夕食時
2月の初めての更新です
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夕食時、屋敷の半分以上の人間が出払っていた。残っているのはメイドとコックぐらいである。
自分のことは自分でやれるようにと、ユキハに躾けられている、イゼアとミコトは何ら困ることはない。もちろんナギも。
そういうわけで、食卓は三人のみ。気まずいような、心地よいような。感じ方は人それぞれの沈黙の中、食器同士が接触し、音を立てる。
夕食はムニエル。魚をきれいに食べることが苦手な子供にはうれしい料理である。イゼアは箸がほしいと思いながらも、フォークで上手に食べ、ミコトはいつもより動いたせいか、ムニエルを小さく切っては、ぱくぱくと口に運んでいく。ナギは、太めの骨があるやつがあたり、悪戦苦闘している。
スープを飲みながら、考え事をしているイゼアに、ミコトはためらいなく声を掛ける。
「イゼア兄ちゃん、みんなどこに行っちゃったの?」
熱いスープをふぅふぅと冷ましながら、ナギは一つ目の疑問をぶつける。
「みんな事後処理に終われて、出払っているんだ。悪いな。…寂しいか?」
「ううん。ミコトがいるし、イゼア兄ちゃんもいるし!」
「…そうか。ミコト、午後はなにをしていたんだ?」
「屋敷の案内と…雑談」
「そうそう!ミコトね、めちゃくちゃ頭いいんだよ!」
「知ってる」
「え?」
間髪いれずに即答したイゼアの一言に、ミコトがこちらを見る。もちろん焦るのはイゼアなわけで。弟には悪いが、スルーをして、ナギの話を促す。
「イゼア兄ちゃん、西鳥っているでしょ?」
「西鳥、あぁ。必ず西に向かって飛ぶとき、螺旋を描いて、一直線に飛ぶ?」
「そう!それで、ミコトがどうして西に飛ぶか、えーと、すいそく?してね!きっとあってるよ!」
「…そう」
イゼアの視線がミコトにちらりと向けられる。それを居心地悪そうに、スープの皿を呷るように、傾ける。
冷めていないスープは、ミコトの舌に多大なダメージを与えた。もちろんすぐさま口を放し、冷たさを求めて、視線をさまよわす。
イゼアがことりと目の前に水が置いたので、小さな声で礼を言い、また呷る。
水を飲み終わり、ふぅと息をつくと、イゼアはすかさずどんな推測をしたのか尋ねる。弟との会話のチャンスを逃すような男ではない。
「ちなみに、ナギ。推測っていうのは、ある事柄をもとにして推量すること。…見当を付けるってこと」
「へぇ~」
意味がわかってないナギに説明をしつつ、ミコトの推測を聞いて、イゼアは目を細めた。
「イゼア兄ちゃんは当たっていると思う?」
「…さあ?」
ミコトの動きがぴたりと止まる。甘やかされていたわけではないが、ミコトはイゼアにそっけない行動を取るものの、されたことはない。
それが自分に返ってきたことに自覚がないまま、衝動的に口を開く。
「何が気にくわないの」
「え?」
「何が言いたいの」
兄が何か言いたいかなんて、わかるはずもないのだが、こみあげてくる感情と一緒に続ける。
ナギの疑問の声は流され、蘇芳が紺碧を射抜いた。
「…別に、ミコトの推測にイチャモンを付けるつもりはないけれど」
一旦言葉を区切り、思案するように顔を伏せるイゼアを、ミコトは睨みつける。
イゼアは伏せた顔を上げ、ナギをじっと見つめ、決心したようにうなずく。
ミコトの胸は、形容し難い怒りが沸き起こる。イゼアの何とも言えない態度がそうしているのか、視線をいちいちナギに向けていることが原因なのか。
「推測は、結局は推測にすぎない。つまりそれがあっている可能性は、確かめない限り、五分五分ってこと」
「…つまり、」
「わかった!確かめろってことでしょ!」
ミコトの言葉を掻き消して、ナギがドヤ顔で言い切る。
イゼアは苦笑を浮かべつつ、肯定する。
「そう、検証しておいで。二人で」
それは、ミコトとナギで外出を許可する言葉で有り、強制でもあった。
ミコトは顔から血の気が引いていく。
バーデ家の次男は、もちろん銀色、そして紺碧の瞳でないことは、バーデ全土に知られている。
二年前、髪が、瞳が貴族にの前にさらされた時、僕は何を言われた?
いやだといいたい。今度は誰に陰口を言われるのだろう。母に悪意のある視線を向けられてしまう。そして―――兄は。
先ほど水を飲んだにもかかわらず、喉がカラカラになり、何も言えないミコトは、目の奥がツンと痛み、ぼやけていく視界に、思わず顔を伏せる。
「じゃあ今夜から出発だね!」
「…え?」
朝からじゃないのだろうか。
「夜のうちに西鳥を見つけておかないと、朝になって、ばたばたしちゃうよ」
それもそうだ。
「比較的、バーデの夜は早いからな。二人が騒がなければ見つからないだろうし…。多分危なくないから、大丈夫だろう」
イゼアは、大体、三時くらいに行きなさいと、子供にはなかなか酷な時間をさらりと言う。
驚いて、潤んだ視界が、ぽたりと零れ落ちるものと一緒になくなり、ナギとイゼアとの会話に顔を上げる。
「うわぁ、早い」
「ご飯も食べ終わったみたいだし、二人とも歯を磨いてすぐ寝ちゃいなさい。朝早くに起きるから、しっかり睡眠取っとけよ」
「僕はミコトと一緒でいい?」
「…え、うん」
「やった!」
「おしゃべりしないで、早く寝ろよ」
二人を追いやるように、ポンポンと背中を追いやるように、たたく。
「うん、わかった!おやすみ!イゼア兄ちゃん!」
「……おやすみっ…うわっ」
ナギに腕を引っ張られ、転びそうになりながら、二人は寝室に向かった。
二人の背中を見送りながら、イゼアは何とも微妙な表情で、ため息を一つ。
うれしいのか、うらやましいのか。
ミコトがいた席に残る、塩水がシミを付けて残っていたのを、撫でる。
そして立ち上がり、食器を持ち上げ、片づけを始めた。その後、すぐに駆けつけたメイドに仕事はとられ、自分も寝室に向かっていった。
誰かの視点というよりは、客観的に書こうとしたのですが、描けているでしょうか。というか、短いな




