弟が生まれて5年がたちました。
展開が早い?
いやいや、気のせい気のせい
*
時が流れるのは早いもので。
時は待ってくれないのが常である。
時の大切さをわかるのは、いつだって――――
*
イゼア・バーデ、ただいま九歳です。あと一年で元服できちゃうぜ!嘘だけど。平安時代なら可能だから。これホント。
この世界の成人は十五歳。禁酒とかはないけれど、一般的に、つまり治安がいいところだと、子供にお酒を与えるのは十五歳からである。
バーデは世界で最も治安がいい地区であるため、未成年の飲酒で街で暴れるといった不良はいない。
ちょっと反抗期で、はたまた思春期で悪事を働く悪ガキもいるが、街を巡回するバーデの厳つい顔をみると、縮み上がってしまうので長くは続かない。
バーデが治安がいいのは、治世の良さはあるだろうけど、部下の凶悪な顔のおかげではないかと最近は思っている。
俺も巡回に付き合って、あちこち街を見るが、いまだに新発見が絶えない。
毎日読書に父上の過酷な修行……そう、あれは弟が生まれてから、氷弾だけだったのが実弾も入るようになり、今では九割実弾です。
信じられない。最近執拗に追尾もしてくる。
おかげで使い捨て、という言葉は信じられなくなってしまったよ。弾ってふつう使い捨てジャン。ありえないジャン。じゃんじゃん。
…とりあえず、充実した毎日、死にかける毎日、必死な毎日を送っている。
最近胃痛があるんだよね、九歳にして。胃薬常備を考えている。
して、その理由は。
もちろん父上もあるけれど……二年前は癒しだったもの、いまでは胃痛の原因になっている、我が弟である。
弟・ミコトは五歳である。
第一次反抗期は大体二歳から三歳に起こる。遅れて今反抗期…というわけではないようで。
しかし、俺は今、めちゃくちゃ弟に嫌われています。
*
「ミコト、」
「……」
屋敷の図書館の隅で、ミコトが本を読んでいた。
ミコトは大抵、母さんかエイダさんの近くにいる。それか図書館。
五歳児には厚すぎる本を読み、ものすごい速さでめくっている。
声をかけると、こちらを振り向き、わかりやすく眉をひそめ、読んでいた本を、小さな腕で抱えて、その場から去ってしまった。
俺は眉をひそめられて時点で、HPが零になり、動けなくなりました。
そして今、四つん這いになり、ショックで泣いています。はたから見たら、俺の周りだけ、ひゅぅ~と寒々しい風の音が聞こえるだろう。今の気分はまさにそんな感じ。
暫くそうやってから、自室に戻る。
ベッドに転がりながら、ミコトのことを考える。
あいつがあんな態度を取るようになったのは、確か三歳のとき。
はじめは反抗期だろうと、びくびくしていたが、所詮第一次反抗期だと、「おにいちゃん嫌い」とか「やだ」とか言われても、泣かないゆに心の準備をしていただけだった。というかお兄ちゃんとかここ二年呼ばれてないし……。
しかし、ミコトは第一反抗期といっていいのか。
ミコトはエイダさんになついているから、彼女に色々相談したりもしたが、収穫もなかった。
父上も俺も第一次反抗期と呼ばれるものは全く無かったといわれた。俺の場合は例外だが……父上、たまには人間らしさを見せてほしい。あ、愛妻家は人間らしいか。
昔から、紺碧の瞳は昔から知性の瞳といわれ、頭がいい子供が多く、第一反抗期らしきものが来ないのは、そのためではないかといわれた。ミコトもきっと頭がいいのだろうと、エイダさんに締めくくられたが。
確かに、俺の弟は滅茶苦茶頭がいいと思う。一歳くらいですらすらしゃべってたし、字もマスターしていた。
今だって、大人でも読まなそうな本を読んで、理解している。
可愛さに目がくらんだけど、あいつも転生者じゃないかと今なら疑ってしまうレベルである。ま、違うだろうけど。
というか俺の似非赤ん坊ライフは無駄だったなぁと思えるくらいだ。
……二年前、何があった?
ミコトが微妙な態度を取るようになったあの日はいつだった?
ミコトは多分、紺碧の瞳を避けている。ジャンさんになつかないのは、マリアさんの夫だからだろう。
やはり、外見のことで何か言われたが。
外見のことであれこれ言う屑は、バーデ市民の中じゃあめったにいない。
まず父上の愛妻家は知れ渡っているし、政治の手腕だって認められている、人望ある領主である。
母さんも愛夫家だし、龍巫についていろいろ調べて、バーデに役立ちそうなものとか、俺の龍巫とか調べてくれる。
俺の龍巫は相変わらず……
「あ」
いたわ。
正確は悪いけど、有能で、確かに年前に屋敷に来て、嫌味を言ってきた奴。
次期当主の癖にろくに龍巫も扱えないのか。バーデの将来は暗いとか、自分の息子のほうが優秀だとか、将来補佐くらいならしてやんよ云々。
あいつらならミコトに何か言ったか、聞こえるところでべらべらしゃべったのだろう。
バーデには、中央に領主がいて、周りに東西南北の貴族がいる。
貿易やら漁業やら国境やら外交と仕事が分担されている。
バーデは領主が貴族に命じて、そこから市民に仕事が行くようになっているので、彼らがいなくては、バーデ自体が成り立たない。
この八百年間、忠誠心が欠けたことはないが、彼らに領主と認めてもらわなくては、どうにもならないことは目に見えている。
彼らが領主について、嘘やでまかせを流したら、あっという間に広がってしまうだろう。彼らはバーデの支柱なのだ。
まぁ、頭が上がらないわけではないが、大切な部下であることには変わりはない。
が、
「想像する頭がなきゃ、優秀って言われても、しょせん屑だろ」
俺のつぶやきは、誰にも聞かれることなく、空気にとけて消えた。