第76話:思い出すのは辛い記憶?いいえ、優しい甘い記憶
王宮の第二皇子の執務室。ここにルシアンとララは二人っきりでルシアンから大切な話を聞かされていた。それは共に1年近く過ごしたシアンの本当の事情であった。
「そして正にララと出会ったあの日、僕は祖父と共にポツトマ子爵領へと訪れていたんだが、暗殺者に追われていてね、あの川へと滑り落ちてしまったんだ。あの川は深くて流れも速いから一度沈んで浮いたあとにもう一度沈んだらもう溺れた思って暗殺者たちは逃げて行ったんだ。そして僕は水底で魔法を使って全く違う姿に変身したんだ。それが君と出会った時の僕だよ。」
「うん…。」
「そのあとも僕のために色々世話をしてくれた君が忘れられなくてね。様子を見に行ったんだが、子爵からは君が病気で亡くなったと聞いてね、しかも墓まであったんだ。僕は絶望したよ。そんな時に君にそっくりなルル嬢に会ってそして君に会って…。本当に生きていてくれてよかったよ。」
「ルシアン様…。そのあたりのお話はまた私からいつかさせて頂きますね。」
「ああ、わかった。とにかくそういうわけで僕はずっと側妃から命を狙われてきた。今回、あの舞踏会のどこかで僕らを見たんだろうな、それで君に目を付けたんだと思う。」
ララは側妃に目をつけられたことよりもルシアンの今までの事を思うと胸が痛かった。
「ララ、君の周りでおかしなことはなかったか?」
ルシアンは心配してララに尋ねた。しかしララはあの嫌がらせはルルの仕業だと思っていたので
「いいえ、特に何も…。」
そう答えた。その答えを聞いてルシアンは少し疑問に思った。側妃がララの存在を知ってそのままにしておくとは考えられなかったからだ。
「まさか側妃はララを本気でパドルの正妃にと考えているのか?!」
そう呟いていた。そんな時、ララが言葉を発した。
「そう言えば…!」
「……………?」ルシアンはララを見つめる。
「パドル殿下がおかしな事を言っておりました。〝君は何に巻き込まれたんだろうね〟と、つまりその側妃様が…?」
「ああ、きっとパドルも気付いていたんだろうね。間違いなさそうだ。僕たちが一緒にいたのを利用されたんだな。目的は僕を苦しめることだから君に危害はないとは思うが、充分注意してくれ。君に何かあったら僕は……………!」
そうララに向かって言うルシアンの瞳はとても熱く揺れていた。ララはその瞳を見て自身の心が〝トクン!〟と揺れた。
「わかりました。ルシアン様。」
ララはまだ自分自身の気持ちに気付いていない。だが、ルシアンの瞳からは自分を心配する気持ちが痛いほど熱く伝わってきた。そんなルシアンの瞳から視線を逸らすことが出来ず、見つめあったままララはそう返事していた。
真実を知ったララ。
「ルシアン様?魔法ってどなたでも使えるものなんですか?」
ふと思ったことをルシアンにぶつけてみた。このままルシアンとの時間をもう少し過ごしたいと思っていた。
「あぁ…。普通は使えない。だから僕が姿を変えたことで僕であると思う人間はいないな。」
「では、王族だから使えるとか?」
ララの質問にルシアンは全部答えてもいいと思っている。だが、それを話すには自分の母親の事も話さなければならない。それは簡単には話せないのだ。
「すまない。その話はまたいつか、時が来たら話すよ。」
「いいえ、すみません。」
謝るララにルシアンは「大丈夫だ。」と言うようにニッコリと笑った。
「本当は君の婚約の話をなしにするように父王に抗議しに行ったんだ。だが、無理だと言われてしまった。こうなった以上、パドルに資格がないことを証明するしかない。」
「ルシアン様、それはとても危険なのでは…。」
心配するララ。しかしルシアンはそれ以上にララを助けたいのだ。
「ララ、心配しないで。これは僕自身のためでもあるんだ。僕はこのまま君がパドルのものになるのを黙って見ていたくないからね。だから心して待っていてくれ。」
ルシアンはまっすぐにララを見てそう言った。執務室なはずなのにどこか空気が柔らかく感じた。
「……………はい…。」
ララは頬を染めてそう小声で返事をした。胸の中がとても熱くなっていく…。静かに静かに押し寄せてくる熱がララの頬を染めて胸を高鳴らせる。
ルシアンはララの手を取ってそっと口づけをした。ララは咄嗟のことで驚いたが、その瞬間、4年前のあの日のことを思いだした。
「……………っ‼」
顔が〝ボン!〟というかのように真っ赤になった。
そう、思い出したのは川で溺れていたルシアンを助けるために人工呼吸をした時のことだった。
てっきり女の子だと思ってララがしたのだが、今思えば間接…
ルシアンはララの顔が赤くなるのがあまりにも急だったので少し疑問に思って首を傾げた。ララはルシアンには思い出して欲しくなくて顔を横に振ったりしていたが、それが余計にルシアンに色々と考えさせてしまって、とうとう思い出したようだ。
ルシアン自身も自分の表情を隠すかのように右手の甲を自身の鼻付近に持って行って〝パッ!〟と立ち上がった。顔は……………真っ赤だった。
ここは第二皇子の執務室なのだが、何とも甘酸っぱい空気が漂っていた。
ご覧下さりありがとうございます。ルシアンが暗殺者に襲われた時のことを話してララに今後の事もあり、注意するように伝え、二人は離れていた時間を埋めるかのように知りたいことを話そうとします。が、ルシアンの取った咄嗟の行動がララにあの日の記憶を呼び起こし、またルシアンも思い出して二人して動揺しているのがいいですね。ちょっと恋愛物語っぽくなったかな?と思ってます。




