第32話:公爵から密かに依頼を受けていたルシアン
プラスタール公爵の応接間で静かに公爵の登場を待つルシアン。今日はプラスタール公爵家の長男であるダンテの婚約者、ルル・クレハトール令嬢が学年3位を取得したお祝いのディナーが準備されている。しかしルシアンは別件で今日、プラスタール公爵と予定が入っていたのだ。
コンコン、とノックのあと
カチャリ…。応接間のドアが開く。
「お待たせしました。皇子様。」
「………………。」
そう、ルシアンは基本的にはその存在が皇子であることを公には隠している。親しい者でしか知らないのだ。表向きはファモアーゼ侯爵家として活動している。それだけプラスタール公爵とは親しいのだ。
「おじさま。例の件がお聞きしたいんですよね。」
ルシアンが静かに口を開いた。
「君は今でも私をおじと呼んでくれるのだね。」
プラスタール公爵がそう答えるとルシアンは微笑んだ。
「おじさまからご依頼がありました件、つまりダンテについて僕個人の目を通して感じたことをお話します。」
「ああ、遠慮なく言ってくれ。」
「僕としては彼の才能や腕を高く評価しております。将来、僕の右腕として立派に務めてくれると感じております。しかし、あの令嬢は……………。」
そう言ってルシアンは少し口をつぐんだ。
「あの令嬢…?クレハトール令嬢、ルル殿のことかい?」
「ええ。」
「彼女は世間知らずなところは少しあるが、中々可愛らしい人ではないのか?」
プラスタール公爵は怪訝な顔をしてルシアンに尋ねた。ルシアンはプラスタール公爵の顔をジッと見て答える。
「少なくとも…。僕の目から見れば違う顔が見え隠れします。」
「ふむ、」
「ダンテと相思相愛のような話を彼から聞きますが、彼女はダンテほど彼を愛しているようには見えません。そしてダンテは他の事が目に入らないのではないかと言う程彼女のことばかりになっているように僕には映ります。」
ルシアンの言葉はどんどん必死になっていた。彼のその反応から公爵は彼の言うことが嘘ではないと判断し、息子を信じたい、息子が選んだ女性を信じたいという気持ちが強かったが、どうやら認めざるを得なかったようで肩を落としてルシアンに問う。
「そうか………………。ルル殿は人を見て反応を変えている、そういう可能性があるということかな?」
「恐らく…。」
「わかった。ありがとう。こちらでもよく注意してみておくよ。」
「いえ。僕が困った時に手を差し伸べて下さったおじさまのため。しいてはダンテのため、何か起きる前に対策を取れるように僕も注意しておきます。」
「ありがとう。ルシアン。」
ルシアンは静かに頷いた。
ルシアンがおじさまと呼ぶ限り、公爵はルシアンと呼ぶ。そしてルシアンが公爵と呼ぶ時は皇子と呼ぶ。それは二人の中の暗黙の了解だった。
二人が話し合いを終えた後、公爵はルシアンを一緒にディナーに誘った。
「あぁ、一緒にディナーをどうかな?」
それを聞いたルシアン。悩まずに返答した。〝あのルル嬢といると気持ちが落ち着かないしな。〟
「ハハハ、遠慮しておきます。それに馬車を待たせておりますしね。」
「そうか、またいつかゆっくり食事でも楽しもうではないか。」
「是非。」
そう言って二人は熱い握手を交わした。ルシアンが馬車に乗り込むと、公爵はそれを見送ったあとディナー会場へと足を運んだ。
一方、その頃ララはというと、シャルルと共に社交ダンスの練習真っただ中だった。
「ララ、ステップを覚えるのは早いな。初めてのわりには軽やかに踊る。何か秘訣でもあったか?」
シャルルがララにそう言った。ララは踊りながら
「小さい頃から草原を駆けまわっておりましたから…。」そう答えて笑った。
「ほほう、だから動作が早いんだな。それではお前にとっての課題は〝優雅さ〟だろな。」
そう言ってシャルルはララをクルリと回転させる。ララもそれに応じて回転しシャルルの動きについていく。
「まあ、それは大変!私、優雅さからはほど遠いように思えます。」
「ふむ、自覚はあるようだな。」
ハハハ…。二人はいつの間にかすっかり溶け込んでこんな会話が出来るようになっていた。広間には舞踏会でよく使われる曲が次から次へと流れていく…。二人は何曲も続けて踊っていた。
「あぁ、さっき伝令があったのだが、ルルは今日、お祝いディナーで夜まで帰ってこないらしいよ、安心して楽しみなさい。」
「本当ですか?今朝は大変な目に遭いましたから当分、顔を見なくて済むのは安心します。」
ララがそう言うとシャルルは申し訳なさそうにララに向かって言う。
「我が妹ながらにすまなかったね。」
「いいえ。シャルルのせいではありません。もう物事の分別が付く年齢なのですから…。」
「そうだね。ルルにはキッチリ反省してもらおうか。そうだ、そのお祝いというのもお前が本来受けるべきものなんだがね。」
「え?」
「忘れてるのか?テストの結果が出たのだよ、学年3位だと。お前随分派手にやったな。」
シャルルはそう言いつつも嬉しそうだった。
「それで…、私の価値は示せたでしょうか?」
「あぁ。充分示したと思う。もっと価値を示していこう!」
「ええ、シャルル。」
二人はこのあともダンスの練習をひたすら続けていた。何度も何曲も………………。
どれだけ踊ったのだろうか、二人とも忘れるくらい楽しく踊っていたのだろう。
秘書のサラマンが夕食の時間になったとシャルルを探しに来たくらいだった。
「まぁ、もうこんな時間…。」
「すぐに支度して行くよ。ララ、部屋に戻ってゆっくりとしているといいよ。あとで食事を運ぼう。」
「シャルル……………。いつもありがとう。」
シャルルは黙って手を振ってその場を後にした。
ご覧下さりありがとうございます。プラスタール公爵からの依頼でダンテの様子を見ていたルシアン。意中の相手と婚約して浮かれている親友でもあるダンテの心配をしている。
一方、ララはシャルルのお陰で侯爵令嬢としての知識やマナー仕草などを身に付けようと日々励んでいたる。




