第62話:皇子二人のパートナーについて調査する側妃ドロシア
ルシアンにしてもパドルにしても流石皇子。ダンスのリードが上手い。パドルのお相手のマリーは平民でこういう社交ダンスは踊り慣れていないだろうに、それすら感じさせないほどリードが上手いのだ。
〝やっと念願叶ってマリーとダンス出来るんだ。〟パドルのダンスからは喜びに溢れたものとなっていた。
そばで踊っていたルシアンもそれは感じていた。ルシアン自身、パドルに対しては複雑な心境だったのだ。彼が直接ルシアンに何かをしたわけではない。まして、幼い頃、側妃に見つかるまでは一緒に剣術を通して遊んだこともあるからだ。そのことに関してはルシアンも記憶に残っている。
多分、彼には王位などどうでもいいのだろう。ただ、側妃が固執しているだけなのだ。そのことにはルシアンも少なからず気付いている。だが、このままパドルを放置していると側妃の思惑通り、王位はパドルのものとなり、自身は廃位、もしくは争いの火種になるために処刑されるかもしれない。
〝あの女がいる限り、僕に平穏など来やしない…。〟そう思っている。ルシアン自身20歳になっている。そろそろ王にも世間に顔を出せと言われている。いよいよ側妃と対峙する時が迫ってきたのだ。
〝こちらから罠を仕掛けるべきか?!〟こういう事には慣れていないルシアン。今まで自身の身を守ることで精一杯だったからだ。そして、いつ、ララの存在を突き止められるかもしれない。そう思うとルシアンの心は焦りが見えていた。
「ルシアン様?どうされたの?」
ララが声をかける。〝ーそうだ、ダンスの途中だった。〟
「すみません、少し考え事をしておりました。」
「まあ、珍しいですね。ルシアン様が…。」
「ハハハ、僕もうっかり考え事しますよ。」そう言ってルシアンはララをクルリクルリと回転させてから自身の胸元に引き寄せた。
「もう、びっくりするじゃありませんか。」
ララは怒りながらも笑っていた。二人はとても楽しそうだった。
そして仮面舞踏会も終わり、
「どうやら僕の勝ちですね。」そうルシアンがニッコリと笑いながらララに言った。
「どうやらそのようですわね。」ララは〝やっぱり勝算があったのだわ。〟と思っていた。
「また、機会がありましたらぜひ僕をパートナーにして下さい。ララ嬢のためでしたら他の予定を開けてでも飛んで参ります。」
「ルシアン様ったら、本当に飛んできそうな勢いですわね。ふふふ。」
ララはルシアンが大げさに言っているだけだと思っていたが、ルシアンは至って本気だった。
「さあ、それでは帰りましょう。送ります。」そうルシアンが言ってララに手を差し伸べた。
「はい、お願いします。」ララはもうその手を拒むことがなかった。たった二日、正確にはそのうちの数時間なのだが、どうやらルシアンに対して心を開いたようだ。
ルシアンは相変わらず葛藤があるものの、目の前のララにどんどん惹かれていく。
〝もっと彼女と話をしたい、もっと彼女を知りたい〟そういう思いが彼の脳裏を支配していた。
そして馬車はあっという間にクレハトール侯爵邸へと到着した。
ルシアンは無事、ララを送り届けて自身のファモアーゼ侯爵邸へと向かった。
そんな彼らを影から見てつけてきていた人物がいた。側妃専属の影であるスペードだ。側妃の影は4人おり、トランプの絵柄のコードネームがつけられている。特にスペードは側妃のお気に入りだ。
本来ならルシアンはこのスペードの存在に気付いていそうだが、馬車で仕切られた空間にララとの時間が楽しくて油断していたのだろう。それにスペード自身からの殺気が感じられなかったのも大きな点だろう。
スペードはそのまま、仲間のダイヤに側妃からのもう一つの指令、ララを脅すということについて指示した。ダイヤは女性だ。メイドのふりをして侯爵邸に忍び込むことが簡単なのだ。そしてスペードは側妃の元に参り、ララの存在を報告した。
「なに…!一昨日挨拶に来たあのクレハトールの娘か!確か銀髪だったな、あれはかつらを着用していたのだな。あれだけ親しげにしていたのにいつ出会ったのだ?彼女は療養から戻ったばかりだというのに…。」
側妃は不審に思った。あれだけ人間に対して警戒心の強いルシアンがたった数日で心を許しているようなのだ。彼女がそれだけ凄いのか、彼女が邸宅に戻ってくるまでにどこかで会っていたのか、どちらかだろうと推測した。
「ふふふ…。それだけあの女に入れこんでいるということ、つまり奴の弱点!これは良き情報を手に入れたぞ!ハハハハハ……………ッ!」
側妃はご満悦だ。ひたすらルシアンの弱点を手に入れたことで流行る気持ちが抑えられない様子だったが、ふと、我が子パドルのことを思い出した。
「……………っ!パドルめ……………!」
側妃は自身の拳を握りしめ、再びスペードに命令した。
「パドルと共にいたあの女の情報を持ってまいれ!」
スペードは黙って側妃に一礼をしてからその場を去った。
「私がせっかく王位に就けるように苦労しているというのに、何をしているのだ!?明日の朝、パドルを呼んで参れ!」
今度は側妃付きの侍女にそう命じた。
ご覧下さりありがとうございます。色濃いキャラクターになりそうな側妃ドロシア。溺愛する息子を王位に就けたいというその執念は激しいのでした。




