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銀猫から見たモンブラン(ミコト視点)

 


 市内で火事があったらしい。けが人はいたが、死人は出なかったようだ。

 兄が僕と同い年の子供を連れて帰ってきたのは、昼を過ぎてしばらくたったころだった。


 両親が退院するまで預かることになった子供はナギ・チュリオン。

 栗色の柔らかそうな髪にこげ茶色の瞳がきらめく。モンブランみたいだと思った。

 自分より外に出ているのであろう、肌は健康そのもの!という感じで焼けている。

 まるで自分と正反対のような相手に、しばらく憂鬱になりそうだなと思った。

 バーデ市民だから、もちろん紺碧に瞳について、知っているだろう。例え知らなくても、家族から浮くこの銀髪は、自分を異質そのものだと認識させる。

 自分の容姿を正面からあれこれ言われたことはない。それこそ貴族の陰口と――兄からのあの一言。

 お母さんは前に一度泣きながら謝られたが、それでも、兄と同じように好きだと抱きしめられた。

 お父さんは何も言わない。お母さんが浮気をしたなんて噂、聞いたことがありませんという態度で、いつもお母さんとイチャイチャしている。そして、よく頭をなでられる。お父さんは自分の髪質とそっくりだと笑ったのが印象的だった。

 お父さんは癖はあるが、僕ほど天然パーマじゃないけど、髪の太さとか、いろいろ似ているらしい。お母さんもそうねぇと笑っていた。兄は僕の髪が一番きれいで大好きだといっていた。

 周りの自己紹介を聞きながら、ぼんやりと思いふけっていると、お母さんに自己紹介を促された。

 次男、という言葉にどきりとする。ナギ・チュリオンから見たら、養子に見えるのではないだろうか。

 紺碧はバーデの象徴といわれるくらい、その歴史は深い。

 やっぱり五歳児でも知ってる…よね。

 まっすぐこちらを見ながらニコニコしている……モンブラン。何を思っているのだろう。僕の自己紹介を聞いても、容姿を見ても一向に変わらない態度に、不信感が湧き上がる。

 何も考えていない、理解できていない、知らない馬鹿なのか、それとも将来のために…なんて予想外に頭の回る、くえない奴なのか。

「よろしく、ミコト。…あ、ミコトって呼んでいい?」

 後者か…と思ったが、それは次の一言で間違いであることがわかった。

「ずっとあってみたかったんだ。話には聞いてたけど、すごくきれいだね!その髪と瞳!」

「…?……!?」

 言われた言葉を理解するのに時間がかかったが、容姿のことを家族以外に初めて、正面から言われて戸惑った。

 嘘やお世辞や同情や嫌悪でもない。ただ、キレイだという素直なほめ言葉。

 なんの冗談だ。

 違う、モンブランはそんなことは言わない。

 根拠はないが、ふとそんなことを思う。

 動揺して言葉が出なかったが、しばらく会話もろくにしていない兄が、同意をする。

「だろう?すごくきれいだよな」

 屋敷の者には無表情なんて言われるが、自分だけには感情をあらわに見せる兄。

 モンブランの一言に、兄は無表情を崩して、嬉しそうな、優しそうな、満面の笑みを浮かべて言い切った。

 昔言われた時と寸分たがわない、迷いのない声に、なぜか目が潤む。泣いてしまいそうだと思い、瞬きをたくさんする。下を見たら、こぼれてしまうだろうか。

 最近は困ったような顔しか見ていなかった。

 久々に見た、その笑顔は、モンブランに向けられて。

 でも、内容は自分ついて。

 喉が締まったように感じだ。心臓がバクバクと加速している気がする。

 体に異変を感じながら、兄は外で自分のことをしゃべっていたのか…だからかと納得する。

 なんていっていたんだろう。

 なんていわれているんだろう。

 モンブランの反応から、きっと好意的なことは言われていると思うけど、それでも。それは本当に兄の本音?

 よくしゃべるモンブランに相槌を打ち、頭が憂鬱から、興味、好奇心、知りたいという想いに変わっていく。

 兄についても聞こうと思ったが、本人に遮られた。…なにかまずいことでも言っていたのか。

 そして、朝とは違う、力強い声と瞳に、思わず反応する。

 紺碧と、蘇芳が交わる。

 僕に話しかけるときは、弱弱しいのに、今はどうしてこんなにも違うのだろう。それは……モンブランのため?

 モンブランを頼まれた。うれしいようで、嬉しくないのは何で?

 また、喉が締まった。

 大嫌いな兄と、興味の対象になった、モンブランを見送りながら、自分の頭を整理するために、ソファに座り、紅茶を飲む。

 しまった感じがした喉は、徐々に緩み、今では何も感じない。

 大嫌いだから、兄の行動にいら立つのだろうか。だから、我慢して、喉が締まるのだろうか。

 ……僕は、何を我慢しているのだろう?

 どうして我慢しているのだろう。

 モンブランが、キレイだといわれた時、嬉しかった、と思う。

 でも、兄に笑顔を向けられたモンブランを思い出すと、また喉が締まるような感覚に襲われる。

 どうして、

 どうして、

 どうして、


 なんだかごちゃごちゃする頭。これ以上使うと、痛くなる。

 そうして、またお茶のおかわりをもらった。

 お茶請けに、甘い、モンブランが食べたいと思った。






 箱庭で守られ育ち、警戒心が強い、蘇芳色の瞳の銀の猫は、突然箱庭の入り口に置かれたモンブランに興味を惹かれる。

 甘い、いい匂いに誘われて、警戒心を持ちながら、足をゆっくりそちらに向ける。


 今まで出ようとも思わなかった箱庭から、一歩足を踏み出すのは、きっともうすぐ。





最後の締め、ちょっとなぁ~?

モンブランを置いたのは、イゼア君?それとも、お父さんかな。

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