しゃらり。
ネタが出た。
*
再び銀細工の球体がしゃらりとなる。そちらに目を向けると、案の定、気絶したイゼアと、それを抱えるゼンだった。
「おまたせしやした」
「おう、どうだった?」
勝手に入れさせてもらった茶を渡しつて、イゼアを受け取りながら訊ねる。
ゼンは、俺とやりあったあの時のような顔をしていたが、すぐ苦笑に覆われる。
「流石、あんたの息子というべきか。執念深いでさぁ」
窮鼠猫を噛むって言葉が本当にあるわけを知りやした、なんてうそぶいて、お気に入りの座布団に座り込む。
「で、武器は?」
「了解。職人に会いますかぃ?」
「…いや。木刀だしな」
「懐剣とクナイもつけときやす」
「ん」
んじゃ、今から注文してきまーす。連絡はいつものようにと言って丸投げした。
おい。
*
息子が目を覚ましたのは宿に帰ってからだった。
首の後ろをさすり、イタ眠そうに体をよじる。
「ゼンはどうだった」
「つよかったです」
じぶんのひ弱さに泣きたくなりましたと言うイゼアを、三歳児に見えない俺は、どこかで教育を間違えたのかもしれない。
子供だからという概念はこいつはないのだろうかと思う。
「腹は減ったか?」
「あんまり空いていません」
……。
「食べなきゃデカくも、脱ひ弱もできねぇぞ」
「食べます」
まれにみる即答であった。
軽い夕食をとり、一緒に風呂に入る。一瞬溺れかけたイゼアを見て、吹き出すと、不機嫌になってしまった。あ、やっぱり三歳児だわ、子供だわ。
ほかほかと湯気を撒き散らかすイゼアの髪を拭いてやると、ユキハと一緒の髪質に頬が緩まる。
ふらふらと頭がやたらと動くなと、顔を覗き込むとまた寝ていた。あれだけ寝てもまだ眠れるのかと驚きながら、今日はたくさん動いたしなぁとも納得する。
一通り乾かすと、イゼアを先にベッドに入れて、今日あったこと――というかイゼアの成長日記を書いていく。
頭がよく、文官とか向いてるのではないかとか、子供らしさ云々を書き連ねていると、自分の龍巫が引っ張られる。
ゼンの合図である。ゼンはなかなか面白い龍巫の使い方をし、自分の龍巫を糸のように操る。昔、龍巫を鋼糸に流していた影響だと言っていた。
ちらりと息子を見て、そのまま部屋の窓から飛び降りる。そのまま武器街まで行き、武器屋案内の扉を迷わず開ける。
「まいどぉ」
やる気のない声と一緒に出迎えられる。
「どれだ?」
「あいよ。木刀は普通のサイズと坊や用で小さめの。クナイと懐剣はこっち」
渡された箱の中身を確認すると、確かにはいってある。懐剣もクナイも、下手に触ると指をそのまま切り落としてしまうような鋭さだ。
木刀は良い木を使っているのか、それとも職人技なのか、真っ直ぐで艶をはらんでいる。
「確かに」
「お代はこれ」
「ん」
「あとそれから、」
「は?」
ぼったくりではないけれど、ミヤの武器はそれ相当の値段がする。例え木刀でも。これ以外に何かあるのかと訝しげにゼンを見やると、人の悪そうな、いや子供が悪だくみをしたように、ハシバミ色の瞳を輝かせている。
「坊やが次俺と会った時、名前を覚えれるくらいの強さまで鍛えておいて」
「気にいったのか」
「そうだね。あの森に放り込みたいくらいには」
「…へぇ」
自分の息子は厄介なものに好かれたらしい。今名前を教えても覚えるんじゃないかと思うが、それはそれで。
「じゃ、世話になった」
「はいはい。カルマさん、是非とも今度殺りあいましょうね」
「昔の仕事に戻ったらいいぞ」
「んー、こっちの仕事も気にいってるんで」
「じゃあしばらくはないな」
「ざぁんねん」
扉を閉めてから、また宿へ向かう。平屋の屋根の上を走りながら、宿の間でに向かって跳躍し、部屋に静かに飛び込む。
イゼアはぐっすり寝ていた。
窓を閉めて、気づく。
しゃらり。あの音がしなかったと。
神殿がある方向はまだ明るいが、他は暗く静まり返っている。
月は、いつもと変わらないミヤを、いつものように照らしていた。
はやくバーデに帰りたいな