表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/63

番外編1*カルマとゼンの出会い

いやっほい




 俺が初めてカルマさんにあったのは、ミヤの巫女が攫われた晩だった。


「いいか!必ず見つけ出せ!あの巫女は儂の側妃にするのじゃ!賊の首を必ず持ってこい!」

 ミヤにはカルバーンという組織がある。長の一族に仕え、表じゃ口に出せないような仕事をさせられるのが、俺たちカルバーンである。

 そのカルバーンの組織の頭であるのが俺だ。名前はない。

「複数ですよね?」

 たった一人の賊にミヤの神殿から巫女が連れ攫われたとあっては笑えない。警備はどうなっているのかとにらみを利かす。

「し、知らん!きっと複数だろう。最近シェンカで盗賊が増えていると聞く。きっとそいつらに違いない。あの巫女は儂が見初めたのだ!カルバーンなら大丈夫だろう!?早くいって来い!」

 唾を飛ばしながら怒鳴りつくす脂ぎったデブ男は、長の血縁関係者で内部分裂が起きている中で、最近上にのし上がってきた男だが、そのおかげで死体処理やら暗殺を頼まれたり、面倒な男だと、カルバーンの中じゃ不人気な男だ。

 仮にも龍巫を崇め、神を崇めるやつが折衝を率先してやっていいんですかと言ってやりたい。しかし、カルバーンはいわば奴隷のようなもの。奴隷がアービャンにしかいないって言ったやつは誰だクソ。

 ミヤの神殿に住んでいる奴らの龍巫は、ここ約千年近い間、幾人もの巫女を犠牲にしたおかげで、なかなか不可思議な龍巫を扱う。千年の犠牲にしちゃ、あんまり成果が見られず、幾人の親子が引き離され、廃人となって死んでいった巫女が今だに続出し続ける。むしろ巫女をさらった奴らにあっぱれと言いたい。

 話がそれたが、俺たちカルバーンは龍巫の多いものを、シェンカやアービャンから攫ってくる。身体に龍巫で縛られ、絶対服従を命じられる。

 この丸々太った豚の首を切り落とすことは、赤子の手をひねるよりも簡単だが、そうすると俺のみが危うい。

 内心この豚男に罵倒雑言を浴びせながら、刺して、嬲って、ふんずけ、側妃をこれ以上持てないように男として不能にしてやって、眼玉えぐり……とひたすら考えながら、これ以上同じ空気を吸いたくないのでそうそうとその場から立ち去る。


 カルバーンの仲間は、神殿や屋敷を監視させ、俺はとりあえず連れ去られた部屋を見ようと、神殿に立ち寄る。廃人同然の巫女はどうせろくな抵抗ができなかったに違いない。というか、日常生活でさせ、人手がいる巫女だから、鍵を細工したのだろう。さすがに内部侵入で着るほど、ミヤの警備は甘くないと思いたい。

 しかし、細工されている部屋は見つけられず、そこらの神官に成りすまして、適当に事情と場所を把握する。

 訪れた部屋はやはりカギに細工はされていない。争った形跡もやはりない。首を傾げながら、窓をじっくり見ると、窓の内側にうすく引っ掻いたような跡を見つけた。


「…まさか、」


 そのまま俺は、神殿を飛び出し、迷いの森を楽々と抜け、シェンカに向かった。

 きっと、俺は口に浮かべる笑みをこらえられていなかったに違いない。





「見っけ」

「……」


 ミヤ寄りのシェンカにある、とある砂漠の廃墟に二人の男女がいた。

 女はやはり、巫女装束をまとっている。もう一人の男は、顔を隠す気もないようで、真夜中でも目立つ、美しい金髪をさらけ出している。

 二人に近寄ると、女は俺に注意を払わないとこを見ると、俺の確信がより確かなものになり、笑みを浮かぶのを抑えられない。


「なぁ、あんた。巫女攫いの一人だろ?仲間はどこ?」

「……一人で攫ったが。シェンカの盗賊と勘違いしてくれたようでよかったよ」

「……」


 おいおい、ミヤの警備も少しどうにかしたほうがいいぜ。思いっきり相手の罠にはまっている自分も悔しい。

 仲間を連れてこなくてよかった。

 あきれと驚愕を顔に出さず、重ねて問う。

「あんた、何者?ミヤの神殿から巫女をさらうだなんて。しかも廃人同然なら、たとえ美人でもつまらないもんだ」

「……廃人、ねぇ」


 金髪の男の纏う空気が変わる。意味深げに言う男の顔が、月光によって暴かれる。

 おいおい、まじですかぃ。


「あんた、その紺碧の瞳…、バーデのもんか。年頃的に当主だろ?ミヤは大切な貿易相手のはずだ。ミヤの国政に携わる男の側妃を攫っちゃっていいのかねぇ?」

 いやまだ側妃じゃないけど

「まぁ、誘拐は総じて良くないだろうな」

「俺はあんたを殺すように命じられたんだけど、見逃してもいいよ?」


 俺は本題をだす。こいつを殺しちゃ、次に希望に光を見ることは、死んだ後でもない気がする。


「…俺は別に見逃されなくてもいい。お前を殺せば済むだけだ」

「んー、なめられている?」

「いや、全く?カルバーンの頭を甘く見るだなんてそんな自殺行為をするほど馬鹿じゃない」

「当主の地位が危ぶまれる危険を冒す馬鹿なのに?」


 お互いの口に冷笑が浮かぶ。


 バーデの当主―――確か名は、カルマ。カルマ・バーデ、は口を開く。知性溢れる、あの紺碧の瞳は、俺の考えを看過したのだろうか。


「お前の目的は?」

「あんたに頼みたいことがある」


 時間の無駄な駆け引きはそうそうと止め、カルバーンの千年の呪いを、同胞の願いを請う。


「その巫女を操ったように、俺の、カルバーンの呪縛を解いてほしい」

「……は?」


 予想が外れたのか、その割には不可解の色を濃く残したつぶやきが漏れる。

 その反応に、逆に俺が戸惑う。


「廃人当然の巫女は自分から窓を開けた痕跡があった。あんたが龍巫で操って、窓を開けさせたんじゃないのか?」

「違う」

 瞳は微かな怒りに揺れたようだった。

「その攫った巫女は、廃人なんかじゃない。廃人同然として扱ってるてめぇ等はわかんねぇかもしれねぇけどな、あいつはまだ死んじゃいない」


 言葉を荒く言い切られた内容は信じがたい。

 生まれてから今まで、神官に実験され、調べつくされた巫女が、廃人ではない?

 その巫女が側妃になるのは、ただの変態豚が気に入ったからであって、廃人ではないからではない。

 むしろこの長い年月廃人ではない巫女は、きっと今頃崇められている。

 ちらりと巫女の様子をうかがうと、やはり今まで見てきた巫女と同じように、表情がなく、目はうつろで、体のどこにも力が入っておらず、ただの人形のようである。



「昔から、胡散臭いミヤが気に入らなくてな。当主成りたてだが、これからの貿易相手を知ろうと神殿に偵察に行った。離れの塔が気になって、外からちらりと見て回ったら、女の死体かと思ったよ、お前たちが廃人という巫女は」

 嫌悪感を感じさせない平坦な声は言う。

「一か所だけ、窓の開いている部屋になんとなく飛び込んだ。そうしたら、女は、あいつは―――こちらを見た」





続きます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ