第79話:幼馴染が去って行く…。
ルルが馬車で町外れの家へと帰り着く頃、ダンテはまだ王城にいた。どうやらルシアンを訪ねていたようだった。ダンテは先に国王に挨拶に行き、この度の自身の不始末により、第二皇子の側近を継続出来るのかどうか、進退伺いをしていたのだった。
「そちの申し出はわかった。うかつな真似をしたな。プラスタール公爵家の人間として、恥じぬ行動をせねばならんものを…!そなたには正直、失望したよ。そもそも、平民となり下がったそなたには明日より王城に登城することは許されない。今日中に全て処理をしておくように!」
「はい、陛下。この度の失態、大変申し訳ございませんでした。」
「よい、若い者のうち、そなたのような者は数名おるからな…。平民となったら今よりも生活が苦しくなるだろう、婚約者殿を大切にな。」
「はっ!有難きお言葉!」
ダンテは胸が熱くなった。このような失態をした自分に向けて、陛下は寛大なお言葉をかけて下さったのだ。だが、これは全て〝プラスタール公爵家〟の名があったからだ。実際の陛下の心情までは読み取れまい。
そんなダンテが次に向かったのがルシアンの元だ。幼馴染でもある彼ならどうにかしてくれないだろうか、と思いつつ彼を訪ねた。
ちょうど留守だったので、執務室でやり残していた業務を行ってルシアンが戻ってくるのを待っていた。
〝ガチャリ〟と執務室の扉が開いた。────ルシアンだ!
〝ガタンッ!〟と席を立つダンテ。その物音でルシアンはダンテが居た事に気付いた。
「……………ルシアン…。」
ダンテが短く彼の名前を呟く。ルシアンは不思議そうな顔をしてダンテを見ていた。この様子だとまだダンテが犯した失態を彼は知らなさそうだ。このままルシアンを騙して居座ることも可能なのかもしれない。だが、そうした場合、陛下との約束を破ったことになり、きっと平民となったダンテはより厳しい罰を受けるだろう。それに幼馴染を騙すのも気が引けた。
「どうしたんだ?もうとっくに退勤の時間じゃないか?」
ルシアンがダンテにそう声をかけた。
「ああ、ルシアン。すまない。僕は大変な事をしてしまったんだ。」
ダンテが悲痛な顔でそう話始めた。ルシアンは一つだけ心当たりがあった。それは以前、ダンテから聞いていたからだ。
「まさか…?」
ルシアンがそう呟くとダンテが
「ああ…。そのまさかだった。」
「そうか…。」
ルシアンはそれ以上、言葉に出来なかった。「決まりは決まり」なのだ。しかも公爵家の中での決まりに一皇子ごときが口を出せるはずもない。
「それで父上には?」
「ああ、先に報告に上がったよ。」
「それで父はなんて…。」
ダンテは静かに首を横に振った。それを見てルシアンは全てを悟った。
「そうか…。」
長く執務室では沈黙が続く…。それはどうにかしてやりたい気持ちとどうにもならない現状に対しての行き場のない葛藤だった。
「これからって時にそばにいられなくてすまない…。」
ダンテがようやく言葉を発した。
「そうだな、本当にこれからって時だな。残念でならない。」
ルシアンは立場上、そう言うしかなかった。
「この先、どうにかなる予定はあるのか?」
「いや…。まだない。だが、多少剣の経験もあるんだ。傭兵にでもなって稼ぐしかないと思ってるよ。」
「そうか…。」
二人は言葉に詰まりながらも今後について慎重に話をしていた。どうにかして裏からでも援助をしてやりたいと思う気持ちと、どうにかして頼らずに生きていく覚悟をしようとしている気持ちが、狭い執務室の中で交差していた。長く共に過ごしてきた幼馴染だ。お互いに大切に思っているがゆえの無言の時間が続いた。
「すまない、やり残していた仕事は片付けたから。君の事をずっと陰ながら応援しているよ。」
「ああ、ありがとう。元気でな。」
「ああ。君も…。」
そう言ってダンテは静かに、深くお辞儀をして執務室を後にした。それは幼馴染でもあり、自身の上司でもあるルシアンと、長く務めた執務室への感謝と敬意を込めてのことだった。
ダンテはこれから産まれてくる自身の子供とルルのためにどうにかして稼ぐ事を考えていた。
それなのにルルはそんなダンテを裏切ってより楽な人生を選ぼうと必死だった。
ダンテが家に帰るとルルはつわりが酷いようで寝込んでいた。
「ルル、ただいま。身体は大丈夫なのかい?酷い顔色だな、ちゃんと食べれてるのか?」
ダンテはルルを心配してそう声をかけた。しかしルルは機嫌が悪く
「放っておいて!」と突っぱねた。驚くダンテ。
「どうしたんだい?身体が辛いからか?」と心配そうにルルを見る。が、ルルはダンテを睨みつけて
「こんな事になったのはあなたのせいよ!身体は辛いし、なのに生活までも変わってしまったのよ?」
「ルル…。すまない。しかし、それは僕だけのせいでもないよ、君もあの日僕を受け入れてくれたじゃないか…。」
ダンテは悲しそうにそうルルに言った。しかしルルは苛立た猫のように
「知らないっ!」と言って怒って布団を被ってしまった。
立ち尽くすダンテ…。
ご覧下さりありがとうございます。窮地に立たされたダンテの心まで気遣う事も出来ないルル。自分の事で手がいっぱいだった。




