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マッチャの収穫とドニの不安

なんだか視点があっちこっちにうつろい気味。

もう少しで二部が終わる!

 バーデの屋敷にナギが来て、ミコトが龍巫を暴走させ、マッチャの木を育て始めてから、あっという間に月日は流れて、半年が経った。


 マッチャの木はもともと品種改良を進めていたので、大した月日もかけずに成長していった。

 マッチャの木を苗から木に成長させるために、第一段階では弱光ではなく、普通の作物と変わらず、日光をたくさん浴びで成長させる。

 そして第二段階の弱光作戦は成功したようで、問題なく成長している。無農薬を心がけて、毎日丁寧に世話をしている。


 ヒアラークのほうにも手伝ってもらいながら、マッチャの収穫が本日はじめられた。


 薬草の回収をするときは、指先に龍巫を流す。品質を下げないために、ちぎった茎に自分の龍巫を流し込むようにするのだ。

 薬草回収専門の人は、指先にほんのりと光をともす。下手に素人がやると、龍巫を流しこみ過ぎて、逆に薬草の品質を下げることがよくあるらしい。

 それを聞いたミコトは、植物にも龍巫があるからこそ、品質を悪化させるのではないか、考え始めた。

 ならば、他人の龍巫を流し込むより、葉と同じ龍巫を流し込めれば、品質が上昇するのでは?という結論に達したが、龍巫を自然と同質化してしまうイゼアならともかく、そんなことは不可能である。

 のちに、これはミコトが研究するテーマの一つになる。



 高度な龍巫操作をできない人たちは、そのまま丁寧に茎をちぎっては、籠に入れる。子供たちの同じで、ちぎっては入れて、ちぎっては入れて。

 木の高さは五歳のナギとミコトが手を伸ばせば、ちょうど良いが、大人が積むとなると腰に負担が来るようで、同じように手伝いをしていたジャンをはじめ、ドニやマリアたちは悲鳴を上げていた。


「ドニ、お前鍛え方がなってねーんじゃねーの?」

 さりげなく自分の腰をさすりながら、ドニを挑発するようにジャンが言う。

 ドニは娘の前では、かっこいい父を目指している親バカなので、そんなことを言えば、ドニの反応は手に取るようにわかる。

 実際その声にすぐさま反応したドニは、目の色を変えて反論した。


「ふざけんなよジャン!俺はまだまだいけるぜ!?お前こそ、マリアと夜の営みで腰が辛いんじゃないのか?」

「俺だって、まだまだ余裕だ。じゃじゃ馬に乗りこなせるくらい、余裕で大丈夫」

 だ、と言い切ろうとした瞬間、マリアの回し蹴りが二人の顔を横に一掃した。

 カルマと同じ紺碧の瞳が冷徹な光を宿す。その光景を見たナギは「ぴゃっ」と悲鳴を上げた。

 それを聞いたマリアはにっこりと聖母のような笑みを浮かべ、乱れたスカートを直す。「うん、やっぱりずっとこの体制じゃあ辛いわよね。適度に身体を動かすことも必要よねー」と棒読みで言うマリアに説得力はなかった。


 ミコトは渋い顔で叔母を見つめた。マリアは現在妊娠していて、そろそろおなかのふくらみが顕著になってきている。

 締め付けのないスカートを着ているが、そのスカートで足を振り回すのはいただけない。



「叔母さん、おとなしくしてください」

「なんでジャンさんとドニさん蹴ったの…?」


 ぼそりとナギが疑問を述べる横で、ミコトはマリアをいさめると、マリアがだってぇ、と言い訳をする。


「胎教に悪いわ!子供のいる前で下品なことを言うジャンとドニも!」


 マリアも二十代後半に行くはずだが、美人がやってもかわいらしいだけだった。そこで、蹴り飛ばされたジャンがぼそりという。

「胎教にわりぃって言うなら、お前のその蹴りも悪いと思うんだが」

「子供がマリアに似で、じゃじゃ馬にならないことを祈ろう」

 続けて言うドニに、マリアの鋭い視線が突き刺さるが、その空気を壊すのが、ムードクラッシャーのナギである。


「じゃじゃ馬ってマリアさんのことだったんだ!でも、じゃじゃ馬は乗るより、手綱を引いてあげたほうが、馬は落ち着くよ?」


 ドニの発言から、じゃじゃ馬をマリアだと認識したのはよいが、やはりどこかズれている。

 指摘された夫婦は顔を赤らめ、あたふたしているが、それをものともしないのが、ドニである。


「いいか、ナギ!いつかはお前も男なのだから、じゃじゃ馬を乗りこなさなきゃいけねぇ時が来るわけよ」

「僕の将来のは騎馬の名手なんだ!」

 目を輝かせて言うナギに、そーかとうなずき、神妙な顔をして腕を組む。

「名手になるためには、やっぱりさまざまな馬を乗りこなさなきゃいけないからな、若いうちはとりあえず遊べよ!」

 きらりと歯を輝かせるドニに、内容こそ理解してないものの、ナギに変なことを教えこもうとしているとミコトは察し、余っている籠をドニに投げつける。

 軽い籠は空気抵抗を受けたのを差し引いても、ミコトの腕力ではドニには届かず、マッチャの木にポサっと落ちた。

 それにショックを受けている間に、ナギとドニの会話は進む。


「なんで遊ぶの?練習じゃないの?」

「いやいや!遊んで仲良くなったら本番だぜ。練習なんてない!毎回が本番なんだ!」

「なるほど!……ドニさんはじゃじゃ馬乗りこなせるの?」

 場違いな尊敬の眼差しをドニに向けるナギ。

「いや、俺は尻を敷かれているからな……そんなところも好きなんだけどな!」


 突然愛してるぜ、ルーフィ!と叫びだしたドニに、ナギが「へっ?」と目を丸くする。そこにレイスがマッチャで満杯になった籠から別の大きな籠に入れ、空になった籠をドニに投げつけた。


「お父さん!手伝うならちゃんと手伝ってよ!」

「おっすまん、レイス!お父さん頑張るからな!」

 怒った顔がルーフィにそっくりで、これがまた可愛いんだよなぁ…と妻を思い浮かべるドニ。

 ドニは籠を避けたものの、レイスはドニまで籠が届いていた。それを目の当たりにしたミコトは目を見開いて、自分の腕を見下ろす。

 そして手をきゅっと握りしめると、新しい決意を胸に、自分が投げた籠を回収し、マッチャを摘む。


「上司も上司なら、部下も部下よね!」

「親バカ、愛妻家も度が過ぎれば手におえないな……」


 そんなことを言っているマリアもジャンも、最終的にも同じになるんだろうな…と思いながら、またミコトは収穫を続けた。











 かなりの量のマッチャが回収され、それを乾燥する。この過程はヒアラークが代行して行ってくれた。

 乾燥するために鉄でできた大きな長方形の箱が用意される。その中に収穫したマッチャの葉を投入する。

 数人でその箱を囲み、龍巫で加熱をする。加熱された鉄箱は、葉をあたため、マッチャ独特の香りをまき散らす。それを竹棒で荒くかき混ぜ続け、水気がなくなったパサパサな葉を大きなすり鉢に移す。

 大人の手でも大きいすり鉢棒で、マッチャの葉を、紅茶の葉の大きさになるくらいまで、すりつぶす。

 出来上がったそれを手に取ってみると、パラパラと手からこぼれていく。



 品の良い香りが部屋を満たしている中、それを粉末化するために石臼を引く。石臼は全部で四つ借りれたので、子供三人で一つ。ジャン、ドニ、マリアでそれぞれ一つ。


 重い石臼を必死に回しながら、ナギがぽつりと言う。

「ちゃんと美味しいマッチャになったかな…」

「それを、これから、確かめるんでしょ…」

 息を切らせながら言うミコトに、ナギは情けない顔をして言う。

「漢方、すっごく苦いからはきだしたってミコトが言っていたから……漢方を作る過程でマッチャを作っているから、苦くなって…イゼア兄ちゃんが吐きだしちゃったらどうしよう」

「……」

 確かに作りあたと味の繁栄を考えていなかった。

 ミコトはあ、と声を漏らしたが、それを一刀両断したのがレイスだった。


「ナギが言ったんでしょ!何回も試行錯誤して!やって失敗したら、またやればいいんだから!男ならびしっとしなさいよ!」

「あ、うん!」

「レイスは、もっ…と、態度を、優しくするべきだと思うけど…!女なら!」

「体力を作って!私を抱き上げれるくらい力持ちになってから、男女を語りなさいよ、このもやしっ子!」

「はぁ…!?」








 子供たちがぎゃあぎゃあと言い合う中、ドニは複雑そうな表情で見ていた。








「うちの娘がいい女になるだろうすぎてツライ」

「何意味わかんないこと言ってんだ?」

「普通なら、恐怖するだろ?」

 いつものトーンで、含みのある返しをしたドニに、ジャンの手が一瞬止まるが、何事もなかったように、そのまま石臼を回し続ける。



「…若君のことか?」

「あぁ」


 レイスはミコトの龍巫の暴走に巻き込まれたにもかかわらず、ああも変わらず、むしろ生き生きと接している。


「俺は最近の若君はちょっと前よりいい顔するようになったぁって思ってた」

 でも、娘がまた、と言いかけたとき、口をつぐみ、歯がゆそうに口をうごめかす。


「駄目だな、結婚するときおめぇらに言われたのに」

「……」

「……今さら、うぅん、今だからこそ、怖くなったの?」


 マリアの問いに首肯する。


 領主に使えるということは、命をかけて、国につくし、国を守ること。カルマに惚れこみ、ミヤからバーデに来て、土下座をしてバーデに迎えてもらった。


 一生この人についていこうと決めたある日、妻のルーフィに一目ぼれた。

 カルマを見て、人を愛する幸せを憧れていた。

 バーデに来た時から、ドニを嫌な顔をせずに迎えてくれたマリアとジャンの間に、割り込めない何かを感じていたからかもしれない。

 そんな理由を後付に、ドニは必死に彼女を口説き落し、二人の協力の元、結婚することになったあの日、マリアとジャンに言われた。


『バーデ以外に、守るものを作るなとは言わない。人は幸福を得る権利がある。だけど、俺たちはバーデの領主に仕えている。国のトップに使えている』


 バーデは東西南北の貴族に仕事を割り振ってるとはいえ、権力集中制の体制を取っている。カルマがいなくなれば、統制がとれなくなるのは目に見えている。


 だから、部下である自分たちは、バーデの人間として、カルマに絶対的な忠義を払う。彼がいることで、大切な誰かを守ることにつながるのだから。



『ドニの中で、カルマは絶対的な存在だとわかってるわ。でも、またそれとは別枠で、あなたに特別ができたわ。それはしかも一般人』



 忘れないで。

 特別ができるということは、すべてを無に還すほど、あなたを縛るということを。




 その時、いつかは家族とバーデを天秤にかけるときが来るのだろうか、と頭をかすめた。しかし、それ以上は考えなかった。




「俺は、ボスを絶対死なせない。それはあの人に惚れたのもあるし、いまでは妻を、娘を、……友人を守りたいと思うからだ」

 しかし、守るべき存在に、守りたいものを傷つけられたら。




 そのとき、俺はどうすればいい?





 自分の手は、バーデに来た初めより、大きくなり、手の皮が熱くなり、傷痕が残っている。

 昔より、守れるものは増えただろう。それでも、自分の手には限界がある。

 必ず、零れ落ちてしまうものがある。

 あの時、血の気の失せた娘を見てから、何度も思う。

 もしも、もしもと。

 終わらない、解けない問いと過程がドニを付きまとって、頭の中を支配する。

 




                         

「ばっかねぇ、これだから男はダメなのよ。特にバーデの男は!」

 重い空気と、ドニの頭でちらつく家族をばっさり切り捨てたのは、マリアのため息とその一言だった。


「ジャン。あんたもドニの話を聞いて、どうせそんなことを思ってたんでしょう?自分も将来、そんな恐怖を持つときが来るのだろうか、ってね」


「……」

 図星のジャンは何も言えない。

 それにまたもやため息つく。


「カルマだって、そんなときがあったわ。あの子は愛情深いから、一時はユキハが世界のすべてのようなときがあったけど、カルマは領主よ。責任がある。……その時、ドニと同じような不安を言っていたわ」


 全くバーデの男がこうなのは領主のせいかしら。だから女がしっかりしてないと、男がだめになるのよ。女も気を抜きたいときがあるって言うのに、おちおち気が抜けないじゃない。

 マリアがバーデの女が気が強い論を心の中で呟く。


「ドニ、今日思ったこと、そのままルーフィに言ってごらんなさい。あとレイスにも」

 子供だって、わかっている。何が大切なのか、何を大切にしているのか。


 子供はあっという間に成長している。大人が全く知らないうちに。


 病室から抜け出し、ミコトに真正面から啖呵を切ったレイスは、かつてのドニを思い出させる。



 そして、ミコトは。

 かつてのカルマにとても似ている。今では想像もできないくらい、繊細だったあの頃の。





 部下には見せない繊細な一面を、ユキハはいつもやさしくなでていた。






 子供たちは、元気よく騒いでいた。

 まるでいつかの自分たちを見ているようだった。















「というか、俺はミヤの人間なんだけど」

「今さら何言ってんの?すっかりバーデに染まっている人間が」

「いまさらほかの色を塗り直しても、下地が濃すぎて意味がねぇよ」


「…全く、お前ら夫婦にはかなわねーよ」

 すこし視界がボヤついて、頬がぬれた気がするが、気のせいだろう。





シリアスパートから脱するときの雰囲気を書くって難しいよね。

シリアスかくよていなかったんだけど。

次はマッチャの完成と、シフォンケーキ作りです。

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