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お説教


 行動力を与えたことは良いことだと思う。

 しかし、かの有名なアリストテレスが説いたように、何事も中庸メソテースが良いという。

 やりすぎてもやらなさ過ぎても行けない。人間はいつもその加減を誤り、そして、学習していく。

 つまり、ミコトは頭はいいが、経験が足りない子供としては、このような問題を引き起こす。


 何が起きたかというと、簡単に言えば悪臭騒ぎのボヤ騒ぎである。



 屋敷の厨房の裏には薪などが置かれているため、ミコトとナギは、とりあえず一番簡単な煎じ薬風マッチャを作ろうとした。

 鍋を借りて、簡易かまどを造り、ぐつぐつと煮込み始めること数十分。マチナラの葉は煮込むととろみが出てくるが、色がなかなかえげつない。どす黒い緑が不気味にぼこぼことと気泡を生み、いささか過激な香りを放っている。


「…こ、これがイゼア兄ちゃんの好きな香り……?ウップッ」

「いや、葉本来の香りが好きなんだと思うよ……。こんな異臭を放つ木を好きになるとは思えない」

 ミコトは火に加減を、ナギは鍋をかき混ぜながら、異臭に耐える。

 そして二人の意識と体力は限界を迎え、ばったりと気絶をしてしまった。


 しかし、問題はそのあとで。

 まずティータイムの時間に出るお菓子が大好きなナギは、いつもミコトを引っ張って食堂まで来るのだが、気絶した二人は当然来るはずもなく。

 不審に思ったメイドたちが数人で、書斎や庭を探したが見つからない。


 さらに十分後、屋敷全体に異臭が広がった。

 そして、仕事から帰ったカルマとドニが目にしたものは、屋敷からもくもくと上がっていく煙と、微かに風が運んでくる異臭。

 屋敷に飛び込んで、どこかで火事かもしれないと大騒ぎになり、煙と異臭をたどれば、そこには倒れた子供が二人。


 屋敷にいた全員が悲鳴を上げた。



 屋敷で大騒ぎになっているころ、イゼアはセセンの修復と、チュリオン夫妻のお見舞いに行っていた。

 イゼアも乗馬をたびたびしていたが、すべてセセンの馬だったため、いろいろ心配していたのだ。

 お見舞いの際に、馬の様子を見てもらえるよう頼まれたイゼアは、馬が預けられたほかの牧場を見て、それからバーデの農家の生産について頭を悩ませていた。

 バーデは技術は悪くないから、加工貿易の方向で行きたいが、消費がなければ始まらないし、そういうのは商人向けだからなぁ…。

 でもシェンカとなんて手を結びたくないし。

 一応ミヤとバーデが貿易の拠点のはずなんだけどなぁ…。

 

 ため息一つ。


 解決策が見つからないまま、イゼアはしばらくと途方に暮れていたが、その間、屋敷の騒ぎはいまだに続いていた。




「申し訳ございません!若様がチュリオン夫妻のもとへお見舞いに行かれて、ミコト様とナギ様のお世話を言い使っておりましたのに……!」

 倒れていたミコトとナギより真っ青にして謝るメイドたち。

 二人の体調はいまだ絶好調とは言えないが、吐き気は収まり、立ちくらみもない。

 そんな大人の様子を、二人は肩身狭い思いで見ていた。


 メイドの謝罪をカルマとユキハが聞いているが、今にも倒れそうなメイドたちにユキハがストップをかけた。


「落ち着いて、私も子供たちの様子を気にかけていなかったわ。仕事を押し付けてしまってごめんなさいね」

 申し訳なさそうにユキハは謝るが、メイドに仕事を言いつけるのは当たり前なので、ユキハの謝罪は、メイドたちの顔色を回復させる要素はなかった。


「いい。次は気にかけてやってくれ。仕事に戻っていいぞ」

 カルマが軽く息をつきながら、メイドたちを仕事に戻すと、肩を縮めこませている子供二人に向き合った。


「さて、ミコトをこうやって叱るのは…初めてかもしれないな」

 苦笑して呟いたカルマの一言に、ナギは信じられないとギョッとして顔を上げるが、またはっとして下を向いた。


「屋敷のことはユキハが責任者になっている。お前たちが例えこの屋敷を火事にしたとしても、現場監督としてユキハの責任になるんだ」

 そこまではわかるな?と念を押すカルマに、ミコトはこっくりとうなずくが、ナギは首を傾げて疑問を言った。


「悪いことをしたのは僕なのに、」

「僕じゃなくて、僕たち」

 すかさず訂正するミコトにならい、ナギは続ける。


「僕たちなのに、どうしてユキハ様のせきにんになるんですか?」

「それがカルマの妻としての、役目だからね」

 

 カルマの妻になると同時に、ほぼ戦場に立つことはなくなり、「仕事」から一線を置いたが、そればバーデ夫人としての役目を負うためである。

 子供を生み、主が不在の屋敷を、バーデを守り、主を出迎えるのが妻たるユキハの役目である。

 イゼアが成長して、仕事の両立を図るようになってきたが、ミコトが生まれ、まだ仕事から遠のいた身としては、今回の出来事はユキハにとって、泣きたくなるような失敗だった。


「ちゃんと見ていたら、こんなことにならなかったのに……ごめんなさい」

 カルマに深々と頭を下げ、泣いてはいないが、声は震えている。


 ユキハを一瞥して、ミコトとナギを見る。

「子供の責任は親がとる。だがな、俺はやっぱり問題を起こしたやつが責任を取るべきだと思っている」

 ナギの言い分には同意すると言いながら、紺碧を冷たく光らせて問う。

「だが、お前たち、責任を取るってどうやってとるんだ?」

 首を微かに傾げ、金髪がさらりと揺れる。

 怒ってはいないが、顔は無表情に近く、紺碧が力強く光を放ち、二人を威圧する。


 言葉に詰まる子供たちに、カルマはゆっくりと言葉を紡ぐ。


「お前たちは子供で……言ってしまえば、何もできないんだ。問題は起こすけどな」

 カルマの言葉に、ミコトの胸には無力という言葉が突き刺さる。

 そして、自分の問題を解決できずに、ユキハに押し付けてしまったという事実を改めて認識して、呼吸が止まりそうになった。


 僕は、またお母さんを悲しませてしまった…!


 頭の中で、どうしようとそれだけがある。

 半分止まっている呼吸により、頭が真っ白になって、気絶寸前というときに、カルマの言葉が耳を打った。



「だが…そんなもんだ」

 冷たい雰囲気をはらむカルマの言葉が、ふっと軽くなり、二人は同時に顔を上げた。

 ナギは罪悪感でか涙をため、ミコトは目を見開いた。


 カルマは、二人の様子を冷静に見つめながら、ミコトがまた偏った方向に行きそうだなと心配する。ナギは理解が遅いが、ものの本質をしっかりとらえているなと思った。

 しかし、カルマの思いとは裏腹に、普通の五歳児よりは、ナギは頭の回転も速く、ミコトと付き合うようになってからは、それに拍車がかかっている。

 ナギも罪悪感に打ちひしがれながらも、ちゃんと責任について考えを巡らせていた。


 ミコトはこのような責任が付きまとう問題だと、咄嗟に固まってしまうが、ナギはミコトと違い、応用が利くようだと評価したカルマは、ミコトは言い友人を得たものだと、微笑んだ。


「お前たちが今回したことは、周りに心配させて、異臭をまき散らし、体調不良者を出させたことだ。匂いってのは意外と恐ろしいものでな。セセンの時もそうだっただろう?」

 ナギに問いかけると、こっくりと首肯する。


「…どうしてあんなことを始めたの?」

 二人と視線を合わせて、ユキハは問いかける。

 ナギがすぐさま口を開いたが、うぅむと悩んで口を閉じた。

 ミコトは逡巡して、ゆっくりと説明し始めた。



 ……



「つまり、イゼアの好きな「マッチャ」というものを作ろうとして、うまくいけばチュリオン夫妻の薬としてあげたかったのね?」

 ユキハがそう言うと二人は同時にうなずいた。


 ユキハがカルマを見上げると、どうしたものかと珍しく困った顔をしていた。


 先日の一件から、家族の仲を意識するようになったカルマとしては、イゼアの好きなものを送ろうとしたミコトも気持ちもわかるし、イゼアの好物なんて知らないので、「マッチャ」というものが気になる。


 それを察したユキハは、言葉を選びながら二人に言う。


「まず…薬になるものは、毒にもなるわ。ある人にとっては薬かも知れないけど、別の人にとって毒にもなる。薬とはそういうものよ。すべての人に効く薬なんてないわ。そういうことは専門の人のいうことを聞かなくちゃダメよ。でも……知らないとこを知ろうとする、調べようとする意識と行動力は素晴らしいわ」

 よしよしと頭をなでながら、わかった?と諭すユキハに、二人は何ともいえない顔で返事をする。


 それを見て取ったカルマは、頭を掻きながらユキハに続ける。


「難しいよなぁ……。

 物事には、素人がやったら危険なことがある。

 何事にも、中庸が良いって言う。

 それを間違えれば、問題が起きる。

 でも、子供だからそりゃ仕方がねぇ。これから生きていくうえで、これを一つの経験と活かし、同じ間違いをしないようにする。そうしたら、ユキハに同じ迷惑はかからないだろう?…それが今回、お前たちができる最大の責任の取り方だな」


 ま、あとは屋敷のみんなに謝罪することだろうなとカルマが締めくくると、二人は立ち上がって、カルマとユキハに頭を下げて、誤った。


「「ごめんなさい!」」


「次は気を付けなさいね」

「あぁ」


 みんなに謝ってきますと走り出した二人を見送る。

 バタバトとかけていく足音が聞こえなくなると、ユキハとカルマは向き合った。

 ユキハが何か言おうとすると、カルマが軽く口づけをしてそれを遮る。


「次はない、だろ?」

「……うん!」





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