第40話:温かいダンテの胸の中
それからダンテと、ルルに扮するララは共にルシアンに挨拶をしたのち、ダンテのプラスタール公爵家の馬車に乗り込んでそのままクレハトール侯爵家へと向かった。ガタゴトと揺れる馬車の中、少し無言になっていた二人。
最初に言葉を発したのはダンテの方だった。
「ルル嬢、…疲れましたでしょう?」
その一言に込められた意味…。それは単純に長時間を過ごしたから疲れたという意味だけでない事はララにとっては安易に想像出来た。だが、ルルならどうだろか…。ララは言葉を飲み込み、
「えぇ…。そうですわね、少し、疲れました。」
と答えた。
ダンテが言う、疲れたというのは気付かれの事だろう。大勢の前で行うかもしれない発表のこと、そして飛び交う意見、見知らぬ人々…。ルルならこのあとどうする?そう考えつつも、どうしても自身の言葉で返してしまう…。
「ダンテ様は…。大丈夫でしたか?」
そう問われたダンテは一瞬ビックリしたような面持ちではあったが、そのあとニッコリと笑って
「私は案外慣れておりますから。それにルル嬢とご一緒出来てそれだけで癒されておりますから。」
と、答えた。ララは頬を染めた。
〝目の前の男性はルルの婚約者…。これはルルに対して言ったのであって、自分宛ではない。〟そう思いつつも、男性からそのような言葉を言われたことがないララはちょっと面食らっていた。が、もちろん、表情には出さないように気を付けていた。
「も、もう…。ダンテ様ったら。そんな事を仰ると恥ずかしいですわ…。」
そう言って下を向いた。
「はは…。こんな馬車の中だったらムードも何もないですね、違う話をしましょう。」
「えぇ、そうですわね。」
ララがチラっと上目遣いをしてダンテを見た。
〝本当に鼻筋も通ってとても男前な男性ね。選り取り見取りなのにルルに惚れてしまうなんて…。だけどそのルルが身代わりを使っていた事実、私を虐待していた事実を知った時、あなたはどうするのかしら…?やっぱりそれでもルルの味方をして同じように私の事を扱うのかしら…。それともルルを軽蔑するのかしら…?ねぇ、ダンテ様…あなたはどうするのかしら…。〟
ララの中で時々、こういう黒い気持ちが込み上げてくる。それはルルがララを派手に虐めた時の反動なのだろう。いつか、ルルの悪事がバレて欲しいという気持ちがあるからだ。同じ姉妹なのに…と、どうしても思ってしまうからだ。
だけど、それに第三者を巻き込むのはどうか…という気持ちも確かにそこにはあった。
ララの瞳から ツーっと涙が一筋流れた。
ダンテはすかさずその事に気付き、ララに問う。
「どうしたのですか?ルル嬢?」
突然のことでとても慌てふためいている…。
肝心のララはというと、ダンテのその言葉で自身が涙していた事に気付く。
「あ…、な、何でもないです。ごめんなさい。ちょっと今頃緊張の糸がほぐれたみたいで…。」
そう言って胡麻化した。
ララの目の前にいたダンテはララの隣に座って、そしてララを自身に引き寄せる。
「いいんです。私のことを気にせずに、今は泣きたければ泣いていいんです。これは二人の秘密ですから、安心して下さい。」
ダンテはそう言ってララを自身の胸にうずめさせた。
ララは涙しながらもドキドキしていた。こんなに至近距離で男性に触れた事がなかったからだ。
〝本当に…。ルルにはもったいないくらい、いい男性だわ…。〟
ララは涙しながらそう思っていた。そして同時にルルが改心してくれるのが一番だと願った。
そんな二人を乗せた公爵家の馬車は相変わらずガタゴトと揺れながら侯爵家へと向かっている。
暗くなっているが、見慣れた景色が窓から見える。
「ルル嬢、そろそろ着きますね。」
そう言うとララはそっとダンテの胸から離れて「はい…。」と返事をした。
「すみません…。」
やっとの思いでそう言うララに対してダンテは静かに首を横にふり、
「私は全然気にしませんので、いつでも甘えて下さい。」
そう言った。
〝いつものルルとは違うと思いながらもやっぱりルルとして認識してるのだろうな…。〟
ララはこの身代わりがいつバレるのか、いっそのことバレてくれる方が楽なのではないか?と思いながらダンテを見つめ返した。
そして馬車が侯爵邸へと到着した。ダンテが先に降りてララをエスコートした。そして二人で侯爵に会って挨拶をしたのち、ダンテを見送った。
その後、侯爵から今日の手応えを聞かれた。
「して…。発表の方はどうだったのだ?」
「はい、今回は私の番までに時間があり、それまでに皆さまが白熱してしまい時間切れになって結局発表自体はしませんでした。」
「ふむ、そうか。次に参加する事があればまた可能性があるのやもしれぬな。」
侯爵は今後の事も考えていた。とにかく、今回は発表をしなかったお陰で何とか次回まで現状維持が出来るということがわかった。
「このまま入れ替わりがバレないように気を付けて行動してくれ。」
「はい、最善を尽くします。ですが、ルルからの情報を頂かないと正反対の対応をしてしまいそうになります。」
ララはこの際だからと侯爵に言った。
「それはどういうことだ?」
侯爵がギロっと睨みながら言った。
ご覧下さりありがとうございます。ルルと入れ替わっているということを知らないダンテはララに対してもとても優しく接してくれます。その温かさにララは罪悪感を感じつつも少しだけ癒されていました。




