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異世界転生したら処刑投票の村でした〜死に戻りを繰り返して人狼ゲームを勝ち抜く〜  作者: しげみち みり


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第4話「血の痕、沈黙の影」

 四度目の朝が来た。

 石畳の冷たさも、鐘の音も、村人たちの顔も、何もかもが繰り返しだ。けれど俺だけは違う。三度も死に戻り、ようやく一つの真理を掴んだ。――この村に潜む狼は、一匹じゃない。


 木こりの死体。胸を噛み砕かれたあの惨状は、俺を嘲るように蘇る。

 そして俺は気づいた。処刑の票を集めて俺を吊っても、夜には別の犠牲が出る。つまり、村人の中に狼が潜んでいるのだ。


 広場の輪に立ちながら、俺は声を張った。

「聞いてくれ! 俺が何度も吊られても終わらなかった。それが証拠だ。狼は、この中にいる!」


 人々の視線が突き刺さる。レナは薄笑いを浮かべ、ドルンは怯えて汗を拭い、エダは震える指で十字を切った。

 だが、その中で――ミナの瞳だけは揺るがなかった。

「リクの言葉を、私は信じる」

 その声が、広場の空気を裂いた。



 投票の結果は、やはり俺に偏った。

 カイは「証拠がない」と冷徹に言い、ドルンは恐怖に駆られて俺を指し、老婆は掟を理由に俺を拒んだ。

 だが、ミナと火傷の女がレナに票を入れたことで、均衡は少しずつ揺らぎ始めている。


 俺は縄にかけられるたびに確信する。

 ――次がある。

 何度でもやり直せる。

 だからこそ、一つでも多くの「手掛かり」を残さなければ。


 その夜、俺は再び処刑された。

 だが、死の直前に叫んだ言葉は確かに残ったはずだ。

「塔の部品を仕掛けたのは、狼だ!」


 視界が黒に沈み、意識が途切れる。



 五度目の朝。

 石畳の冷たさに目を覚ました俺は、すぐに辺りを見回した。

 鐘の音。集まる人々。

 だが――一人、姿がなかった。


 火傷の女だ。

 昨日、俺と同じ方向に票を投じた、数少ない味方の一人。

 彼女の家の扉は開いていた。広場に駆けつけた村人たちの叫びが響く。


「中に……血が……!」


 俺は駆け込んだ。

 石床に、赤黒い血溜まり。家具が引き倒され、壁には爪痕。

 火傷の女の体は無惨に裂かれ、冷たい目が天井を見つめていた。


 村人たちの間に恐怖と疑念が走る。

「昨夜、処刑したのは狼じゃなかった!」

「まだいるんだ……」


 老人が杖を突いて言う。「狼は複数いる。そうでなければ、説明がつかぬ」


 俺は拳を握った。

 ――やはり、そうだ。

 だが、犠牲が出るたびに、味方が削られていく。俺は焦りを覚えた。



 その夜、俺は決意を固めていた。

 もう「ただ吊られて終わる」わけにはいかない。

 次の投票で、必ず「流れ」を変える。


 俺はミナに声をかけた。「君だけが、俺を信じてくれた。理由を教えてくれないか」

 ミナは一瞬、躊躇い、唇を噛んだあとに答えた。

「夢を見たの。あなたが死んで、鐘が鳴って、また広場に立っている夢。何度も……」

 俺は息を呑んだ。やはり、ミナも「ループの残滓」を見ている。


 だからこそ、彼女は信じてくれるのだ。

 ――仲間がいる。


「でも、私だけじゃ足りない」ミナは震えながらも言った。「カイも、きっと心のどこかで迷ってる。あの人を動かせれば……」

 俺は頷いた。カイの冷徹さの奥に、一瞬の迷いを何度も見てきた。それをどうにかして揺さぶる必要がある。



 翌日の投票。

 俺は強く言った。「火傷の女を殺したのは、昨夜吊られなかった誰かだ! そして、レナは疑いを逸らすために笑っている!」


 レナが目を細める。「証拠は?」

「証拠は……俺自身だ。何度も死に、何度も見てきた。狼は一匹じゃない。君の足跡、塔の部品、吊台の印――全部つながってる!」


 広場が揺れる。

 ミナが強く頷く。「私はリクに従う!」


 カイの目が俺を射抜く。彼の槍はまだ俺に向いている。だが、その瞳にはわずかな迷いが生まれていた。


 ドルンは額に汗を浮かべ、「よそ者は危険だ」と繰り返す。エダは「神の御心」と唱えるばかり。

 だが、昨日と同じ言葉の裏に、動揺が混じり始めていた。



 投票は拮抗した。

 俺とレナ、票は半々。

 老人が杖を鳴らす。「再投票だ。掟は決して揺らがぬ」


 その瞬間、レナがにやりと笑った。

「いいじゃない。またよそ者を吊れば済む話。掟に従えば間違いない」


 俺は息を吸い、叫んだ。「いや! 掟に従って俺を吊れば、また犠牲が出る! 昨日の火傷の女のように!」


 その名を出した瞬間、広場に重苦しい沈黙が落ちた。

 血の痕。爪痕。裂かれた体。

 誰もが、それを思い出していた。


 レナの笑みがかすかに揺らぐ。

 カイの手が、槍の柄を握り直す。

 ドルンが額に浮いた汗を拭い、エダが震える声で祈りを繰り返す。


 ――沈黙の影が、人々の心に広がっていく。


 まだだ。

 この村は、まだ狼に支配されている。

 そして俺は、必ずその牙を暴き出す。

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