第9話:婚約者との偽装デート:いつ身バレするかとヒヤヒヤしています
クレハトール侯爵邸にプラスタール公爵家の馬車が止まっている。
プラスタール公爵家子息のダンテがルルを迎えに来たからだ。流石に公爵家の馬車だ。造りが侯爵家とは違う。ララは侯爵家の馬車ですら立派であったのに、更に上質な馬車があるとはと、驚いていた。
御者の手を取って馬車に乗り込むと一人の男性が座っていた。
「失礼します…。ダンテ、様ですね。お待たせしました。ルルです。」
その声を聞いて男性、ダンテは顔を上げた。
彼赤みがかった艶感のある金色の髪に瞳はどこか懐かしい青色。そう、まるでシアンの瞳のように…。整った眉に長いまつ毛。そして引き締まった顎のライン。身体は公爵家ともなれば剣術で鍛えているのだろうか、ララは暫く見とれていた。
「……………。何をしている?早く座りなさい。」
「あ…、はい。」
〝いけない、あまり変な行動をしているとルルじゃないってバレてしまうかもしれないわ。〟
それから二人は会話をしなかった。ただ、馬車の車輪の音だけが鳴り響き、揺れ動くのだった。
〝しまった…。返事しかしなかったとしても、これはあり得ない。それにこの婚約の経緯を聞かなかったのは間違いだったわ。どちらから申し込んだのかしら…。ルルはこの方の事を好きなのかしら?〟
ララがドキドキ緊張しながら考え事をして俯いていたその時、ダンテはララの顔をじっと見ていた。
〝こんなに世の中にはよく似た人間がいるもんなんだな。驚いたな。〟
何やらダンテは誰と比較して考えているかのようだ…。
〝ダンテのやつ、腰を痛めて動けないからって俺にピンチヒッターを頼むなんてふざけてると思ったが、これはちょっと面白い展開になるのかもしれないな。はは。〟
と、まさかのこちらも代理人だったというわけだ。
「今日はどうやって過ごしますか?」
突然目の前の男、ダンテが言った。
〝え…。これだと意見を言わなくてはならないじゃない。あの子と違う行動をしたら怪しまれるじゃない、どうしよう…。〟
ララがそう考えている時、ダンテを装っている男はこう考えていた。
〝おいおい…。とても内気なお嬢さんだと聞いていたが、まさか自分の意見すら言えないのか?やれやれ…。〟
男はこの調子で一日を過ごすのが苦痛だと考えて
「では観劇を見に行きましょう。ほら。ちょうどもう少し行ったら劇場が見えてくる。今なら〝碧の薔薇婦人〟が人気らしいですよ。」
そう言ってララに微笑んだ。
ララはその微笑になぜか懐かしさを感じ
「は…はい、それでお願いします。」
と言って俯いてしまった。
〝ど…。どうしよう。この人毒でも持ってるのかしら。心臓がさっきからうるさくて苦しいわ。〟
ララは初めての感覚に焦っていた。
ダンテを名乗る男はそんなそわそわするララを見て口元が緩んだ。
〝本当にこのお嬢さんは面白いな。ダンテの顔なんてちっとも見ていなかったのだろう。俺と入れ替わっていても全然気付いてないんだからな。さて、この事をダンテにどう報告するかな、て、ダンテも同じか。ハッ、似たもの同志でいいじゃないか!〟
そして馬車は劇場前に到着した。
男はスマートにサッと立ち上がり、先に馬車を降りてララに手を伸ばしてきた。
ララはそっと手を差し出してエスコートを受けた。
「あ…、ありがとうございます。」
と、小さい声で男にお礼を言った。
〝俺を公爵子息だと思っているから媚を売っているのか?〟
男は親友のダンテの為にララを観察していた。
そんな男の気持ちとは違い、ララは初めて見る劇場の広さ、大きさ、煌びやかさに驚いていた。
辺りをキョロキョロと見回しては呆然としていた。
〝なんだ?あのお嬢さんは。侯爵令嬢ともあろう者が劇場くらい何度でも通っていそうなのに。まるで今日初めて来たみたいじゃないか。〟
男は不思議そうにララの様子を見ていた。
ふと、ララは男の視線に気付いて
「あ…、ごめんなさい。あまりにも素敵だったので…。」
と、本心で話してしまった。男は驚いた。〝素敵?ここよりも邸の方が煌びやかだろうに?〟
男はララに対して不審を抱いた。
「さあ、中に入りましょう。特別席を用意してもらいましたので、ゆっくり観覧出来ますよ。」
ララは静かに頷いた。
その特別席はテラス式になっており、ほとんど個室のようなもので、食事やドリンクを楽しめるのだ。
その特別席に案内された時のララの反応も男が想像していたものとは違った。先程から垣間見る〝令嬢らしくない〟部分が見え隠れする。
「ルル嬢。ここでは軽食も頼めますが、どうされます?」
「あ…、いえ。大丈夫です。」
「じゃあ、飲み物だけ注文します。何がよいですか?」
「メニューを頂けますか?」
そうして男がララにメニューを渡す。
〝どれもお値段が凄いわ。お会計ってこういう時はどうなっているのかしら。一番安いものにしておきましょう…。〟
「じゃぁ…。こちらをお願いします。」
そう指刺したのは下位貴族や裕福な平民層がよく注文する飲み物だった。上位貴族はこういう場ではよくシャンパンを注文するのだった。男はララが注文した物を見て動揺した。
ご覧下さりありがとうございます。
今回はダンテを名乗るダンテの友人という男がララをよく観察します。ダンテから聞いていた娘とは印象がどうしても違うと思うのでした。




