだろう。イゼアはガーダンの海を思い浮かべる。今は春から夏になる季節だが、バーデより下の地域はよく春嵐があるらしい。

「人と骨董品の割合から、多分船が沈没しているだろう。その際人はなんとか海流に乗ってガーダンまで流れ着いただろうが…」

「骨董品は良くて粉々で、悪くて海の底だろう」


 しかしガーダンまでたどり着けなかった人もいるのだろう。

 イゼアは目を伏せた。


「リョクは…どうしたらいいと思う?」

「俺は…密輸現場を押させるために海岸で夜待機」

「…よし、それで行こう」



 方針は決まった。






イゼアのキャラが急変。リョクが割と情けないタイプになってしまったような…

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