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Go to 武器街(カルマ視点)

10月ギリギリ。



 久々に訪れたミヤは相変わらずだった。物々しい様子で、きらびやかで。つつましさを失わない。傍から見たら、豊かで美しいところなんだろう。しかし、その一方で龍巫を狂信的に信仰し、求め、追求している。


 いるかどうかもわからない神が与えてくれた贈り物だとほざき、それを探るためならば人を人として扱わない。恩恵を与えてくれた神を理解するためという名目で、あまたの人間の命を奪ってきた。


 ユキハも、そのうちの一人だった。龍巫の多いものは生まれながらに神殿に保護という名の監禁を受け、調べつくさせる。初めてユキハと会った時、ユキハは何も知らない状態だった。無垢とは違う、無知とも違う。ただの空っぽの人間だった。


 俺にはミヤが、きらびやかな街の後ろに、ひどく汚れて空虚で、でも混沌に満ちているように見える。結局、俺は相変わらずミヤを苦手、もしかしたら嫌いなのかもしれない。…いや、嫌いなんだろう。


 人道的かなんて、文化や歴史によってあっさり覆ってしまう。カンジャーリス協定により、外部の人間が、下剋上もする気もないのに内政には口出しできない。この協定はとても保守的で、結ばれた当時がどれほど安寧の世を求めていたかがうかがえる。


 さまざまな願いや欲望が渦巻くこの世界を、ミヤを、何も知らない自分の息子はひたすら見ていた。


「バーデとは全然違うだろう?」

「はい」


 いつもは突然話しかけると間が開くのだが、今は開かなかったことを見ると、注意がこちらにあまり向いていないようだ。


「ひらたい家がしんせんです」


「こういう平屋には一般身分のものが住んでいる。向こうに見える高い建物、神殿には上級身分の奴らが内部分裂しながら、暮らしている」


 後ろを向いて、市場よりさらに奥にある神殿や宮殿を指さす。日々、背後を気を付けなきゃいけない生活をする奴らを同情するが、それだけだ。


 イゼアは紺碧の瞳を大きく開いて、目に焼き付けるように凝視していた。情報を一つも取りこぼさないように、忘れないように。


 そんな息子の様子を見て、まともにバーデ市内も見せたことがないことに気付く。帰ったら、こんな所よりずっといいところを見せてやると決意し、イゼアの注意を前方へ促す。


「あそこの石造りの家には武人が住んでいる。武器屋もあそこある。武器街の道を進むと、森があるだろう。あそこで武人は修行したりするらしい」


「……あそこに武器屋などを作ったのは、シェンカを警戒しているからですか?」


「あぁ」


 少し驚いた。以前教えたことをしっかり覚えていたらしい。

 たしかに武器街をあそこに作ったのは、ミヤの下には治安が悪いとされるシェンカがあるからという名目だが、それはあくまで建前である。しかもここができたのはここ十数年のこと。

 シェンカ成立前から国境付近は警戒されていたが、武器街ができたことで、国境はあそこに任され、神殿とは別の独立した権力が存在する。

 シェンカは商人たちの集まりだが、それと同じくらい盗賊もいる。たまに商人たちを狙った盗賊がミヤまで流れてくることがあるため、ミヤの守りと言われている。森も、何も知らない人間が入れば迷い、出れる確率は非常に低いといわれ、年間数名が行方不明になっていたり、修行者が死体を発見したりする。それは主にシェンカの盗賊だが。


 会話はそこで途切れたが、俺は一方的に目に入るものを説明していった。息子がいつものような緊張を見せずに、反応してくれたのが思いのほかうれしかった。ふんふんとうなずきながら、好奇心をむき出して、積極的に質問もしてきた。なかなかいい質問をするので、こいつは剣の才能はあるが、頭を使う方もいいかもしれない、なんて息子の将来についていろいろ想像をめぐらせる。


 そして、はっと気づく。…すごく、父親らしいことしてないか、俺。すごく、父親らしい思考をしてないだろうか。父親として成長していないだろうか。


 感動を胸に、ユキハに今のことを話したいが、生憎ユキハは今いない。はじめから連れてくる気はなかった。ユキハには二度とミヤには、故郷とも呼ばせたくないこの地を踏ませないと、攫ったあの日に決めていた。


 だから、後悔はしていないがもどかしい。

 ……そういえば、ユキハは俺がいないとき成長日記を書いていたな。おし、今日絶対書こう。

 そんな決意を胸に、武器街に到着した。





お父さんぽさ出てました?

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