表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/63

しゃらり。

ネタが出た。




 再び銀細工の球体がしゃらりとなる。そちらに目を向けると、案の定、気絶したイゼアと、それを抱えるゼンだった。


「おまたせしやした」

「おう、どうだった?」


 勝手に入れさせてもらった茶を渡しつて、イゼアを受け取りながら訊ねる。

 ゼンは、俺とやりあったあの時のような顔をしていたが、すぐ苦笑に覆われる。


「流石、あんたの息子というべきか。執念深いでさぁ」

 窮鼠猫を噛むって言葉が本当にあるわけを知りやした、なんてうそぶいて、お気に入りの座布団に座り込む。

「で、武器は?」

「了解。職人に会いますかぃ?」

「…いや。木刀だしな」

「懐剣とクナイもつけときやす」

「ん」

 

 んじゃ、今から注文してきまーす。連絡はいつものようにと言って丸投げした。

 おい。




 息子が目を覚ましたのは宿に帰ってからだった。

 首の後ろをさすり、イタ眠そうに体をよじる。


「ゼンはどうだった」

「つよかったです」

 じぶんのひ弱さに泣きたくなりましたと言うイゼアを、三歳児に見えない俺は、どこかで教育を間違えたのかもしれない。

 子供だからという概念はこいつはないのだろうかと思う。


「腹は減ったか?」

「あんまり空いていません」


 ……。


「食べなきゃデカくも、脱ひ弱もできねぇぞ」

「食べます」


 まれにみる即答であった。



 軽い夕食をとり、一緒に風呂に入る。一瞬溺れかけたイゼアを見て、吹き出すと、不機嫌になってしまった。あ、やっぱり三歳児だわ、子供だわ。


 ほかほかと湯気を撒き散らかすイゼアの髪を拭いてやると、ユキハと一緒の髪質に頬が緩まる。

 ふらふらと頭がやたらと動くなと、顔を覗き込むとまた寝ていた。あれだけ寝てもまだ眠れるのかと驚きながら、今日はたくさん動いたしなぁとも納得する。

 一通り乾かすと、イゼアを先にベッドに入れて、今日あったこと――というかイゼアの成長日記を書いていく。

 頭がよく、文官とか向いてるのではないかとか、子供らしさ云々を書き連ねていると、自分の龍巫が引っ張られる。

 ゼンの合図である。ゼンはなかなか面白い龍巫の使い方をし、自分の龍巫を糸のように操る。昔、龍巫を鋼糸に流していた影響だと言っていた。

 ちらりと息子を見て、そのまま部屋の窓から飛び降りる。そのまま武器街まで行き、武器屋案内の扉を迷わず開ける。


「まいどぉ」


やる気のない声と一緒に出迎えられる。

「どれだ?」

「あいよ。木刀は普通のサイズと坊や用で小さめの。クナイと懐剣はこっち」


 渡された箱の中身を確認すると、確かにはいってある。懐剣もクナイも、下手に触ると指をそのまま切り落としてしまうような鋭さだ。

 木刀は良い木を使っているのか、それとも職人技なのか、真っ直ぐで艶をはらんでいる。

「確かに」

「お代はこれ」

「ん」

「あとそれから、」

「は?」


 ぼったくりではないけれど、ミヤの武器はそれ相当の値段がする。例え木刀でも。これ以外に何かあるのかと訝しげにゼンを見やると、人の悪そうな、いや子供が悪だくみをしたように、ハシバミ色の瞳を輝かせている。


「坊やが次俺と会った時、名前を覚えれるくらいの強さまで鍛えておいて」

「気にいったのか」

「そうだね。あの森に放り込みたいくらいには」

「…へぇ」


 自分の息子は厄介なものに好かれたらしい。今名前を教えても覚えるんじゃないかと思うが、それはそれで。


「じゃ、世話になった」

「はいはい。カルマさん、是非とも今度殺りあいましょうね」

「昔の仕事に戻ったらいいぞ」

「んー、こっちの仕事も気にいってるんで」

「じゃあしばらくはないな」

「ざぁんねん」


 扉を閉めてから、また宿へ向かう。平屋の屋根の上を走りながら、宿の間でに向かって跳躍し、部屋に静かに飛び込む。

 イゼアはぐっすり寝ていた。

 窓を閉めて、気づく。


 しゃらり。あの音がしなかったと。



 神殿がある方向はまだ明るいが、他は暗く静まり返っている。

 月は、いつもと変わらないミヤを、いつものように照らしていた。




はやくバーデに帰りたいな

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ