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帰宅→体質と龍巫



「佐鳴のばかやろぅ…」

 そんなつぶやきで目が覚めた。

 …さて、ここはどこ。さっきと一緒だけど、ここは現実。

 周りには人がいない。…が、同じように見覚えあるある。

「あ、」

 この嗅ぎなれた匂いって言うか…

「家じゃん」

 バーデじゃん。




 目が覚めて、久々の母さん、マリアさん、ドニさん、エイダさんに会った。

 ジャンさんは仕事で出張なぅ。


 再会もほどほどに、さっそく地獄の稽古が始まった。

 父上がいつの間にか、取りに行ってくれていた木刀を手に、必死に弾丸(氷)を避ける、かわす、当たる、壊すのエンドレス。

 俺、宿で目が覚めてから、ついさっきまで寝てたことになるよね。

 船の中で普通起きない?

 起きたなら、行きの沈黙の恐怖が俺を襲っていただろうけど。

 そうこう考えているうちに、弾がデコと耳の後ろに当たって気絶した。

 やべぇ、もうちょっとでこめかみに当たってたよね…と思いながら俺の意識はシャットアウトした。

 なんかデジャヴを感じるぜ。





 目が覚めると、ジャンさんに覗き込まれていた。

「…おかえり、なさい」

「あぁ。帰った。…さっそく修行か。頑張ったな」

「んー」

 ちょっとぼやける目をこすりながら起き上る。

 要件は?と首を傾げてジャンさんを見ると、ユキハが話があるってよ、と言って、俺を抱き上げた。

 髪が湿っているなぁと撫でながら言うジャンさんに、寝汗かなと答えると同時に目的の部屋についたようだ。

 ジャンさんはノックせずに、無遠慮に入る。

 そこは初めてはいる部屋で、談話室よりは小さく、家族が集まるにはちょうどいいくらいの広さである。

 この家、否、俺から見たら屋敷はなかなかデカい。

 入ったことのある部屋なんて両手の指で事足りる。

 でも、まだ迷子になったことはない。これって結構すごいと思う。

 俺たちが入ってきたと同時に、エイダさんが紅茶の準備を始めた。

 …俺、紅茶よりココア派なんだよね。ヴァン・ホーテンとか、歴史上尊敬する人物ナンバースリーに入るからね。

 俗に言う、甘党男子だった俺は、結月とのデートは、とりあえずバイキングに行くことが多かった。

 結月には太るから月一にしてと言われ、ショックだったことを今でも鮮明に思い出せる。

 母さんと父さんが、いっしょにソファに腰を掛け、テーブルを挟んで、ドニさんが一人、ソファに横になって寝ている。

 …ボス(父上)の前でそれでいいのだろうか。

 俺は床に下ろされ、両親の元へ行く。

 ジャンさんはドニさんの頭をはたいていた。

「おかあさん、父上、なんですか?」

「ふふ、起きたのね?どこも痛くない?

 母さんは頭をなでながら、一人用の椅子に座るように促す。

 それに従えば、紅茶が目の前に差し出された。

「お砂糖とミルク、いりますか?」

「おねがいします」

 紅茶とか……前世で数回しか飲んだことないよ。もちろん砂糖とミルクは投入。

 紅茶はもちろん、コーヒーの匂いは好きなんだけど、味がなぁ…。

 のんびり甘いミルクティを飲みながら、ぼんやり周りを見回す。

 そして気づく。

 金髪が一つ足りない。

「おねえさんは…」

 どこだろうとあたりを見回すと、父上がふっと鼻で笑う。視線の先はジャンさんだ。

 視線をジャンさんへ向けると、苦虫を噛み潰したよう。

 ドニさんがにやにやしながら答えを教えてくれた。

「マリアは今、街に行ってデートしてるぜ」

「でーと…」

 マリアさんが…そんなイメージなかったのに。

 呆然としていると、デートの意味をドニさんが懇切丁寧に教えてくれた。

 いや、わかってるけどね。

「さて、イゼア。お話があるって言うのは、あなたの龍巫のことなの」

「え…」

「正確にはイゼアの体質かしら」

 母さん曰く、龍巫の一人一人の性質についてはまだわからないが、龍巫を扱う上で大切なことは、どのように龍巫を流すか。

 流すためには、身体を通し、ツールに流すため、体質が重要になってくるらしい。

「川を例えにするとわかりやすいかな。水を流す窪んだ道、つまり川筋を身体として、水を龍巫をする。川に水が流れている状態が、私たちが龍巫を通している状態に当たるの」

 川筋が体質に当たるわけね。

 ここまで分かる?と訊ねられ、こっくりうなずく。なるほどわかりやすい。

「で、川の水が増えたら、水があふれてしまうでしょう?その状態は、私たちにとって龍巫が身体から無理に吹き出ている状態になるの。そうすると龍巫が爆発して、すごい威力になるのよ」

 風船を膨らまし過ぎて爆発するようなものか?ちょっと違うけど、そんなイメージでいいのだろう。

 にしても怖いな。人間爆弾じゃないの、それ。

「俺、昔それやってユキハに怒られたな……」

 懐かしそうに言う父上。

 え、なんで生きているんだろう。やっぱり魔王だから?

 俺の表情から何を読み取ったのか、母さんは慌てた様子で訂正する。

「イゼア、人の体が爆発するんじゃなくて、吹き出た龍巫が…そうね、空気を震わす、と言えば良いのかしら。爆風が起きたりするわよ」

 つまり風が起きる原理のようなもので、風は温かい空気が冷たい空気のほうへ移動して発生する。

 無理やり吹き出る龍巫は、まるで沸騰したように熱くなり、それが外の冷たい空気と混じり、爆風が生じるのである。

 なるほど納得と首を振る俺に、母さんは父上を見ながら怒ったように言う。

「いい?人は体から龍巫がなくなると死んじゃうの。つまり川が枯れちゃうのよ。だからやっちゃダメよ。カルマだって昔死にかけたんだから!」

 昔のことを思い出したのか、泣きそうになる母さん。その様子に慌てた父上が、立ち上がり母さんを抱き寄せる。

「悪かった。あんな捨身なことは二度としない。あの時お前に誓っただろう?大丈夫だ。だから泣かないでくれ。お前の涙がもったいないだろう?」

「カルマ…」

 見つめ合った二人がチューするまであと三センチってところで後ろから目をふさがれた。 

 みんなのため息が聞こえるが、二人は相変わらずいちゃついているようだ。

 おい、やるなら夜やれ。寝室で二人っきりでやってよ!いたたまれないでしょうが!

 俺の前世の父さんと母さんは、確かに仲はよかった。父さんは尻を敷かれていたけど。でも、子供に気を使わせたりはしなかったぞ!

 俺だって結月といちゃつくときは二人っきりだった。他人がいると照れる結月を見るのもよかったけれど、周りに気は使わせていなかったはずだ。うん。


 しかし、ここに前世の友人がいたならば、声をそろえて言っただろう。

 はじめは気を使っていたけれど、気を使うのが馬鹿馬鹿しいくらい、いつでもイチャついていただろうが!リア充爆発しろって何度叫んだことか!

 その叫びは、決して伊吹と結月の愛の巣までは届かなかったのは言うまでもない。



 ふさがっていた手が離れると、父上が、母上を膝にのせていた。…同じソファに座っているのに膝にのせる意味ってあるの?ないよね。

 はあとため息をつきながら、紅茶のおかわりを注いでくれるエイダさんに、俺の頭をポンと撫でるのはジャンさん。目隠ししてくれたのはジャンさんだったようだ。ありがとう。

 ドニさんは苦笑していて、俺と目が合うと親指を立ててきた。…なんかウザい。やめろ、その同情心溢れる目をやめてくれ。

「それで、ユキハ。イゼアの体質は俺たちと違うのか?」

 話を中断されたが、父上が促してくれた

「えっとね、実際じゃありえないけれど、私たちが川なら、たとえ川筋が二つに分かれても、片方の川筋に水を流さず、もう片方にだけ水を流せるの。これが龍巫を流す、操るってこと。でも、イゼアは体質が川じゃないの」

 じゃあ何と首をかしげると、なんていったらいいか…と悩みながら先を言う。

「イゼアは、多分、海が一応当てはまるかな」

「海?」

 母さん以外が首をかしげる。

「海って川の水と最終的には一緒になっちゃうでしょう。それでいて、気ままに水は流れている」

 海の水を流れているといっていいかはわからないけど。

 母さんは苦笑しながら言葉を切る。

「…ん?よくわからん。でもさ、若って龍巫がないに等しいぜ?」

 ドニさんが首を傾げながら、根本的なことを言う。俺もよくわかりません。

「どうして気づかなかったのか…人はある程度龍巫を持っているわ。でないと死んじゃうもの。以前、染み込んだ龍巫がイゼアの体質を変えたんじゃないかって言ったけど、違うわね。イゼアに龍巫が染み込んでいるのは確かだけど…」

 んん?こんがらがってきた。

 つまり、大前提として俺には龍巫がある。これは確定していいらしい。

 そして、俺の龍巫が特殊じゃなくて、体質が特殊ってことか。

 つまり、他人に真似できない龍巫を扱う父上と母さんも、そういう体質ってことか。

「イゼアは逆に龍巫女がとっても多いの」

「え…」

 みんなが驚きで目を見開く中、母さんは続ける。

「多くて、身体に染み込んでいると思うの。そして、染み込んだ龍巫は、イゼアの体から漏れ出しているのよ。布に水をたらしたら、はじめは染み込むけれど、水を吸収できなくなったら最後、布から水が滴るでしょう?そんな感じかしら」

 俺の龍巫は流れないんじゃなくて、一応流れているのか?以前、ジャンさんが俺の中をきれいだといったのは、身体すべてが龍巫だったから?

 獲物を探してたけど、実は獲物の腹の中にいて、それに気づかなかったってこと?

 俺の身体………紛らわしいんだよーーーー!!

 ひとまず納得。

 あれ、でも龍巫が漏れ出しているなら…

「何故龍巫が爆発しないんだ?」

 俺の疑問を父さんが言う。

「それ、俺も思った!なんで?」

 すかさずそれに同意するドニさん。

「うん、確証はないけど……人それぞれの龍巫の性質はわからないって言ったけど、イゼアの龍巫の性質はほかと違うと思うの。基本、私たちは物質を硬化させたり、巨大化させる。根本的に、イゼアの龍巫は違うわ。私のおなかの中にいるときは、私の体調をよくさせた。でも、龍巫って別の人の龍巫と拒絶反応というか、合わないのよ。他人の龍巫がその人の体質に合わないってことだと思うけど」

 おかしいでしょう?首を傾げながらも、母さんの目はキラキラと好奇心に輝いているように見えた。

「でも、」

「うん?」

 思わず口から出てしまった疑問詞に、母さんは優しく反応するが、父上の視線も一緒に向いた。ぐふっ。

「…一人一人の龍巫の性質がちがうなら、父上とおかーさんも、ちがうんじゃないの?」

 夫婦は顔を見合わせる。え、違うの?

「…龍巫の扱いかたって基本他に漏らさないんだ。マネされちゃ困るからな。いかに龍巫を器用に操れるか。他人から見たら原理がわからなければ、脅威だからな」

「今まで言わなかったけど、私たちもちゃんとツールに龍巫を流しているのよ?」

 

 曰く、母さんはミヤ独特のやり方で、札に書いた文字と母さんの体がつながっているらしい。繋がっている文字は龍巫流し放題で、その札から自然万物に龍巫を通すという、連鎖を繰り広げているらしい。

 このやり方は、便利で簡単そうだが、梵字の相性で決まるので、できない人が大半らしい。

 父上は、龍巫を扱うのに長けていたようで、爆発しないような加減で、龍巫を糸のように放出し、拳銃と弾丸をつないでいたようだ。

 母さんと同じように、そこから龍巫女を供給していたらしいが、なかなか龍巫の消費が激しく、今は、ミヤの画期的なその方法を聞いて以来、弾丸に文字を付けているらしい。

 父上は相性がどうかいう前に、あっさりやってのけたらしい。

 これには母さんも驚いたと言った。いや、父上なら何でもありでしょ。

 この方法はミヤ以外されていないが、視やでこの方法を使う人はもういないらしい。

 どうしてと訊ねると、珍しく父上が言葉を濁して、「大人の事情ってやつかな…」と言った。

 ……ミヤの出来事に父上が関与している予感。なにをしたの。


 話を聞いていたメンバーの表情は、結局最強なのは変わらないってことか…という顔をしていた。激しく同意。

 結局あれかよ、とりあえず王者だよ!

「爆発しない加減で龍巫女を放出とか…」

「最強夫婦だな。…他から見たら最凶か?」

「……まぁ、そんな二人の子供ですもの、イゼアが特別なのもうなずけます」

 初めから順に、ドニさん、ジャンさん、エイダさん。…みんなきっといろいろ苦労してきたんだろうな……。合掌。

 話を戻して、

「若の龍巫が爆発しないのは、若の体質ではなく龍巫の性質ってことか?」

「んー、爆発しないことが性質なんじゃなくて、『周りのものに同一化して、自分の力、あるいは支配下に変換する』ことがイゼアの龍巫の性質だと思うの」

 空気と一体化、そして私の龍巫と反発せずに、体調をよくしてくれたと思うの、と言う母さん。

 龍巫はある意味生きる為のエネルギーだから、多いに越したことはないのだろう。

 母親が妊娠中に体調が悪くなるのは、赤ん坊という異物を抱え込んでいるから、といわれている。

 俺の龍巫で、母さんと俺が一体化したってことか。

 じゃあ、毒物とかも身体と一体化して、というか中和してくれたり!?

 いやっほぅ!!


「根拠は何だ?」

「二人の修行」

 母さんの言葉を鵜呑みにするのではなく、追求する父上が新鮮、いや違和感を感じる。

「イゼアは自分の龍巫を認識していないから、全く操れていない。でも、洩れている龍巫は木刀や身体の周り、いろいろなものに流れ、まとわりついている。その証拠に、カルマの弾丸、イゼアがはじいたものは水に戻ったのよ。カルマの龍巫がイゼアの龍巫に変換されたのよ。イゼアの頭に直撃した弾丸もそう。だから頭がぬれていた」

 話を聞いていると、まるで俺の龍巫がほかの龍巫を侵食する病原菌のように思えてならないのだが…。

 というか、母さんよく見てるな。髪が湿っていた理由は理解した。

「仮説だけど、イゼアの周りに龍巫を流したものを近づけたら、カルマの場合は追尾ができなくなったり、皆さんだったらひたすら龍巫を込めても、ただの武器になっちゃうと思います!」


「「「「「「………」」」」」」

 一気に畳みかけられた母さんの仮説に、みんなは唖然とする。

 開いた口が塞がらない、とはこのことだ。

 自分のことながら、それって結構怖いよね。

 ちょっと遅れて、ジャンさんとドニさんが驚愕の声を上げる。

 俺は驚きから立ち直ってはいたが、突如寒気が俺を襲う。そして、父上の呟きが、不幸にも耳に届いた。

「なるほど…これからは実弾でいくか。楽しみだな…」

 顔は見てない。でも絶対にやりとドS気たっぷりの声音と一致する表情だと思う。

 俺の首は、正面から右斜め四十五度を向いたっきりしばらく動かなかった。





いやっふー、

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