番外編4*カルバーンのその後と武器街
*
結局どうしたのかというと、俺は二人を逃がした。
二人はシェンカの海辺に行き、そこから海に出てミヤに戻り、港の人波に紛れバーデに帰っていった。
そして、俺は、いや、俺たちは背中を焼いた。
カルバーンには勿論女もいる。色仕事、暗殺セットだけではなく、豚の一派にいいように扱われた女たちは、「今さら傷ができることなんて些細なこと。とりあえずクソ豚の下半身は私たちがスライスしてる
」と言って、思わず男衆をビビらせた。
中には男色の豚もいた。その被害者は同じ男として構造を知り尽くしていることを利用し、言うことを憚れる拷問を決意していた。
呪印が消えると、豚どもに気づかれるのは承知の上。
カルバーンを作った豚の一派を気づかれるのと同時に皆殺しにした。
のちのち、豚の一派は人身売買をしていたことが発覚され、龍巫を与えてくれた、いるかもわからない神によって裁かれたと判明した。
俺たちカルバーンは、長に今までに握った、さまざまな情報を突き付け、シェンカ寄りのミヤの最南端に『武人』としての立場を貰い、そこで生活するようになった。
のちにそこは武器街と呼ばれるようになり、地域の盾になり、武力を高め、オーダーメイドの武器を売るようになり、神殿も手が出せないような力を付けた。
武器街が安定してから、しばらくして金髪の見覚えのある男がやってきた。
俺はカルバーン解散のいきさつとカルマ・バーデについて元・カルバーンに教え、そして宴を開いた。
ある意味、カルマ・バーデはカルバーンの英雄でもある。
もちろん、あの巫女も。
「ねぇ、カルマさん」
「…なんだ、その呼び方」
「いやぁ、そんなこと置いといて。俺とカルマさんの関係じゃないですかい」
「俺はお前の名前を知らねぇけどな」
「まず俺たち名前なんてねぇっすよ」
酒にまみれながら、カルバーンの男はけらけら笑う。
「…今までどうしてたんだ?」
「あぁ?んーみんな誰を呼びかけたとかわかるしなぁ?」
なぁ?と呼びかけると、また別の男が口を開く。
「あ、頭のことはかしらって呼んでましたぜ!」
「そらそうだ」
「「ガハハハ!!」」
カルマさんはため息を吐きながら、眉間にしわを寄せる。
カルマさんって……
「絶対世話焼きだよな…」
「は?」
おっと、思っていてことがダダ洩れていたらしい。
ヘラりと笑って、話題をチェンジ。
「そういえば、巫女さんは?連れてこなかったんですかい?」
「ユキハは二度とミヤに連れてくるつもりはない」
「ユキハ……名前覚えてたんですか?」
あの巫女はどこまで規格外なんだと驚きをあらわに訊くと、
「俺がつけた」
とあっさり言われた。
「あ、そう……あ!!」
「なんだ?」
「あーカルマさん、訊かねぇほうがいいっすよー?」
「こういう倍、お頭面倒くさいこと言いだすからー!」
「「なーー!」」
元カルバーンメンバー大合唱。
「失礼だねぇ俺がいつ面倒なことを言ったのか」
「面倒というか無茶ブリッすけどねー」
カルマは横で呟かれた言葉に、眉間のしわが一本増える。
「みんな!カルマさんに名前を付けてもらおうぜぃ!!」
「「「……は?」」」
元カルバーン+カルマさんが揃う。
あまりにも意外なことに固まった大勢をよそに、カルマさんが復活する。
「何人いると思ってんだ!誰がやるかよ」
「はい!俺お願いします!」
カルマさんの隣の奴が挙手をしてカルマさんに詰め寄る。
「オイ、俺を差し置いて何言ってんだ。一番初めは俺に決まってるだろうが」
「えー」
「じゃあ次私!」
各々勝手に言い始めると、カルマさんが思案顔をして、「条件がある」と紺碧の瞳をきらめかせながら言った。
「条件?」
「俺は……バーデ当主だからな。内政には口出しできないし、するつもりもない。でも、人権侵害などを黙って見過ごしたくもない。カルバーンは確かに解散された」
「だけど、巫女はまだだ」
カルマさんの言いたいことを察し、俺はあとを引き継ぐ。
巫女は何千年と続く、ある意味伝統でもある。それを変えるのはミヤの根本から変える必要があるだろう。
「何年かかってもいい。いつか巫女制度を廃止してほしい」
決して大きな声ではない。静かに紡がれるその内容にみんなが目を見開いた。
沈黙がその場を支配する。
一人一人、その難しさを知っている。
果たせない確率のほうが高い約束に、みんな素直にうなずけないらしい。
こいつら真面目だな…と苦笑する。
「いいよ。約束する」
だから、名前つけてよと軽い調子で言うと、バッシングのように言葉が投げかけられる。
「うっせいぞ、お前ら。俺だって、生きているうちにできるとは思ってないさ。何年たっても…何百年たってもいいんだろ?」
にやりとカルマさんに問いかけると、
「いささか長いが…待ってやるよ」
「俺らの意思をつないでいこう。巫女制度廃止は、俺たちのカルバーン復活阻止にもつながる」
豚の一派を皆殺しにしたとはいえ、同じようなことを思いつく輩がいないとは言えない。
そういうと、みんな決心がついたようだ。
「われらが英雄、カルマ・バーデのほかに、ユキハさんも俺たちの救世主である」
俺の言葉に煽られるように、みんな盃を持って立ち上がる。
「「元カルバーン、巫女制度廃止をここに誓う!!」」
うおぉぉお!と雄叫びと酒が飛び散る。
その様子にあっけにとられたカルマさんは、また若当主らしく呆けた顔を浮かべ、年相当の笑みを零した。
「その誓い、カルマ・バーデが見届けた!」
カルマさんの宣言と共に、元カルバーンは名前をねだりはじめ、宴はまだまだ続いた。
「お前は、ゼンな」
「ゼン?……その意味は?」
「ねぇよ、そんなの」
お前を見ていたら思いついた。
その日から、俺はゼンと名乗り続けている。
*
のち、武器街から一人の男が抜ける。
名前はドニ。
「俺は、カルマさん、いやボスについていって世界を見てくる!」
「誓いはどうした?」
「世界を見て、知識を付けてくるぜ!んで、それをミヤに届ける!」
「……好きにしろ!」
なんて言ったって、俺たちはもう自分の意思で決めれるんだから。
いやぁ、やっと番外編終わったぜ!
明日から2015だー。
来年も頑張ってあげていきます