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マチナラの木と抹茶

久々の更新です。


* 


 

 それからというもの、ミコトは外へたびたび出るようになった。

 自分が持っている知識と事実の検証は、飽きることなく繰り返される。

 外に出るようになり、メイドや部下たちとも会話をするようになった。

 ミコトの態度の軟化に、屋敷のものはそろって、「これもナギが来てくれたからに違いない」とナギを大絶賛した。


 今、ミコトは庭の木の上にいる。マチナラという木で、兄のイゼアが好んでいることを聞いて、ナギに木登りの仕方を教えてもらい、ずり落ち、すりむきながらようやく上り詰めた。

 達成感をにじませつつ、木々が空を奪い合い、木漏れ日なしている心地よい空間で一息ついていた。


「ねぇミコト、どうしてマチナラの木をイゼア兄ちゃんは好きなのかな?」

「匂いが『マッチャ』なんだって」

「マッチャ?」

 何それと首を傾げるナギに、ミコトは植物図鑑に載っていた説明を思い出す。


「このマチナラの木の葉っぱを、加工すると妙薬になるんだって」

「ミョウヤク?」

 またもや何ぞやという顔をするナギに、ミコトは嫌な顔一つせず、丁寧に説明する。

「妙薬っていうのは、不思議な効果をもたらす薬のこと」

「ふーん。じゃあその妙薬がマッチャなのか?」

「多分?」


 曖昧に頷くミコトに、ナギはからりと笑った。

「ミコトでも知らないことがあるんだなぁ!外は本当にいろんなものがあるなぁ!」

 当たり前でしょと返事をしつつ、自分の好奇心を受け止める外が、世界がミコトは好きだった。

 どうして今まで外をこんなにも怯えていたのだろうか。

 ―――否、忘れていない。自分の異色を。


 今でもあの悲しみを忘れることはないけれど、忘れそうになる。しかし、それを悪いことだとは思いたくなかった。

 外に連れ出してくれるナギが心強くて、安心する。外は好きだけれど、きっとナギがいなければ、外に出ることは出来ないだろう。

 そうして気づく。今は普通にバーデの屋敷に滞在しているナギだが、ナギの両親の怪我が治り、セセンの建物の修復が終わったら、今のように一緒にいることはかなわないだろう。


 ナギがいつかは、いなくなる。

 そのことを今更ながらに自覚して、背中に冷や汗が伝った。


「……ナギ、お父さんとお母さんのけがは?」

「この前いった時は、まだ火傷が直っていなかったけど、起き上がれていたよ」

「火傷は長引くからなぁ……」

「うん。なんかいい薬……クスリ……妙薬!」

「えっ?」


 少し悲しそうな表情を一変させ、ミコトを掴みかかるように顔を近づけ、まくし立てる。

「マッチャ!妙薬!作ってみようよ!」

「はぁ!?」

 突拍子にないことを言いだすナギに、ミコトは驚愕する。ナギの勢いと驚きにより、手をかけていた枝から手を滑らせ、体勢が傾く。

 ひゅっと息が漏れる。

 落ちると理解すると同時に、グイッと力任せに引っ張られ、ナギに勢いよくぶつかるが、落ちはしなかった。


 心臓がバクバクと、息は乱れる。

 暫くそれしか聞こえなかったが、二人は目を合わせ、同時にため息を吐きだした。


「ごめん!」

「いや……」

 

 なぜだろうか。急に気の上にいることの恐怖を覚えた。

 下に視線をやると、地面との距離にぞぞっと鳥肌が立つ。

 ぱっと視線をそらして、降りてから話そうとナギに持ちかけようとするが、自分は今ここから一人で降りれるだろうか……。

 もう一度、下を見て、何故だかわからないが確信した。


 無理だ。







 いわゆる高所恐怖症になったミコトは、全力でここが気の上だということを頭の隅に追いやり、意識をナギに集中させる。


「ナギ、マッチャが妙薬とは言っていたけど、多分飲み薬のはずだ。火傷は塗り薬だと思うよ」

「それをぐびって飲んだら、あっという間に治るんじゃないの?」

「違うと思う」


 バーデの医療は発展している。勿論薬についても。

 しかし、原材料がここにあるのに、作られていない。それは妙薬というものが、伝説化されているのかもしれない。

 もしあったとしても、怪我人や病人に使われていないはずがない。つまりそれは万能なくする出はないことを意味している。

 そう説明すると、ナギはいかにも残念そうに、「そっかぁ…」と呟いた。


「でもさ、体にいいなら、差し入れとかできないかなぁ…?」

「でも、薬となるんなら、お医者さんが指定していない薬は飲んじゃいけないと思うよ」

 効果も実証されていない薬を渡すこともはばかれる。


「じゃあ、イゼア兄ちゃんの好きなマッチャ!作ろうよ」

「つまり妙薬でしょ?」

「兄ちゃんは妙薬とは言ってなかったんでしょ?」

 ねえねえと食い下がってくるナギに、ミコトはイゼアを思い出す。


 先日の一件があってから、両親はもちろん、今まで避けていた叔母や部下、メイドたちとの仲がよくなった…はず。

 しかし、長兄との距離はいまだに開いたままである。


 ミコトは自分の浅ましさを自覚したうえで、今まで通りに接してくれていたイゼアとどう向き合えばいいのか悩んでいた。



 ナギがいなくなってしまうなら、悪いけどチュリオン夫妻の怪我は長引いてほしい。しかし、妙薬にも、兄が好きなマッチャにも興味はある。


 悩んだ末に……葉のたくさんついた細い枝を折った。


 表情を輝かせるナギに、木漏れ日がかかる。

 ナギは、若葉が似合う。自然が、光が、似合う。







 材料もゲットしたし、さっそく降りようと促すナギに、ミコトは降りれないと首を振


ると、ナギだけ先に降りて、暇そうな部下を連れてきて、下ろしてもらった。


「はは、ミコト坊ちゃんもやんちゃだなぁ」

「急に…怖くなっちゃって」

 銀髪をなでる手は、いつもの手と違うことに違和感を感じる。

「若は降りれないなんて言う暇なく、ボスに追っかけられて、飛び降りていたからなぁ……」

 その話を聞いたミコトは、イゼアのすごさを実感した。




うーむ、ミコトとナギをフラグ立てたい。いや立てるけど

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