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異世界転生したら処刑投票の村でした〜死に戻りを繰り返して人狼ゲームを勝ち抜く〜  作者: しげみち みり


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第19話「孤立する拍、俺の鼓動」

 夜半、俺はひとりで目を覚ました。

 静けさは不自然なほど深く、虫の声すら聞こえない。

 胸に手を当てる。

 ――ドン。

 確かに鼓動はある。

 だが、その裏に、もうひとつの鼓動が忍び寄っていた。

 遅れて、柔らかく、影のように。

 囁きが俺の命を模倣し始めている。


 「……ついに来たか」

 呟いた声は自分のもののはずなのに、耳に届いた瞬間、影が真似をして返す。

 「……ついに来たか」

 まるで二人の俺が同時に喋っているようだった。



 翌朝、広場に出ると、村人たちの視線が一斉に俺に注がれた。

 ミナが青ざめた顔で駆け寄る。

 「リク……顔色が」

 「大丈夫だ」

 強がって言うと、また影が同じ声で繰り返す。

 「大丈夫だ」

 周囲の者たちは凍りついた。


 老婆が杖を突きながら近寄り、目を細めた。

 「もう囁きに半分食われてる。声じゃない、拍のほうだよ」

 ヨルグが唇を噛みしめた。

 「放っておけば、命ごと奪われる」

 「じゃあ、どうすればいいんだ」俺は叫んだ。

 その叫びも、影が真似して返す。

 「どうすればいいんだ」

 輪の中に俺が二人いる。



 老人が杖を鳴らした。

 「合声では守れぬ。鼓動は一人のものだからだ。……リク、自分で決着をつけろ」

 「どうやって?」

 「孤立するしかない。輪から出て、影と一対一で拍を競え。おまえの鼓動が本物なら、影は耐えられぬ」


 広場に沈黙が落ちる。

 孤立――それは守りを捨てることだった。

 誰も声を重ねてくれない。

 鼓動が乱れれば、そのまま死ぬ。


 ミナが泣きながら首を振った。

 「駄目だよ、リク。孤立なんて……!」

 だが俺は彼女の手を握り、微笑んだ。

 「大丈夫。これは俺の戦いだ。声も鼓動も、俺が守る」



 夜、吊台の前にひとり立った。

 村人たちは輪を作らず、遠くから見守るだけ。

 俺と影の二つの拍が、静寂の中で重なっていた。

 ――ドン。

 俺の鼓動。

 ――ドン。

 遅れて影の鼓動。

 やがて影は先に出始めた。

 ――ドン、ドン。

 俺を追い越し、俺の心臓を操ろうとする。


 喉が焼け、視界が揺らぐ。

 倒れそうになる俺を、影の声が嘲る。

 「ひとつ多い」

 「ひとつ多い」

 同じ言葉が幾重にも反響する。



 俺は拳を握り、胸を叩いた。

 返拍――声の時と同じだ。

 だが、鼓動を逆に打つのは死と隣り合わせ。

 頭がくらみ、血が逆流する。

 「リク!」ミナの悲鳴が遠くから聞こえた。

 「やめろ!」ヨルグが叫ぶ。

 だが俺は続けた。

 ――ドン! ドン!

 影の鼓動をずらす。

 俺の心臓は苦しみ、体が痙攣する。

 だが影の拍も乱れていった。


 「……俺の鼓動は、俺のものだ!」

 叫びは掠れ、血の味がした。

 だが、その瞬間。

 影の鼓動が崩れ、輪郭を失った。



 俺は地に倒れた。

 胸は激しく波打ち、呼吸は荒い。

 だが、鼓動は戻っている。

 影の真似声はもう響かない。


 村人たちが駆け寄り、ミナが泣きながら抱きしめた。

 「生きてる……リク、生きてる!」

 ヨルグは深く息を吐き、老人は杖を突いて頷いた。

 「よくやった。孤立を乗り越えた者の拍は、もう奪えぬ」


 だが俺は知っていた。

 影は消えていない。

 ただ、次の狙いを変えただけだ。

 耳の奥で、かすかな声がした。

 ――「俺だけを狙っても意味がない。次は……村すべてだ」

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