表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/63

銀と蘇芳と、弟と。

第二章、スタート


 大きな産声が聞こえてから、俺は我慢できずに部屋に飛び込んだ。

 メイドや部下の人はとりあえず、部屋の前で待機させる。真っ先に子供を見るのは家族の特権だろう?

 母さんと父さん、そしてエイダさんがいる。

 父上は俺が生まれるときは、エイダさんに叩き出されたようだが、今回は意地でも付き添うと、陣痛で苦しむ母さんと同じくらい、険しい顔をして一緒にいた。

 妊娠期間いろいろ苦労はあったが、二度目の出産ということで、前回より短く終わったらしい。それでも九時間って長いよな…。

 女は強し、この言葉の根本はここにあるとしみじみ感心する。



「父上!お母さん!」

 部屋に飛び込んできた俺に、みんなが一斉にこちらを見る。

 安産だったようで、みんなほっとしたような顔をしているが、違和感がある。

「……あかちゃん、産まれたんでしょう?どうしたの?」

 赤ん坊はいまだに元気に泣き続けている。

 前世で俺は産まれてから十五分間呼吸をしていず、みんなをひやひやさせたらしい。無事に呼吸を吹き返したそうだが、俺に前世で兄弟がいなかったのは、母親がそれをトラウマになったから。…うん、ごめん母さん。

 では、何故…?

 訝しんでいると、母さんが俺をか細い声で呼ぶ。

 ベッドに駆け寄り、母さんの顔を覗き込む。

 相当体力を消耗したようで、ぐったりして、額には汗が玉のように流れている。

「お母さん!大丈夫?あかちゃんは?」

「イゼア、だいじょうぶよ。落ち着て。赤ちゃんも元気よ」

 カルマと父上に呼びかけ、赤ん坊を受け取る。

「男の子でね、弟よ。あなたとは四歳はなれてるわね」

「おとこのこか……!ねえ、早く見せて」

 母さんに抱かれて、落ち着いたのか、赤ん坊はすっかり泣きやみ、すやすやと眠っているようだ。

 逡巡して、父上を仰ぎ見る母さんに、父上は静かにうなずいた。

 母さんの腕の中を覗き込むと、赤ん坊は、顔を真っ赤にして目を閉じていた。


 弟の髪は、銀色だった。


「…!わぁ、銀色!すげぇ!」

 しかも天然パーマ!

 先ほどの両親の様子は、頭から一度抜け落ちる。

 俺は子供のように興奮して、目を輝かせた。いや、子供だけどね!

 この興奮を分かってくれる人はこの世界にいないのが口惜しい。

 佐鳴はよく本を読んでいるけど、漫画って読むのかな。

 しかし金髪でも黒髪でもない。銀髪……アルビノの可能性はあるだろうか。肌は白いが、これぐらいなら標準だろう。

 母胎にいて、日焼けしている方が怖いが。

 アルビノではなさそうなので、安心する。

 アルビノでも、もちろん問題ないが。

「父上!名前は?もう決めたの?」

「いや…まだた」

 もう少し考えようかなと思ってなといいながら、ベッドの端に父上は座った。

 そして、俺のほうを真っ直ぐ見る。

 何か言いたそうだが、俺は目を開けた弟に興味が向けられた。

「あ!目、開きそう」

「……」

 きっと俺と同じ紺碧色だろう。

 バーデ家は代々紺碧色らしいけど、紺碧って優性遺伝子なのかな。黒と紺碧だったら、黒優性だと思うけど。

 それでも楽しみんでたまらない。

 目をゆっくりと開くと、それは紺碧とは程遠い、否、正反対の赤。

 蘇芳だろうか、暗めの色だが、赤ん坊の瞳の光と対照的で、妙に目がひきつけられる。

 俺の身近な人って目力ある人多いよな…と思いながら、俺は満面の笑みを浮かべて、赤ん坊の頭をなでた。

 髪は生えそろわず、ちょっと湿っていて、頭は柔らかい。おそらく骨がまだ、ちゃんとした形に収まっていないのだろうと、力を入れないように気を付ける。


 ちなみに俺は冷静になろうと頑張っているが、動揺しまくりだ。

 え、某漫画の主人公が俺と一緒にトリップしちゃいました?生まれる世界間違えちゃいました?いや、そんなことよりどうしよう。めっちゃかわいい。猿みたいにしわくちゃだけど、めちゃくちゃかわいいよ。

 将来こいつ、サムライになるのかな。いや、バーデも場合マフィアかな。いや、サムライでしょう。

 強要はしないけどね、コスプレはしてもらいたい。


 そして、両親の微妙な反応の理由に納得しながら、これからこの子は…と一抹の不安を抱えながら、両親に顔を向ける。

 二人とも、俺のほうをまっすぐ見ていた。

 母さんは不安そうに、父上は静かに。

 興奮と冷静さを混ぜ合わせながら、俺はにっこりと笑っていった。

「すっごく可愛いね!俺、絶対この子のこと守るから!父上、明日も修行つきあってくださいね!」

 二人は、安堵したようで、俺を無言でだきしめた。



 それからメイドや部下が入ってきて、みんな結構動揺していた。ここではアルビノとかないのだろうかと首を傾げる。

 それでもみんな笑ってお祝いを始めた。

 マリアさんは二人目の甥に大はしゃぎをして、ジャンさんにしばらく子供はいいわね!と断言していた。

 ジャンさんは微妙な顔をしていたが、マリアさんの耳元で何か言って、マリアさんを赤くさせ、蹴られていた。

 結婚しても変わらない叔母夫婦に苦笑いしながら、弟の名前をひたすら考える。

 この子は将来、どんな子になるだろうか。

 バーデ家の血筋は紺碧色なのは、この800年変わらずそうだったことを考えると、周りがあれこれ憶測を言うのは目に見えている。

 母さんの謂れのないことも言われるかもしれない。

 まあその時は、その人が消されるだけだから、どうでもいいのだが。

 差別に屈しないで、この子はまっすぐ生きていけるだろうか。

 バーデなんかに生まれなきゃ、差別なんて受けずにいられただろう弟に少し同情する。

 それでも、まぎれもない、俺の初めての弟で。

 弟には悪いが、俺はバーデ家で生まれて来てくれてうれしくてたまらない。

「父上、名前……かんがえたのですが」

「お前が?」

 まあ子供が名前考えるって…あれだよね。却下されるだろうか。

「まあ、どんな名前を考えたの?教えて?」

 母さんは弟の頬をやさしくなでながら、こちらを見る。

 俺も後でベイビー肌を満喫したい。

「えと、…みこと」

「ミコト?」

 マリアさんもジャンさんも、もちろんドニさんにエイダさん、その他大勢のメイドと部下が異口同音で、その名前を言う。

 みんなハモったことにどっと笑う。

 大笑いに驚いたのか、弟は母さんの腕の中で大泣きを始めた。…元気だな。

 必死にあやしながら、母さんは理由は?と聞いてくる。

「みことって、命とか尊ぶって意味がある……って何かの本に書いてたから!その子がこれから元気に、その…」

 差別されるとは限らない未来について言うのは憚れる。

 俺、差別されないかもしれないのに、こんな風に考えるなんて、なんか嫌な奴だな…と自己嫌悪に陥った。

 言葉が続かなく、うつむく。

 すると、耳には沈黙ではなく、すすり泣きが聞こえる。

 ぎょっとして顔を上げると、メイドたちはハンカチを取り出して泣いてるし、部下たちは目頭を押さえて男泣きをしている。

 え、何。ごめんなさい。

 頭の中で混乱しながらも謝っていると、マリアさんに抱きしめられた。

 胸に顔が当たって呼吸ができない。

 ちょっ、死ぬ!みことが…!とバシバシとマリアさんの脇をたたく。

 背中まで腕が届かない。

「イゼア!………ぐすっ」

 マリアさんの上ずった声が聞こえる。え、しかも泣いてる!?

 ようやく解放されてから、父上に慌ててやっぱり父上が決めますよね―――!とまくし立てようとしたと同時に、父上が宣言した。


「よし、こいつの名前は―――ミコトだ」

 文句のあるやつはいるか?

 にやりと周りを見回して、訊ねる。


「ありませんーー!!」

 大声と泣き声と、拍手が部屋に溢れた。

 あやされた泣き止んだはずの弟、ミコトはまた泣き出した。



 よくなく弟だなぁと思いながら、ミコトを抱っこさせてもらった。

 重くて、あったかくて、柔らかい。

 俺のたった一人の弟を、ぎゅっと抱きしめた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ