第58話:すぐ隣にいるのに心の距離が遠くなった兄妹
王宮舞踏会でルシアンとダンスをしたララ。二人の関係は恋人でも婚約者でもないために続けて踊る事が出来ず、美味しいと噂の軽食コーナーへと二人は移った。そこで今の社交界での流行をルシアンから聞いてそれに乗ることにしたララ。
「まぁ、ルシアン様!そんなに沢山!いくら一つが小さいからと言って私一人では食べきれないと思いますわ。ふふふ。」
ララは取り皿に盛々と載せられた色とりどりの華やかなケーキを見て驚きつつ、厳選しながら楽しそうに取っていたルシアンを思うと思わず笑ってしまったのだ。
「あぁ、つい。」
ララは慌ててそう言ったがルシアンは気にもしていなかったようだ。それよりも目尻を下げて穏やかに微笑みながらララを見つめていた。そんなララははにかみながらルシアンに
「では、一緒に食べませんか?」と提案した。
「ははは、それはいい案ですね。」ルシアンも笑いながら答えた。そしてゆっくりと二人で歩きながら、座りながら食べれるスペースを探した。
そして見つけた場所には隣にルルとダンテがいた。
「おや、君たちか。」ルシアンが二人を見て言った。
それに気付いたルルは一瞬顔をしかめたがダンテの手前、すぐに笑顔を作って「お久しぶりです。」とルシアンに挨拶した。
「ああ、ルル嬢。」ルシアンはそう冷めた返事をした。そしてダンテが
「おや、君が女性をエスコートとは珍しいね。」と言って隣にいるララの姿を見て驚いていた。ダンテが驚いている様子を見てララはニッコリと微笑みながら
「ララです。ルルとは双子ですので似ていて驚きますよね。」とダンテに対して挨拶をした。
「あぁ…。よくクレハトール邸には行っていたが会うことがなかったですね。」
ダンテは驚きながらそう言った。だがダンテが驚いているのはララがルルと同じ顔だからではなく、あれだけルルに会うために邸を訪れたのに一切会わなかっただけではなく、その存在すら今まで聞かなかったことに対してだった。
〝ルルはどうして僕に彼女のことを言わなかった?隠していたのか?〟ダンテは盲目的にルルを愛していたが、このことがどうしても頭から離れなくなった。
そんなダンテにララは返事を返した。
「はい、私は病弱でしたので産まれてすぐに療養に出ておりまして、つい先日こちらに戻ってきたばかりですので…。」
その言葉にダンテは安心したのか、ホッとしたような表情でララに
「そうなんですね。だからお会いすることがなかったのですか。今はもう大丈夫なのですか?」
という気遣いまで見せた。ララは〝くすっ〟と笑って
「ええ、すっかり元気になりましたので。ありがとうございます。」と答えた。
〝ルルとは全く違う雰囲気を纏う女性だな。〟ダンテはそう感じ穏やかな表情を見せた。
目の前でダンテとにこやかにやり取りをするララをルルは嫉妬の目で見ていた。そんなルルをルシアンは見ていた。〝このルルという女性は本当に自身の姉妹ですらそういう目で見るのか…。〟と呆れて見ていた。
そしてララに向かって「さあ、ララ嬢。こちらで頂きましょう。」そう言ってルルたちと隣の座席スペースに座った。
「まあ!流石王宮ね。ソファがふかふかだわ!」
ララが楽しそうにそう言うのでルシアンは思わず微笑んだ。
そして二人でケーキを分けていたところに声をかけてきた人物がいた。
「よぉ、ルシアン。」
それはシャルルだ。
「シャルル…。ちゃんとララ嬢をエスコートしてるから安心しろ。」
ルシアンは二人の時間に水を差したように感じて少しムッとした表情でシャルルに言った。シャルルの方を見ると隣には婚約者のリアンヌ嬢が一緒だった。
「そうか、なら安心だな。」
シャルルはルシアンの声色で〝やれやれ〟とでも思ったのだろう、相手にせずに本心で答えた。
「こんばんは、ファモアーゼ侯爵子息様。」
リアンヌ嬢がルシアンに声をかけた。ルシアンもリアンヌ嬢に挨拶を返した。
「ああ、こんばんは。リアンヌ嬢。」
そしてリアンヌはララの方に向かって
「こんばんは、ララ嬢。」と挨拶をし、ララも「こんばんは、リアンヌ嬢。」と二人はにっこり笑顔だった。
「ご一緒しても?」とリアンヌが言ったので「もちろん。」とララは答えた。
隣の休憩スペースにはルルがいるのに二人はそちらには目もくれずにララたちと話をしている。
〝お兄様、ルルが隣にいるの気付いているはずなのに何故声をかけないのかしら?〟ララは心配になった。きっと顔に出ていたのだろうか?リアンヌが静かに首を横に振った。
それはララが知らない、ララが侯爵家にやってくる前の話。まだシャルルとリアンヌの婚約が決まる前のことだ。お兄様大好きなルルは兄に近付く女性を徹底して毛嫌いしていたそうだ。もちろん、仲良くしていたリアンヌもだ。普通に話すだけならいいのだが、兄の名前が出た途端に機嫌が悪くなるし、招待状を送ったら勝手に破り捨てたりしていたそうだ。
リアンヌとは小さい頃からの付き合いで家族揃って行き来していた位だ。だからそれなりにルルはリアンヌとも慣れ親しんでいたに違いないが、リアンヌが兄を見る目が変わり、兄もリアンヌに対して甘い視線を送るようになった事に気付いたルルは牙を剥いた。
リアンヌに対しての嫌がらせはもちろん、時には怪我をさせてしまうこともあった。結果、責任を取る形でルルの意思とは反対に婚約の話が進んだのだ。もちろん、シャルルもリアンヌのことが好きだったから話はとんとん拍子に決まっていき、ルルの妨害を受けないようにと、ルルにも婚約者をつけるようにしたという経緯があった。幸い、その婚約者候補であったダンテがルルを気に入り、ルルはダンテに一目惚れしてはいたのもの、ルルは中々ダンテとの交際に進まなかった。兄への気持ちの方が上回っていたからだ。だからダンテが猛アタックしたのち、ようやくルルとの縁談が決まったのだ。
そして二人が婚約したため、ルルの兄への執着が収まったが、そういう経緯があるので、リアンヌはルルに対して警戒心がいまだに解けずにいたのだった。
もちろん、兄もその事を知っているがためにルルとは少しずつ距離を取ってきたようだ。今回、ララへのいじめでその距離感も決定的な物になったのだろう。
ご覧下さりありがとうございます。ルルは小さい頃から攻撃的な性格をしていたようですね。でもあれだけ素敵な兄であればそうなるのも仕方ないのかも?
シャルルは大事にしようと思う人間に対しては徹底的に大切にする人間なのです。




