三途の川で鬼の代わりをする
鬼が突然やってきた。
「人手が足りないんだ。ちょっと来い」
僕は鬼の休憩所に連れて行かれた。
喫煙所と札のかかった小屋だった。
部屋の中はタバコの煙で靄がかかっていて、息がくるしい(気がする)。
そこには、今まで見たことのないくらい、鬼がいた。みんな赤い肌をしていて、虎柄のパンツ。緑のもじゃもじゃ頭からは角がのぞいている。典型的な鬼だ。それが、小さい小屋に、20人ほどか。
「足りてないようには見えないんですが…」
「これから足りなくなる。出張でな。その代役をお前がやれ」
な、なんですと。
「お前は要領がいいから、うまく人間の気持ちを折っていけるだろう。任せたぞ」
「あの、いえ、俺、人間なんですが…」
鬼は何かを差し出してきた。
手に取ってみる。
虎柄のボクサーパンツ。
……なんか生暖かい。
「それを履いていれば誰も気づかないさ。管理区域は地図をやるから、今から行ってこい。
サボるなよ」
俺は躊躇した。
そんな簡単に…
しかし、鬼の仕事を理解すれば、俺の戦いもより楽になるのでは?
俺は勇気をだした。
鬼のボクサーパンツをはいた(パンツは少し湿っていた)。
見た目は俺が虎のパンツを履いただけだ。
何かちがうのか…?
地図を見ながら、新天地の巡回を始める。
人間どもは真面目な奴もいれば、石を積む気もなくサボっている奴もいる。なんと嘆かわしい。
俺はサボっている奴に拳骨を落とす。
「ほら、さっさと石を積むんだよ」
なるほど、こんな気持ちなのか。
「う、うわー」
ガツン。
石で頭を殴られる。
多分割れただろう。
しかし鬼はそんなことで倒れない。
しっかり足を踏みしめ、
「いい度胸だ。その心意気があれば石、積めるよな?」
俺は石の塔を蹴倒し、やつを川へ放り込んだ。
3日ばかり、巡回を終えた頃、聞き慣れた雄叫びがきこえた。
「どりゃああああ」
あれが来た!
俺は振り返った。渾身のドロップキックだ。
俺の胸筋はまだ薄い。
筋肉だけでは跳ね返せない。
しかし負けられない。
俺は鬼なのだ。
こいつらにとっての壁なのだ。
全筋力をもってして、なんとか跳ね返す。
「いい、キックだったな」
俺はやつの石の塔を蹴倒した。
立っているのがやっとだ。
しかし、鬼はそんな姿は見せない。
ゆっくりと休憩所へと戻った。
休憩所の入り口には、いつもの鬼がタバコをふかして立っていた。
「だんだん様になってきたじゃないか」
俺は気が緩んで膝をついた。
「今日までごくろーさん。明日からは元の場所で石積みな」
タバコをポイ捨てして、休憩室へと入っていった。
俺はタバコの火を消して、
虎柄のボクサーパンツを脱いだ。




