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異世界転生したら処刑投票の村でした〜死に戻りを繰り返して人狼ゲームを勝ち抜く〜  作者: 妙原奇天


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第2話「二度目の朝、ずれる歯車」

 鐘の音が、胸の奥を震わせる。

 俺は石畳の上に座り込み、しばらく呼吸を整えていた。喉には縄の痕がない。けれど皮膚の下で血がざわめいている。あの苦しみは、確かに味わった。処刑台での死は幻じゃなかった。


 死んで、戻った。

 それが事実だ。


 ――なら、どうする?


 戸が軋み、また人々が現れる。老人、カイ、ミナ、ドルン、レナ……すべてが「前と同じ」。けれど、俺は違う。知っている。誰が何を言うか、どんな順番で票が投じられるか。

 それは、武器になり得る。


「初めての顔がいるな」

 老人の声。デジャヴ。

 俺は迷わず名を告げた。「リクだ」


 周囲の視線が揺れた。昨日――いや、最初の世界では名を思い出せず吊られた。今回は違う。小さなずれを生む。

 ミナが、ほんの少し、肩を落としたように見えた。安心の色。


「どこから来た」

「分からない。気がついたらここにいた」


 説明は前と同じだが、俺は声を張った。「けど、昨日のことを覚えている。俺は一度吊られた。君たちに処刑されて、首を折って死んだ。だが今、こうして戻ってきた」


 ざわ、とざわめき。レナが口角を歪める。「狂言ね。必死だわ」

 カイは表情を動かさず、槍を地に突く。「投票で確かめる」


 老人は頷いた。「狂気の言だが、覚えておこう」



 投票が始まる。

 俺は心を鎮め、一人ひとりを観察した。

 ――ドルンは恐怖に震え、俺を名指しする。

 ――レナは笑みを貼り付け、やはり俺を指す。

 ――老女エダも、信仰を理由に俺を選ぶ。


 変わらない。だが、ミナは――

「わたしは……やっぱり、レナ」

 昨日と同じ。けれど、声が少し強い。


 その瞬間、俺は気づいた。

 “選択が同じでも、重みが変わる”。昨日より勇気がある。つまり、俺が「戻ってきた」と言った影響だ。


 カイが言う。「俺はリクだ。よそ者」

 火傷の女はレナ。木こりは俺。痩せた青年は俺。寡黙な老婆は俺。


 多数はやはり俺。

 縄が近づく。心臓が強く跳ねる。


 だが――

「待て」俺は叫んだ。「塔だ!」


 カイの動きが止まる。

「昨日――いや、前の時。鐘の庇に部品が隠されていた。真鍮の輪と歯車だ。今もあるはずだ!」


 ミナが顔を上げる。「……確かめたい」

 老人が低く唸る。「……カイ」

 カイは短く頷き、塔へ向かう。


 やがて戻ってきた手には、光る部品。

 レナが目を細めた。「だから何? 部品が落ちていただけで」

「いや、これは仕掛けだ」俺は必死に言う。「鐘を狂わせ、投票の時間を操る。狼にとって都合がいい」


 広場の空気が変わった。

 レナの笑みが、わずかに引きつる。



 結局、その日も俺は吊られた。

 多数は覆らない。

 だが、ミナは最後まで俺を見ていた。

 縄が締まる瞬間、彼女が叫んだ言葉を俺は忘れない。


「次も戻れるなら――必ず助ける!」


 暗転。

 落下。

 再び、石の匂い。鐘の音。


 三度目の朝が始まる。



 俺はすぐに立ち上がった。

 昨日の昨日と同じ広場。同じ人々。

 でも、今度は違う。


「聞け!」俺は輪に加わる前に叫んだ。「俺はリク。ここに三度目だ! 狼は、この村の中にいる!」


 老人が眉をひそめ、周囲が凍りつく。

 そのとき、俺の視線は自然とレナに向いていた。

 踵の泥。鐘の部品。吊台の印。

 小さな“歯車”が、少しずつ、揃っていく。


 俺は確信する。

 ――この村には、複数の狼がいる。

 そして、ループを繰り返すごとに、その正体に近づける。



 夜。俺は初めて「処刑後」を見ることになった。

 死ぬ前には分からなかった、村の真の恐怖。

 広場の外れ、獣の唸りが闇を裂いた。戸を閉めても震えは止まらない。狼が動いている。

 叫び声。軋む木戸。悲鳴と、肉を裂く音。


 ――翌朝、木こりの死体が発見された。胸を噛み裂かれ、血が石畳に広がっていた。

 人々は蒼白になり、互いを睨み合う。


「やはり、狼はいる」老人が言う。

「昨夜吊ったのは狼ではなかった」カイが低く答える。


 俺は震える手を握りしめた。そうだ、まだだ。狼は他にいる。

 そして、この村には――必ず二匹以上。



 三度目の朝、投票の空気は変わっていた。

 レナは相変わらず余裕の笑みを浮かべていたが、踵の泥と鐘の部品の件が人々の記憶に残っている。

 ミナは俺の方をまっすぐ見た。「リク、あなたは嘘をついていない。私はそう信じる」


 その言葉が、俺に力を与えた。

 ループを繰り返し、犠牲を積み重ねても、確実に未来は変わる。

 狼を暴くまで、俺は死に戻る。何度でも。

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