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距離が開いたのは、開けたのは。(ミコト視点)

早すぎる思春期でも反抗期でもない。

でも、敏い子ってたまにいるよね。



「ミコト、」

「……」

 図書室で本を読んでいると、突然声をかけられた。

 またかと思い振り返れば、案の定、お母さんと同じ黒髪に、自分とは正反対の紺碧の瞳があった。

 自分の兄、イゼア。次期当主で、戦闘スキルは秀でているらしいが、龍巫が常人とは異なり、特殊の性質を持つため、うまく扱えないらしい。

 二年前、貴族たちが言っていた。

 ゆっくりと近づいて来ようとする兄に、思わず眉をひそめると、兄の足はぴたりと止まった。

 止まった兄を無視して、読んでいた地学の本を抱えて、図書室から飛び出し、お母さんの部屋へと走り出す。

 無駄に広いと思う廊下を走りながら、兄を想う。

 屋敷のものには無表情に見えるが、気遣いができ、礼儀正しいと、主にメイドに評判だ。龍巫はいまだに操れないが、戦闘スキルは目を見張るものがあると、お父さんの部下たちも将来が安心だといっていた。

 頼りになる、いい領主になるだろうと口をそろえて言うのだ。

 きっと、そうなるだろうと僕も思う。将来、紺碧の瞳でバーデを見回し、敵を見据え、いい政治し、バーデを守る。



 昔はいろいろなことを教えてくれた。本には載ってないことや、雑学。街に出て、見て、考えたことや思ったことを。

 もっともっととせがむと、無表情とは程遠い、優しい満面の笑みで答えてくれた。

 今でこそ分かる。兄の言っていたことは、バーデの問題点や市民からの視点や意見だ。それについてお父さんと話をしているのを見たことがある。

 天は二物を与えず、なんて嘘だと思う。頭もよくて強くて、やさしくて!龍巫だって、ないわけではないのだし、考えればいくらでも今の状態でどうにでもできるだろう。

 僕は貴族の話を聞く前は、自分の兄が大好きであった。

 今はどうしてこんなにも、嫌いで、妬ましいのだろう。

 自分の嫌な感情に苛々し、お母さんの部屋に飛び込んだとき、偶々席をはずしていたのだろうお母さんに感謝をしながら、涙をぼろぼろとこぼした。

 本当は思いっきり声を上げたいが、そうしたら兄が飛んでくるだろう。そのあとにお母さんやエイダ。

 昔から僕はよく泣いていた。泣いたら兄が一番に駆けつけて、抱きしめてくれた。兄に抱きしめられると、無条件で安心できた。

 お母さんより、兄の腕が大好きだった。

 みんな僕のことを愛して、大切にしていることはよくわかる。

 でも、でも。

 どうして、こんなにも悲しいのだろう。

 兄は、周りとは違う僕の髪を大好きだと、蘇芳色の瞳は生命の色だとほめてくれたのを覚えている。

 しかし、僕が貴族たちの会話を聞いて、僕は兄への態度を一変させた。

 

 

『聞いたか?次男は銀髪の子供らしい』

『しかも紺碧ではないと来た』

『あぁ。龍巫を扱えない長男に、異色の次男』

『カルマ様は素晴らしいが、ユキハ様はいったい……』

『やはり、ユキハ様が不貞を働いたのか?』

『その可能性はは低いと思われるがな。しかし、どこの馬の骨かもわからぬ女だ』


 耳に入った言葉は、簡単に理解できてしまった。

 いくつか意味がわからなかったが、後で調べて愕然とした。

 誰のせいでこういわれているのだろう。



『しかし、次男はあれだが、長男はなかなかできるらしい』

『龍巫を強みとしてきたバーデに役に立つのか?』

『戦闘はカルマ様も将来しのぐだろうと』

『あの人が親バカらしいことは言わないだろう』

『屋敷のものに聞いたが、頭も悪くないらしい』

『ほぉ…?』

『まあ様子見だろう』

『精々バーデに不利益にならないようになってほしいものだ』


 あの人たちがバーデの将来を憂いているのはわかる。

 しかし、大好きな兄が軽視されているのがわかった。

 大好きなお母さんが侮辱されているのがわかった。

 その原因は何だ?何故だ?どうしてそう言われなければならない?


『紺碧の瞳を持たない、次男は……』

『不義の子とは言えまい』

『下手したら一家まとめて消されるさ』

『何も知らないガキだ。ほっといても大丈夫だろう』

『なにかの呪いとか…』

『まるで死神のようだ』

『バーデの将来が不安だな。不安要素しか見当たらない』

『あの女も、バーデ夫人になったからには、しっかりと責務を果たしてもらいたいもんだ』

『こんなことなら無理やりでもカルマ様に相手をあてがうべきだったな』



 自分のせいで、母と兄が。


 それから、自分の色が嫌いになった。

 兄は自分に同情していたんじゃないかって思うようになった。

 兄との距離が開くようになった。

 人を支えられる兄がうらやましくて、お母さんの悪口なんて消し飛ばせるような強い兄が、妬ましくて。

 紺碧の瞳を持ってない自分がいやで、持っている人がうらやましくて。

 紺碧の瞳がなきゃ家族と認めてもらえない気がして。

 お父さんやマリアさん、ジャンさんたちや気遣ってくれる人が、怖く感じだ。

 孤独を感じだ。

 お母さんは真っ先に僕の様子に気づいて、泣きながら謝られた。

 エイダさんもいろいろ相談に乗ってくれた。

 お父さんはこんな僕をどう思っているのだろう。



 涙が止まらなくて、お母さんの部屋から自室に行って、ベッドにダイブした。

 目を閉じて、痛む喉は空気を受け入れず、呼吸がうまくできない。

 深呼吸して、枕に顔を埋めていたら、いつのまにか寝ていた。



 ただ、寝ているとき、誰かに頭をなでられた気がした。

 大好きな匂いがした気がした。




 兄が自分に話しかけてくれるのは、同情しているからだろうか。




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