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起床


 多分、夢だ。

 あたりは真っ暗で、自分の身体だけがはっきりと見える。

 上も下も右も左も何もない空間で、立っているのか、寝ているのか、漂うように身体をこの不思議な空間に放り出していた。


 ふと視界の隅で光るものがあったので、顔だけをそちらに向けると、黒い黒い空間の奥に、ぽつりと光る何かがあった。

 

 身体を動かし、そちらに向かうと、いつのまにか歩いていた。

 光は優しく、少しまぶしく思えるけれど、心地よい。それに向かってまっすぐ歩き続けると、そこは大草原だった。


 だだっ広い草原と、雲一つない青空。

 夢とは自分の知っているもの以外は作りだせないのではなかったか。

 引きこもりに近い僕は、こんな広々とした外の景色を目にした覚えはない。


 サクサクと草を踏み、なんとなく歩き続けると、いつのまにか大樹の前に来ていた。


 おかしい。

 いきなり大樹が出てくるっておかしい。こんな気があったら、見渡したとき、目に入るはずだが。

 訝し気に気を見上げると、葉が生い茂るところに、人影のようなものが見えた。



「…だれ?」


 顔は見せないが、こちらをうかがうような視線を感じる。それが居心地悪い。

 もう一歩踏み出そうとしてが、身体が動かなかった。


「…!?」

「…因果なもんよ」


 一言聞こえた。

 しかし、それは消えゆく足元に気がとられた僕には、何がと問いかけるだけの余裕はなく、そのまま僕の思考は溶けていった。







「ミコト!」


 誰かの声だと認識する前に、ぱっと目が覚めた。視界と思考は驚くほどはっきりとしていて、先ほどの声の主が兄だということをすぐさま理解する。寝起きの悪い自分には考えられないことだ。

 ここはどこだと見渡せば、自分の部屋で。自分の横にはナギがすぅすぅと寝息と立てている。


 自分がいつ寝たのか遡ってみるが、驚くほどクリアな思考とは裏腹に、全く先ほどのことが思い出せない。

 すると、兄がこれまでの経緯を簡潔に話してくれた。


「ミコトは子供の時に起きる『龍巫の暴走』状態になったらしい。これは。龍巫は多い子供ならだれでもなりうる。バーデ家のある意味慣例事項らしいよ」

 俺はなかったけどね、と淡く笑いながら、僕の髪をやさしく撫でる。


 そこで、やっとおぼろげながらもレイスに対して怒っていた気がするなぁということだけ思い出す。

「レイスは?」

「ん?龍巫の枯渇状態に陥ったけど、今は安定しているよ」


 ……それってやばくない?

 …ドニに暫く近づかないことをお勧めするよ。


 にこりと固い笑みをきらめかした兄が、いささか頼りない。


「そういえば、」

「ん?」

 普通に会話で着ているなぁとは口に出さず、

「夢を見たよ」

「へぇ?どんな?」


「真っ暗な空間にいたんだけど……光が見えたからそっちに歩いていったら、すごい広い草原と、雲一つない青空が広がってた」

「……草原?」

 何かに引っかかったような顔を見せる兄に首を傾げると、話を促された。


「なんとなく歩いていたら、いつのまにか大樹の前に来ていた。草原を見渡したときは何もなかったのに、大樹があるっておかしいよね」

「そうだねぇ。でも……ほら、夢だし」

「うん。大樹にだれかいて、何か言われた気がするんだけど……」


「…そっかぁ。でも、嫌な夢じゃあなかったんでしょう?」

「…多分?」

 しいて言うならば落下の時の、胃液がせり上がってくるような浮遊感だろうか。



 二人の会話で目が覚めたのか、ナギもパチッと目を覚ました。相変わらず寝起きがいいなぁと思っていたら、突然抱き着かれた。


「ミコトっ」

「ナギ?」


 二人の抱擁にうらやまし気にイゼアは見るが、イゼアのことなど視界に入らないようで、ナギはミコトにまくしたて始める。

 あ、これがいわゆる幼少期に育む純愛ってやつ?それとも早めの青春ってやつかな?

 疎外感が抱きつつ二人を見守る。

 チュリオン夫妻は本当に子育てがうまいようだ。うちの父さんも見習うべきである。いや、本当にマジで。

 カリスマ性はあっても子供はついていけないからね。ついていけるのは部下とか、父さんのファンとか身内とさぁ。

 ……俺、身内か。

 なんだろう、この泥沼にはまっていくこれ。あれか、ネガティブ思考発動中か。

 反抗期かなぁと自分を振り返っていると、ミコトとナギのイチャイチャに、水を差すものが登場した。



 言わずと知れたレイスであるが。


「って、おかしいだろう」

「なにがよ!」

「お前、まだ絶対安静のはずなんだけど。そしてドアはノックして、返事をもらってから入りないさい」

「生意気ね!」

「同い年だよね?」


 先ほどまでは顔色悪く横たわっていたはずだが、こいつはなぜこんなに元気なのか。そして見張りはどうした。


 イゼアとレイスが言い合っていると、ミコトがレイスに対して謝るべきかと頭を悩ませていると、ナギが頭をよし良しと撫でる。


 怒鳴るレイスにため息をつくイゼア。悩むミコトに、慰めるナギ。

 いささかカオスな状況が、レイスを探しに来るメイドが来るまで続けられた。





 

 


 探しに来たのはメイドとマリアだった。

「こらっレイスいないからびっくりしたじゃない!」

 ドニが発狂する前におとなしく戻りなさい、と絶対そっちが本音だろうということを口にしながら、レイスの背中を押し、救護室に戻るよう促す。

 レイスはお父さんはあとでいいの!といい返しながら、ミコトの所も迄ずんずんと進んでいく。

 その歩き方に気品はなく、暴走系のマリアでも動きに気品があるところを見ると、二人は正反対である。


「ミコト!」


「何」

 短く、鋭く聞き返すミコト。

 他者に対しての、というよりも、レイスに対しての遠慮はもはやない。


「暴走させたからには、これからはちゃんと精進しなくちゃダメよ!」

「…は?」


 自分の龍巫の暴走のおかげで被害を被ったことに対して文句を言われると思っていたが、予想に反してレイスはこれからのことを語り始めた。

 曰く、イゼアみたいにそつなくこなさなくていいから、ちゃんと運動したり、バーデの仕事を手伝ったり云々。最終的に引きこもるなということ長々と語られた。


 ミコトは先日、両親と向き合ったことを機に、父の仕事を手伝っているし、はじめはゆっくりでいいとアドバイスも兄からもらって、身体を動かすようにしている。

 はっきり言って余計なお世話である。


「レイスにあれこれ言われる筋合いないんだけど」

 ぼそりと呟いたが、レイスの耳はよほど壊れているのか、それとも調子がいいのか知らないが、ミコトの一言は完璧に流した。

 この点、年下の一言にわざわざむきにならないところは、年上らしいといえるかもしれない。


「レイス、いい加減落ち着いたら?お前、一応病み上がりだし、ここで倒れられると、ドニに文句を言われるのは俺なんだけど」

 イゼアの制止がかかると、またもやレイスはイゼアに喰ってっかかる。


「大体!バーデの男はヘタレが多いのよ!」

「おい」

 一応領主だぞ。ついでに本人の前だぞ。


「ミコトはねぇ、容姿についてコンプレックスを抱いているかもしれないけど!」

 人を白いと断定したお前が言うのかとレイスに対して冷めた視線を送る。


「バーデの子供には違いないのよ!貴族として、領主としての責任からいつまでも逃げんてんじゃないわよ!」

 ドンッと足を踏み鳴らしながら、肩で息を切らし、大声で言い切ったレイスは、言葉図解も礼儀も作法も全く無いが、それを補うぐらいかっこよくミコトは見えた。

 そしてそう思った自分が恥ずかしく、また悔しくある。

 キュッと唇をかみしめる。


 するとレイスの演説にミコトと同じように目を奪われたナギは、ふと思いだしたように、いささか場違いな質問を尋ねる。


「レイスって貴族なの?」

「私は、バーデ家に使える部下よ!」

 つまり貴族ではない。


 そういえばと思い出したようにミコトが聞く。

「どうしてそこまで、」

「きまってんでしょ!気にくわないのよ!あいつが…っ」

 すぐさま怒鳴り返したレイスだが、言い終わる前に顔色を豹変させ、ぐらりと身体を傾ける。


 そこをすぐさまマリアが支え、ため息を吐きながら「ドニが五月蠅くなるぅ…」とぼやく。

 レイスをメイドに託すと、マリアはミコトの頭をよし良しと撫で、レイスについて少し教えてくれた。


「詳しく知らないけど、レイスの知り合いに貴族がいるの。その子がレイスの将来の夢を決めるきっかけだったそうよ」

 だから、レイスが言っていた言葉を胸に止めとくだけ止めておいたら?というマリアにミコトは口をすぼめさせながら頷いた。


 ナギは「…レイスって、責任感がつよいんだねぇ~」と瞳をキラキラさせながら、ミコトに同意を求める。

 それはミコトの先ほどの返事を撤回させたくなる。


 そういえばとミコトはマリアに訊ねる。


「叔母さん、レイスについて詳しいね?」

「ジャンはカルマの右腕だけど、相棒はドニだしね。あいつの結婚に漕ぎ着けさせるための協力やらなんやらしたしねぇ」

 レイスは生まれたときから知ってるわよ、とウィンクしながら語尾にハートを付けて言うマリアは若々しい。



「それじゃあ、ゆっくり休みなさいよ~」

 未だに若々しい笑みと共に、イゼアの腕をつかんでミコトの部屋から退出していった。






「お姉さん」

「ん~?」

「…叔母さんって呼んでも……怒らないの?」


 イゼアにとっては幼少のころの記憶も鮮明なため、叔母さんと呼ぼうとした時の威圧を忘れていない。


 するとマリアは照れたように髪の一房を指に絡ませる。


「だってぇ、結婚したし?それに、ね?」

 うふふふといささかトリップしている叔母の様子から、夕食時にはおめでたな報告がされるかもしれないなぁと思いをはせる。


 バーデの人間は愛情深いのか、それともいつまでも初心(新婚)を忘れないからだろうかと、苦笑いを隠せない。


「あ、でも!イゼアはいつでもお姉さん呼びでお願いね!ほら、いつまでも若々しくあろうとする気持ちが大切だと思うの」


 多分、マリアさんは死ぬまで若々しくあるだろうなぁとイゼアは思った。





第二部畳み込みに入ります!

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