銀猫とモンブランと西鳥
今月ラストの更新かな。明日も行けるかな
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屋敷を一通り案内し終わると、二人はとりあえずテラスで一休みすることにした。
忘れがちだが、ここは一応領主の館で、それなりに広い。ミコトは普段行き来するところが、自室か母の部屋か、図書室ぐらいしかなく、久々に歩き回ったせいで、ミコトの体力はすでに限界に達していた。
自宅で遭難もありうるかもしれないな…といささか恐怖を覚えるが、体力づくりをするくらいなら、本を読みたい。……兄は効率よく、両方やっていたようだが。
紅茶のお供をするのは、嬉しいことにモンブラン。
目の前のモンブラン二つ―――ナギは、こげ茶の瞳をキラキラさせながら、モンブランを口に運び、これまた幸せそうな表情を浮かべている。
その様子を見て、ミコトは一瞬、共食いという言葉が頭によぎったが、自分も同じようにモンブランを口に運ぶ。
確かに、ナギがあんな表情をするくらい、このモンブランは美味しい。
傍から見たら、無表情兄でも、甘いものが好きらしく、メイドは微かにほころぶ顔が見たくて、よくお菓子作りをするようになった―――と前、エイダが言っていた。
兄弟そろって甘いものが好きなのですね、といわれたあの時は、いつだったか。うれしかっただろうか、それとも。
甘いモンブランに、甘めの紅茶を口に運ぶ、気まずくない、心地よい沈黙。
鳥がバサバサと飛び立つ音と鳴き声が聞こえ、顔を上げると、鮮やかな青空と、黒い影が目に映る。螺旋を描いて、一直線に飛んでいった。
目を細めながら、なんの鳥かと考えていると、ナギが沈黙を破った。
「西鳥だね」
「西鳥?…よくわかるね」
じぶんはそこまで視力は悪い方ではないが、この距離からだとさすがにわからなかった。目がいいの?と聞くと、首を振られる。
「ちがうよ。いいほうかもしれないけど、わかんないや。でも、飛び方とか、泣き声とかでわかるよ。西鳥は西に向かうとき、必ず、くるくると回って、勢いをつけて、一直線に飛ぶんだよ」
だから、西鳥。
どうやって西ってわかるんだろうねぇというナギは、また紅茶を口に運ぶ。
「……なんの本に載ってたの?」
図書室にある動物の図鑑、もちろん西鳥についても載っていた。けれども、ナギが今口に出したようなことは書かれていなかった。
「え?毎日見てたら、そりゃあわかるでしょ。えーと、言うなれば、経験談?てやつ?」
「経験…」
自分は、いろんな本を読んだ。だから、いろいろ知っていると思う。でも、ナギは本を読まずに知っている。
知らないものがたくさん詰まった、本。いや、自分からみたら美味しそうなモンブラン。彼を食べたら、もっといろんなことが知れるのだろうか。
「……どうやって、西がわかるか、だっけ?」
「え?うん」
「西鳥をいつも見る時間は?」
「んーと、お昼が過ぎて……二時?くらいからかな。ヤコウセイではないけど、暗くなるちょっと前くらいにご飯を食べるって、お父さんが言ってた!」
「夜行性ね。…ご飯は?」
「虫とか、木のみとか。でも、昼間に西鳥が、木のみを食べているところは見たことないかも…」
怪しい発音をしながら、過去を頑張って振り返るナギから得た情報から考える。
「…多分、太陽を追っているんだ」
「太陽?…あ、東からのぼって、西にしずむもんね!」
「昼だと、太陽は南にあるからね。だから午後から。太陽が当たっている方が、温かいし、虫もいるはず」
「なるほど。でも、なんで朝からじゃないのかな」
「…朝に、木のみを食べているんじゃない?」
朝に木のみを食べて、午後になれば太陽を追って西に飛び、虫を食べる。暗くなれば、また木で休み、朝になって……と繰り返すのではないかと推測する。
「へぇ!ミコト、物知りだね!」
「…ちがう、これは推測にしかすぎない」
「すいそく?…あ、なんで朝と夜で食べるもの変えるんだろう?」
「…わかんない」
情報がないし。
「そっかぁ~」
残念だね、といいながら、しかし全く残念そうには見えない表情で、紅茶を飲むナギ。
そうだねと相槌を打ちながら、この胸に感じるものは何だろうと考える。
胸に違和感が感じるときは、大抵、痛い。それで、喉が締まるように苦しくなる。
でも、今はいたくない。どきどきとしている。
ナギとのたわいない会話を続けながら、胸はまだ、ドキドキしていた。
しばらく苛々していてかけなかったけど、今日は行けたかな?




