第42話:絆
ここはクレハトール侯爵家。
ルルの部屋にシャルルが帰宅してすぐにやってきて文句を言っているところだ。どうやらルルのララへの仕打ちを早々に耳にしたようだ。
「だから!お前はどうして妹にそんな仕打ちが出来るんだ!?」
実の姉妹をあのように扱う妹が信じられないシャルルは怒りをそのままルルにぶつけた。が、肝心のルルはというと、
「あら、お兄様。あいつは妹なんかじゃありません。何を勘違いなさってるの?」
という、相変わらずあっけらかんとした返答をするのだった。
「お前はっ!父上が説明しただろ?お前たちは双子だったって!」
シャルルがいくら説明してもルルには届かない………………。長年そういう風に教育されてきたのだ。シャルルのように変われる人間の方が圧倒的に少ないだろう。そんなシャルルを目の前にしてルルは続けた。
「双子なんておぞましいものなんでしょ?いなくて正解だわ。恥ずかしいじゃないの。」
その言葉を聞いてシャルルの怒りは頂点に達した!
「何を………………っ!」
だがルルは冷静だ。どうやら今、この場を取り仕切っているのはルルの方だ。こういう時は感情的になった方が焦って場を自分の有利な方へと変えられないことが多いのだ。社交術を学ぶルルにとって、またルルの性格上、どうやら得意分野のようだった。ルルはどんどんシャルルを煽る発言をする。
「このことがバレたらお兄様の婚約だって破棄に繋がり兼ねませんわよ?」
「何だと?!」
「だって、お義姉様の為のお部屋をあいつに使わせてるだなんて、聞いたらきっとさすがのリアンヌ様だってお嫌でしょう?あいつは不吉な子として捨てられた身なんですもの。」
流石のシャルルも婚約者のリアンヌのことを出されると一瞬たじろいだ。しかし、リアンヌはそんな偏見をもつような女性ではないのだった。彼女はか弱い者を守るような女性だ。
「いや………………。彼女はそんな女性ではない!か弱いものを守る、心優しい女性だ。」
そんなシャルルの発言を聞いてルルは溜息を付きながら言った。
「だからと言って、私は悪くありませんわ。私の婚約者であるダンテ様を独占した罪は重いのです!」
「それは仕方ないだろう?そもそもお前がいい点数を取ってみたいなんて我儘言ったのが原因なんだから!」
シャルルにど正論を言われて〝ムッ〟となるルル。
「仕方ないじゃない!どんなに頑張ったって中レベルなんですもの!いつも侯爵令嬢なのにって視線で見られるの、結構辛いんだから!」
そう言ってルルは「うわぁーっ!」っと泣き出してその場にしゃがみ込んだ。頑張って社交術で兄を言いくるめようとしたようだが、ダンテの話が絡むと心穏やかではいられず、ついに感情的になってしまった。元々感情が出始めるとそれを制御するということには慣れていない。我儘が通っていたための結果だった。
そんなルルにシャルルはそっと近づいてルルに目線を合わすようにしゃがみこんだ。
「ルル、泣いたって変わらないよ。お前が悔しい思いをしたのはわかる。だけど、それはお前自身で解決すべきだったんだよ。人の手を借りるからこうなったんだ。」
穏やかにルルに言うシャルルに対してルルも穏やかに返答をする。
「私はそうしてみたいとしか言っていないわ。勝手に身代わりを連れてきたのはお父様よ?!」
「そうだとしてもだ。父上にキチンと反対しなかった僕らのせいなんだよ。ララは何も悪くない。」
「わかっているわ、そんなこと。だけど、どうやったらこのイライラを治めることが出来るの?!」
シャルルはルルの頭に〝ポン〟と軽く手を置いて
「なぁルル。俺たちは特権階級だ。だからってそれを振りかざすのは間違ってる。俺たちのこの特権階級は、弱者を守るためにあるんだ。周りのやつらがそれを知らずにやっていても俺たちが率先してそれを証明してやればいいのさ。人はみな、自分にないものを恐れるんだから。そうすることでお前の悔しい思いは違う方向へとやっていくよ。」
ゆっくりと優しく諭すように言うシャルル。視線をしっかりとルルに合わせている…。優しい兄だ。
騒ぎから様子を見に駆け付けたララは二人に気付かれないように外から離れて様子を伺っていた。またとんでもないイチャモンがつけられそうだからだ。
〝シャルルは本当にいい兄よね。私も素直に兄だと言えるといいのに………。ちょっとまだ抵抗があるわね………………。〟
そう思って見つめているララの横顔はどこか寂し気だった。
シャルルのその言葉でようやく落ち着きを取り戻したルル。
「お兄様の言いたいことは何となくわかりました。でも、すぐには変える事が出来ません。」
「ああ、いいよ。ゆっくりで大丈夫だ。お前の変化はきっとみんなを動かすさ。俺はお前を信じているよ。」
シャルルはそう言ってルルは静かに頷いた。
その日以降、ルルからの突然の嫌がらせはなくなった。出会うと嫌味の一つや二つは出てくるが、それでも身体的に酷い仕打ちをされるよりはマシだと思えてきた。
〝だって嫌味レベルだけならね………………。〟
そう、社交界は嫌味が飛び交う恐ろしい場所でもあったからだ。
この先、社交界デビューを目指してシャルルからの特訓はまだまだ続くのでした。
今日もシャルル指導による社交術の特訓だった。
「ララ、俺はいつか、お前がお前自身として社交界にデビュー出来る日を考えてこうしている。だからしっかりとついてこい!」
「ええ、シャルル。」
「ふっ。まだ〝お兄様〟は難しいか?」
シャルルはちょっと元気なさげにララに問う。ララは少し戸惑った。確かにシャルルのことをお兄様と呼べないことはない。それだけシャルルに対しては心を開いてきたからだ。ただ今更なのだ。きっかけがあればひょっとするかもしれないが…。
「ごめんなさい。まだ少し…。」
そう返事するしかなかった。
「あぁ、いいよ。待つよ。俺はお前の兄だからな!」
そう言ってニカッと笑った。ララの胸の奥が少しズキンとした…。
ご覧下さりありがとうございます。今回の件で今後のルルが少し変わりそうな予感ですね。そうなればいいのですが、どうでしょうか。
しかしララにはシャルルという頼もしい兄が出来つつあります。「お兄様」と呼ぶにはもう少し勇気が必要そうですね。




