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ゆけむり探検の奇跡⑯

  ≪人物紹介≫

☆ 那智竜太郎ナチ・リュウタロウ 19歳

  正統なるもり国主の長男、現在浪人、百万両の賞金首であるナチの竜


☆ 如月胡桃キサラギ・クルミ 19歳

  宇都宮国東宮家老の長女、東宮直営の乙女倶楽部所属の役人


☆ 阿倍蜜柑アベ・ミカン 18歳

  古河国東宮用人の末娘、東宮直営の乙女倶楽部所属の役人


☆ 大鳥虎之助オオトリ・トラノスケ 22歳

  大鳥国主の三男、めかけの子、現在賞金稼ぎ


☆ 板屋の伊万里イマリ 26歳

  フタラ温泉宿、板屋の女将


☆ 中宮の神楽カグラ 17歳

  二荒ふたら山神社中宮の末娘、巫女


☆ 望月華音モチヅキ・カノン 12年前=14歳

  リュウタロウの世話係、杜の宮の巫女


☆ 望月雷蔵モチヅキ・ライゾウ 12年前=50歳

  カノンの父親、12年前の杜国主、元杜国家老


☆ 那智時継ナチ・トキツグ 18年前=37歳

  リュウタロウの父親、正統なる杜国最後の当主


☆ 那智瑞羽ナチ・ミズハ 18年前=19歳

  リュウタロウの母親、元杜の宮の巫女


☆ 大鳥錬龍オオトリ・レンタツ 27歳

  大鳥国主の長兄、竜の力を継承


☆ 朔心月サク・シンゲツ 62歳

  大鳥国の国家老、軍師


* ここでの歳は満年齢にて記載

* 話が進むにつれ改定あり


朱雀門は門扉もんぴを大きく左右に開き、黄土色の世界と水が満ちた蒼の世界とをつないだ、

「朱雀…門は開いた、約束は守ってもらうぞー」

リュウタロウは門へと飛来してくる赤い竜へと叫んだ、

…ゴオオオオオオーーーーー…

赤竜のがくが開き押し殺した咆哮ほうこうが発せられた、すると見る見るうちに開かれた口元に赤い火球が出現した、

「ちょちょっと待てよー!」

…サレ・ケシトブゾ…

リュウタロウの脳裏に聞こえると同時に赤竜の口から火球が吐き出された、火球は朱雀門から飛び出し一直線に大剣へと向った、

ゴオゴッゴーーンンーーー・バリバリバリバリイイイイーーー…

赤く燃え盛る火球と、蒼白い稲妻いなずまが飛び交う封印が、はげしくぶつかり合った、拮抗きっこうした二つの巨大な力が反発しあい周囲の水を吹き飛ばす、

「う・うおおおーーー」

かろうじて火球の直撃ちょくげきけたリュウタロウだったが、封印と火球がぶつかり合った衝撃しょうげきにみまわれ三十間(約50m)ほど吹き飛ばされた、リュウタロウが飛ばされた場所は元の世界ではフタラ山の噴火口に位置し、噴火口は深くくぼんだ地形と成っていた、

「くそ…なんて衝撃だよ、身体がしびれて力が入らない…、あぁしずんで行くー」

成すすべの無いリュウタロウは噴火口の底へと沈んで行った。


           【】


「センパーイ・今の爆発って何なんでしょう…」

クルミとミカン、それと紫竜の幼生は湖底で竜の結婚式が始まるのを待っていた、すると頭上の湖面で大きな波紋はもんと共に爆発音がし、続いて湖全体に拡がる振動しんどうが発生した、

「何とおっしゃられても…わたくしにも分かりませんわー」

クルミは爆発におどろき身体をちぢこませていた、

「ひょっとして・フタラ山が噴火しちゃったとかですかねー」

ミカンは頭上の湖面をかし見るように手をかざしていた、

「ご冗談じょうだんじゃありませんわー、噴火していましたらわたくし達の帰る場所が無くなってしまいますわー」

クルミは両手で頭を抱えながら叫ぶ、

「まーこまりましたねー」

ミカンは湖面へ向けた視線を移すことなく応える、

「あなたは本当にお困りに成っておりますの…」

ミカンを上目遣いに睨みながら口をとがらす、

「あーセンパイ、何か上からてきますよー、なんでしょうねー」

ミカンが頭上を指差しながら訊く、

「………」

「ねーセンパイ見てくださいよー、ホラあれですー」

クルミはひざを抱えた姿勢のまま、両耳をふさぎ目をつむっていた、

「センパイ…」

「何も見えませんし、何も聞こえませんわー」

クルミは耳を塞いだまま頭を左右に振った、

「大丈夫でちゅよー、何もこわく無いでちゅからねー」

と言いながら、ミカンは笑顔のままクルミの手をつかむと強引に引っ張った、

「イヤー、これ以上怖いもの見たくないー」

耳から手を外されたクルミは最後の抵抗として目を瞑っていた、

「ほーら何も怖くないから、目を開いてくだちゃいねー」

ミカンはクルミを羽交はがめにしたまま耳元でささやく、クルミは小刻みに震えながらもそっとうす目を開いた、

「あれは…」

「たぶん人でしょうねー」

「な・何をなさっておりますのー、救助きゅうじょいたしませんとおぼれてしまいますわよー」

ミカンの手を振りほどいたクルミは、あっと言う間に人影へと泳ぎよって行った、

「あーセンパイ、待って下さいよー」

置いてきぼりを食ったミカンも慌てて後を追う、

           ・

「ずるいですよセンパイ、わたしが先に見つけたのに置いてくなんてー」

「…さん…しっかりなさって、リュウタロウさん」

「えーーリュウタロウさんなんですかー」

クルミに頭を抱えられたリュウタロウは意識が無くぐったりと両手がれていた、

「なんだか少し見ない間に、リュウタロウさん怪我けがだらけになってますねー」

ミカンが心配そうにリュウタロウをのぞき込む、

「何がありましたの、リュウタロウさん目を開けて下さい…」

クルミの再度の呼び掛けにもまったく反応が無い、

「こういう時は意識に直接的な衝撃(笑劇)を与えた方が好いですね」

そう言うミカンはリュウタロウの耳元に口を近づけた、

「リュウタロウさん聞こえますか、今あなたはセンパイの腕の中に居ます、それも一糸纏いっしまとわぬ生まれたままの姿のセンパイの腕の中ですよ」

ミカンはリュウタロウにだけ聞こえるようにささやいた、

「ゴッホ・ゲホゲホ…ゲホ…」

唐突とうとつに咳き込みながら起き上がったリュウタロウは慌てて左右を見回した、

「良かったーリュウタロウさん、死んでしまったのかと思いましたわ…」

クルミは目をうるませて言った、

「クルミさん…う・うん、そのーありがとう心配してくれて…」

リュウタロウは頬を赤くして下を向いた、

「どこか具合が悪いのですか、お顔が真っ赤でしてよ…」

クルミは、うつむいたリュウタロウの顔を覗き込みながら訊く、

「うわっ!…だ・大丈夫ですから…」

リュウタロウは慌てて後ろを向いた、

「なんですのその態度たいどは、わたくしが心配するのが迷惑なようですわね!」

クルミは腕を組んで睨み付けた、

「センパイ・センパイ…」

ミカンは紫竜の幼生に隠れるようにしながら、クルミを手招きして呼んだ、

「あなたはそちらで何をなさっておりますの」

ミカンの行動の意味が理解できないクルミはいぶかしげに訊く、

「いいからー、センパイもこっちに来てください」

手招きを更に大きくしてクルミを呼んだ、

「いったい何ですの、あなたの思考回路は把握はあくしかねますわ」

そうぼやきながらもミカンのもとへと泳いだ、

「センパイいいですか…、まずは落ち着いて深呼吸して下さい」

「わたくしは落ち着いておりますわ、それに水中で深呼吸なんて出来るわけ御座いませんわ」

「うーん確かに…、じゃあ手のひらに人という字を書いてですねー、それをみ込んで下さい」

「ですからー!わたくしはいたって冷静だと申しましたわよ、あなたは何を仰りたいのですか」

クルミはミカンの真意しんいが解らず、苛立いらだたしさをあらわにする、

「…センパイ、わたしって今どんなかっこうに見えますか…」

ミカンは紫竜の幼生から少し離れクルミの前に出た、

「どんなかっこうって、板屋さんの浴場に居りました時と同じではだかですわよ」

「ですよねー、わたしもセンパイが裸に見えてましたから」

とミカンは言い、エヘヘと笑った、

「な・な・なーーーんーーーでーーーすってーーーーーーーーーー!」

と言うクルミの叫びは、先程の爆発音よりも大きな振動で湖の果てへとひびき渡っていった。

              ・

クルミの絶叫を聞いたリュウタロウはコソコソと隠れるように2人から遠ざかる、

「リュータローさん…、まさかとは思いますが…、わたくしの…を見てはおりませんわよねー」

紫竜の幼生に隠れたクルミは、背を向けこの場から逃げようとしていたリュウタロウを怒りのこもる涙目で見据えていた、

「な・なーんにも見てないっすよー、ボクはクルミさんの裸なんてこれっぽっちも見てない・見てない」

振り向きながら満面の笑みを称えて両手を左右に振った、

「は・裸と仰いましたかー!」

クルミの顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていった、

「い・言ってません、は・はにかんだ笑顔かなー」

「いいえ、今はっきりとは・だ・か・って言いましたよセンパイ、逮捕たいほしましょう!」

ミカンがきっぱりと否定ひていし、にぎり拳を振り上げた、

勘弁かんべんしてよー今のはまったくの事故でしょう、それにどちらかというとボクの方が被害者ひがいしゃだと思いますよー」

「若い乙女の素肌すはだを見ておいて、リュウタロウさんには罪の意識というものが無いんですかー、よめ入り前の乙女が男の人に素肌を見られたんですから、ちゃんと責任をとって下さいね」

「ち・ちょっとミカン…」

「センパイはだまっててください、わたしがリュウタロウさんにちゃーんと責任のとり方を教えますから、任せてください」

ミカンはいつに無くきびしい表情で言い胸を叩いた、

「は・はい…」

ミカンの剣幕けんまく圧倒あっとうされたクルミが小さくうなずく、

「いいですかリュウタロウさん、嫁入り前の乙女の素肌を見たあなたに出来る責任のとり方は二択です、まずひとつ目ははずかしめを与えた殿方とのがた切腹せっぷくすることです」

ミカンは厳しい表情のまま人差し指を立てて言う、

「せ・切腹って、ちょっと待ってよー」

「お黙りなさい!いいですか良く聞いてくださいね、未婚みこんの乙女というのは殿方にとつぐその日まで清廉潔白せいれんけっぱくきよい体でなくてはいけません、それゆえ婚儀こんぎの際は白無垢しろむくに身を包み、殿方の望まれる色に染まることが出来るのです、それなのに結婚前から殿方に辱めを受けたセンパイはもう白無垢に袖を通すことは出来なくなりました、それはあまりにも可哀想かわいそうだと思いませんか…」

ミカンは両手を顔に当てた、

「ちょっとお待ちになって、わたくしはそこまでの辱めを受けたとは思っていませんのよ、確かに先程のことは事故みたいなものですから」

クルミがうろたえながら言う、

やさしいセンパイ、でも大丈夫ですわたしがセンパイの恥辱ちじょくを必ずそそいでみせますから」

ミカンは力強い視線をクルミに向けて応えた、

「リュウタロウさん、こんなにも優しいセンパイを辱めたことになんの罪悪感ざいあくかんも無いんですか、センパイが嫁ぎ先のおしゅうとめさんに『まーなんてはしたない嫁でしょう、結婚前にも関わらずどこの馬の骨ともわからない男に素肌をさらすなど、かがわらわしい!』とののしられ、お婿むこさんには『この阿婆擦あばずれ女が、これまで何人の男に言い寄ったのだー、目障めざわりだ出て行けー』と罵倒ばとうされるんです、嫁ぎ先の家を追われ実家にも帰れずに路頭ろとうに迷うセンパイは、ひとりさびしく品川の海に身を投げます、その時に思い出すんです『あの時リュウタロウさんに裸を見られてさえいなければ、わたくしの人生はもっと変わっていたはずなのに』と…、これでもリュウタロウさんには罪の意識が無いんですか」

ミカンがリュウタロウを見据える、

「わたくしの将来はそんなにも危険な状態になっていましたの…」

クルミは血の気の引いた顔を小刻みに震わせていた、

「そ・そうだったのか…、オレはクルミさんの人生をくるわせるような重大な罪をおかしてしまった…」

リュウタロウはひざを折りガックリとうなれた、

「やっと解っていただけましたか、リュウタロウさんがしてしまったことは取り返しの付かないことです、ごめんなさいとあやまって済むことではありません、ですがリュウタロウさんが自らの罪をみとめた上で心からの謝罪しゃざいを望むのであれば、二つ目の選択肢せんたくしが残っていますよ」

ミカンの表情がやわらぎ、声音が優しくなった、

「はい、謝って済むことでは無いと承知いたしました、でもボクにはまだこの命を掛けて成さなくてはいけない事が有るんです、どうか二つ目の選択肢をお教えください」

リュウタロウは水中だが土下座の姿勢しせいで必死にうったえた、

「分かりました、そこまで言うのでしたら教えます」

コホンっと咳払せきばらいをしたミカンは、リュウタロウに向けていた視線をクルミに移した、そして

「センパイと結婚するんですよー」

と言ってクルミの肩を叩いた、

「あ・は・あはははは…あなたのお話を真面目に聞いていたわたくしが馬鹿ばかでしたわ」

クルミは力なく笑いため息を付いた、

「そうかーその手が有ったかー、ボクがクルミさんの婿になればクルミさんは婿以外の誰にも裸を見られていない、なるほどー」

と、リュウタロウは手を叩いて納得した、

「リュウタロウさんまで何を真に受けておりますの、ミカンはわたくし達をからかってましたのよ、この子は何かに付け恋愛話にしようとたくらんでおりますから」

「そうなのー」

「テヘへ・ばれちゃいましたかー残念」

とミカンはしたを出して笑った、

「やられた…」

と、ため息をらすリュウタロウ、

「で・ですが…、あなたがわたくしの…を見たことには変わりありませんわ、ですからあなたのおし物をこちらに提供ていきょういただけますこと、それでゆるしてさし上げますわ」

クルミはうな垂れるリュウタロウに向い妥協案だきょうあんを告げた、

「ええーーボクは悪くないよねー」

と、ミカンへ助け舟を求める、

「うーん・でもわたし達もこのままって訳にもいかないですからー」

と言うミカンの笑顔にも、リュウタロウが着物を提供することは決定事項だと書いてあった、

「はぁー分かりましたよ、着物を渡せば良いんでしょ…」

そう言い、リュウタロウは腰帯に手を掛けたが、ふと首に掛かる風呂敷包みに気付いた、

「そういえば…、弁当の他にこんなのも背負ってたっけ」

リュウタロウは風呂敷包みを肩から降ろして中身を見た、

「フ・フフフフフ…フッハッハッハッハハハ・アハハハハハハハハハハハ…」

リュウタロウは風呂敷包みを持ったまま笑い出した、

「何ですのー、あの方の笑いは…」

「どうしましょう、頭の線が切れちゃいましたかねー」

気味の悪い笑い声を上げるリュウタロウを心配するクルミとミカン、

「いや・ごめん・ごめん、あまりの都合つごうの良さに可笑おかしくなっちゃって…」

ひとしきり笑い終えたリュウタロウが応えた、

「わたくしはあなたの頭がおかしくなったのだと思いましたわ」

クルミが冷ややかに応える、

「それで何が入ってたんですか」

「今そっちに送るねー」

リュウタロウが風呂敷包みを力一杯に投げた、水中をただよいながら風呂敷包みは無事にクルミのもとへと流れ着いた、

「な………」

「うーーん、これを持っていたってことはー…」

2人は風呂敷包みの中身を見ながらうなった、

おどろいたでしょう、まさかこんなにも都合よく入ってるなんて思わないもんねー」

リュウタロウは嬉々《きき》として笑いながら言う、

「リュウタロウさん…、あなたはコレを持っていましたのに、なぜ今頃になってお出しになりましたの…」

クルミの表情には疑念ぎねんの色が明らかに浮かんでいた、

「センパイあきらめましょう、情状酌量じょうじょうしゃくりょうの余地は無いです、これは完全なる確信犯かくしんはんです」

ミカンはクルミをさとすように告げた、

「あのーミカンちゃん・クルミさん、やだなー何か誤解ごかいしてるんじゃない」

リュウタロウはうろたえ気味に訊く、

見苦みぐるしいです」

ミカンがき捨てた、

「リュウタロウさん、この風呂敷の中身は何ですか…」

クルミが無表情に訊く、

「板屋でキミ達がイマリさんに着付けてもらってた浴衣だよね」

「その通りですわ…」

「その浴衣をリュウタロウさんが持って来たんですよねー」

「いやーオレも驚いたよー、まさかキミ達の浴衣を持っていたなんてー」

「しらじらしい…」

うそじゃないって、いま始めて見て驚いていたんだから」

「中身を確かめずに今まで持ち歩いていたと…、それを信じろと…」

「そ・そうだよー、ボクは何が入っているか今の今まで知らなかった」

「わたし、リュウタロウさんはもっと誠実せいじつな人だと思っていました…、残念です」

「いいえミカン、リュウタロウさんだけが悪いのではありませんわ、世の男というものは大小問わずみーんなそのような思考回路の持ち主なのです、決して信用などしてはいけません事よ」

「違うんだよー、ボクは本当に知らなかったんだー」

判決はんけつを申し上げます、被告ひこく人リュウタロウはわたくし達の浴衣を所持しつつもそれを隠蔽いんぺい、お風呂場より異世界に来たわたくし達が着物を所持していないことは明白にも関わらず、所持していた浴衣を隠し持ち提供するどころか、わたくし達の姿態したいを観察すると言う、極めて残虐ざんぎゃくなる行動におよんだこと弁明の余地無し、よって被告人リュウタロウは有罪、求刑きゅうけい通り切腹を申し渡します」

「勘弁してよー、本当に知らなかったんだからー」

「ええい見苦しいー、お白州しらすを何と心得るー」

即刻そっこく引っ立てーい!」

風呂敷包みはイマリが用意しトラノスケに手渡した物で、リュウタロウがその中身を知ったのはいましがたであったがそれを証明する者は無し、リュウタロウの極刑は避けられないであろう。


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