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異世界転生したら処刑投票の村でした〜死に戻りを繰り返して人狼ゲームを勝ち抜く〜  作者: しげみち みり


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第15話「声の皮、俺の声」

 朝の広場に輪ができた。

 だが昨日までの輪とは違う。

 誰もが緊張で唇を固め、互いの声を見張り合っている。

 囁きが声を奪い、返すと知ってしまったからだ。

 声はもう、人を証すものではなく、いつ奪われるか分からない影の皮だった。


 俺は輪の中央に立ち、胸の奥を押さえていた。

 夜の夢の残響が、まだ消えない。

 自分と同じ顔の影が、俺より正確に数えていた。

 ――「ひとつ多い」。

 その言葉が耳に残り、喉を震わせるたびに自分の声が自分のものではない気がする。



 「始めるぞ」

 老人が杖を鳴らした。

 「ひとつ」

 俺とミナが声を合わせる。

 「ふたつ」

 カイと弟が続く。

 輪の外へ、声が広がる。

 囁きは今のところ、静かだった。


 だが「みっつ」を唱えた瞬間、俺の喉が止まった。

 声が出ない。

 口は開いているのに、音が漏れない。

 広場のざわめきが一斉に高まる。

 次の瞬間、輪の外から――俺自身の声が「みっつ」と返ってきた。


 俺は愕然とした。

 囁きが、俺の声を奪ったのだ。

 耳の奥で冷たい笑いが響いた。

 ――「返してほしいか?」



 「リク!」

 ミナが肩を掴み、必死に叫んだ。

 「合声だ! みんな、重ねて!」

 村人たちが一斉に「よっつ」と声を重ねる。

 厚みのある合声が広場を満たし、外の「みっつ」は掻き消えた。

 俺の喉から、遅れて声が漏れた。

 「みっつ……」

 戻った。だが掠れていた。

 まるで借り物を返されたかのように。


 老婆が笑う。「ほら見な。おまえの声も皮にされた。囁きは剥ぎ取り、返すたびに薄くするんだ」

 ヨルグが険しい顔で言う。「違う。返すのは試しているんだ。……声が誰のものか、確かめてる」


 老人は杖を強く突いた。「どちらでもいい。大事なのは“取り返せる”と示すことだ」



 その日から、輪は俺を守るために組まれた。

 皆が俺の声に自分の声を重ね、余白を与えないようにした。

 だが、心の奥では恐れていた。

 守られるほど、俺の声は俺のものではなくなる。

 合声に紛れれば、俺の音は輪の中に埋もれ、皮と本物の境がなくなる。


 夜。

 ひとりで吊台に立った。

 声を出してみる。

 「ひとつ」

 返ってくる。俺の声で。

 「ふたつ」

 また返ってくる。

 誰もいないのに、もうひとつの俺が輪を作っている。


 胸が冷えた。

 これはもう囁きではない。

 俺自身の中に生まれた“声の影”だ。



 眠れずに夜を歩いていると、弟に出会った。

 彼は声を持たないまま、月明かりの下で口の形を作っていた。

 「ひとつ」「ふたつ」……声にならない数え。

 だが、俺にははっきりと聞こえた。

 ――弟の声で。

 奪われた声が、影を通じて俺にだけ返ってきているのだ。


「おまえも奪われてるのか」

 問いかけても、弟は首を振らない。ただ目を逸らした。

 次の瞬間、耳の奥であの声が囁いた。

 ――「声を返そう。だが代わりに、おまえの声をよこせ」


 俺は息を呑んだ。

 囁きは取引を持ちかけてきたのだ。



 翌朝。

 広場に輪ができ、全員が俺の顔を見ていた。

 老人が言った。

「リク。声を守るのはおまえ自身だ。合声に頼るだけでは、いずれ囁きに呑まれる」

 ミナが泣きそうな声で言った。「お願い、奪わせないで」

 俺は拳を握った。

「……奪わせない。俺の声は俺のものだ。返すも奪うも、俺が決める」


 喉の奥で、囁きが笑った。

 ――「では試そう。おまえの声は本当におまえのものか?」

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