第87話:ルシアン、父王へ報告をするが相手にされなかった
ルシアンは昼過ぎには体調が戻り、自分の執務を行う予定だった。しかし、その前に父王にドロシアの件で耳に入れておくべきだと思い、訪問の約束を取り付けた。
「お前か…。珍らしいな、最近はよく私に会いにくるようになったが、どういう心境の変化だ?」
「父上、側妃様のことでお話があります。」
執務をしていた王の手が〝ピタリ〟と止まった。
「側妃のことだと?」
「はい。」
ルシアンは父王を真っすぐにジッと見て答えた。王はその瞳を見て真剣であると判断してルシアンの話を聞くことにした。
「して、側妃がどうしたのだ。」
「昨日、私に毒を盛りました。」
「……………?」
「昨日の毒は警告のつもりだったようで少量でしたので、このようにもう元に戻りましたが、幼き頃よりずっと毒を盛られたり、暗殺者を仕向けられたりしておりました。」
「……………。」
「父上、僕は母上を亡くしてからずっとあの側妃に〝耐性をつけるため〟という名目でずっと毒を盛られてきたのです!時には致死量に近い量を…!そんな僕を守ってくれたのがファモアーゼ侯爵です!父上もそのあたりはおわかりだと思いますが、大人になった今でもあの人は僕を…!」
「黙りなさい!」
父王はルシアンが話している途中で大き目の声で遮った。
「父上…?」
「ルシアン、滅多な事を言うもんじゃない。王族はどんな敵がいるかわからないから毒に対する耐性を付けるものだ。昨日のはその結果を見るためのものだったかもしれん。滅多な事を言うもんじゃない!」
「しかし…!」
「とにかく、お前はこの国の皇子だ。行動を慎みなさい。」
父はルシアンの話を聞こうとはしなかった。
「では…父上は私が死んでも構わないと仰るのですか?」
ルシアンは恐る恐る聞いてみた。
「それがお前の運命なら仕方あるまい。」
「……………!!」
ルシアンは驚愕した。そこまで父は自分に興味がなかったのかと…。
「わかりました…。父上は私を見もせず、私の言葉を聞きもせず…父上には失望しました。」
そう言って王の執務室を出た。
ルシアンは悔しかった。そして同時に悲しくて空しかった。
〝幼い頃より父は僕に見向きもしなかったが、今も変わらぬとは…。あの頃はただ母上を思い出すのが辛いからだと執事より聞かされていたが、それもどうだか…。〟
だがルシアンは諦めなかった。
〝きっと証人を消すためにお義母上の影が今夜あたりやってくるだろう。対策をせねば!〟
ルシアンには悲しんでいる暇はなかったのだ。自分の命を守ること、そしてララに自由を与えるためにも、ただ今は行動するのみだった。
その頃、執務室に残った王は机の上で頭を抱えていた。
〝側妃がルシアンに手をかけようとしている?慈悲深く、フラシアが逝去した時でさえもあんなに悲しんで率先してルシアンの面倒を見ると言った、あの側妃が?〟
王は信じられなかったのだ。フラシア王妃を亡くし、無気力になった王を支えたのも実質側妃であるドロシアだった。王は深くルシアンの母、フラシア王妃を愛していたが為にその落ち込みようは誰もが心配するほどだったのだ。だからあの時深く支えてくれた側妃がルシアンを殺そうとしているということが信じられなかったのだ。
〝今までもずっとルシアンのことを一番に案じてきたのは側妃の方なのだぞ?あれが演技なのか?わからない…。フラシア…。教えてくれ。私はどうしたらいいのだ?〟
そう嘆いている王の前に小さな光が〝ふわり〟と飛んできた。その光に王が気付くと光を手に取ろうと手を伸ばしたが、その瞬間光は消えてしまった。
「────君か?」
王は弱弱しくそう呟いた。
〝何故もっとそばにいてくれなかったのだ。何故私を置いて逝ってしまったのだ。何故…。〟
王は愕然とし、再び机の上で頭を抱えてしまった。
そしてドロシアは自身の書棚から一冊の本を取り出した。表紙には妖精の絵が描かれていた。ドロシアの悪どい性格を知っていると何とも似つかわしくないのだが、とても大切そうに扱っている。
きっと王位継承問題がなければ普通の女性だったのだろう。
ドロシアはその本を胸に抱きしめながら目を閉じて何かを思い出していた。
そう、あればドロシアが王宮に来て間もない頃だった。
既に王妃としてフラシアがいたので側妃としてドロシアは迎え入れられたがほとんど寝室に呼ばれることがなかった。王はいつも王妃フラシアを大切にしており、自身には目もくれなかったのだ。
そんなドロシアは密かに庭に出て花を愛でるのが毎日の日課だった。王妃はドロシアに対して何かをするわけでもなかった。しかしドロシア自身、テオドラ公爵家の出自であり、王妃は平民であると聞いていたのでドロシアの方が王妃を見下していたのだった。だが、どんなに身分が上だったとしても今は自分の方が身分は下なのだ。悔しくてドロシアから王妃には近付かなかった。
ご覧下さりありがとうございます。ルシアンと父王との間の確執が中々消えません。父王にとっては実のルシアンよりも苦しい時に支えとなった側妃の方を遥かに信頼しているようです。




