語り部
昔、馬にまたがる少女がいました。
その少女はどこの誰よりも馬を愛し、少女の馬はどの馬よりも走るのが速い馬でした。
少女が馬に乗り風を切る姿は、野も山も全てを飲み込み、一枚の絵になったかのように美しく見えました。
あるとき、少女の住む国を大きな災いが襲い、国中の人が原因不明のやまいに倒れてしまったのです。
偶然馬で隣町まで行っていて病にかからなかった少女は、山奥に住むという魔女に助けを求めました。
魔女は少女にいいました。
「草原の木、火山の火、砂漠の土、鉱山の金属、清流の水、これがあれば薬は作れるが、今から集めていては間に合わないだろう。
あきらめて隣の国にでも避難するんだね。」
そう言うと、魔女は家に戻ろうとしました。
少女は魔女の裾をつかむと今にも泣きだしそうな魔女に言いました。
「それがすべてあればみんな助けられるの?
ほんとに助けてくれるの?」
魔女はため息をつくと、
「そういうことはすべてをそろえてからいいな。
大の大人でもこれを一人で集めようとしたら一週間はかかる。
ところがお前は子供の上に、5日もすれば国中の人は死んじまうよ。
薬を作るのに1日、薬を国中に風に乗せて飛ばすのに1日、お前は3日でこの5つの小瓶に集められるって言うのかい?」
そういって魔女は小瓶を指差しました。
少女はその小瓶を持っていた皮袋に入れると、
「そういうことはできなかったら言ってよ。」
少女は涙をためながらも笑顔で魔女に言うと、馬にまたがって颯爽と駆け出しました。
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少年
「ねえ、その少女は魔女に言われた材料を集められたの?」
語り部
「あぁ、そうだよ。
だから今君達が大好きなこの国が残ってるんだ。」
少年
「へー、もしかして、おじいさんの後ろにある人形がその少女と馬を想像して作った人形?」
語り部
「どうだろうね。
さぁ、お母さんが待ってる。そろそろ帰りなさい。」
少年
「うん、またいろんなお話聴かしてね。」
そういうと、少年は帰っていった。
「人形か…」
そういうと、語り部は少女と馬の人形を膝に乗せて目を閉じた。
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<ガンガンガン!!>
真夜中に扉をたたく音が聞こえ扉を開けて外を見ると、横たわった白馬と、皮袋を抱えた少女が立っていた。
膝をすりむき、ところどころ火傷を負い、手は刃物で切ったような傷から血がしたたっていた。
「おまえ、その姿はどういうことだい!」
「ごめんなさい、もう3日終わっちゃう、薬を作っても間に合わないの?みんな死んじゃう?ごめんなさい…」
そう言うと、少女は気を失って倒れこんでしまった。
魔女は少女を抱きかかえると、
「馬鹿だね、私を誰だと思ってるんだい!
これだけいい材料がそろってて調合に一日もかかったら私は魔女失格だよ。」
少女を暖炉の前のソファーに寝かせると、《私》は薬の調合に入った。
自分が死んでしまうほど疲れ果て、いくつもの傷を負いながらも自分の国の人を心配するなんて、大ばか者だ。
そう思いながらも、とめどなく涙があふれた。
少女が集めてきた材料は本当にいいものだった。
そのおかげで、浄化する必要がほとんど無かったため、明け方には薬を作ることができた。
薬を風に乗せ、国中にばら撒いた。
国中で歓声が上がり、皆神に感謝し、国のすべての人が喜びを分かち合っていた。
魔女の小屋で静かに横たわる少女を除いて。
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少女の人形を抱えた私は、元の姿に戻った。
「すまないね、私はおまえを助けることができなかった。
でも、おまえは薬よりおまえを助けることを取ったら、私を怨んだのだろう。」
少女の髪を編みこんだ人形と、白馬の毛を編みこんだ木馬を、私は愛おしくなでた。
「私はおまえ達をこれからも人の心で生きれるように、語り続けるよ。」
お読みいただきありがとうございました。
久しぶりの小説投稿になります。
木馬に乗った少女の絵をもとに、数人で想像した小説をそれぞれ書いてみたのですが、思い入れが強くなってしまったので、久しぶりに投稿させてもらいました。
また気が向いたときに投稿させてもらえればと思います。