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第1話:ララ、女の子を拾う



広大な土地を持ち、平和を維持しているこの国はスクラバ皇国。

暑さの厳しい夏と寒さが厳しい冬の期間が短い、とても過ごしやすい穏やかな気候の国だ。


この国を治める国王は王妃を数年前に亡くし、その王妃との間には息子である皇子が一人いる。そして側妃との間にも息子である皇子が一人いる。王妃が子を産むまではこの側妃の子が皇太子として有力であったが、王妃が皇子を産んだことで皇太子はどちらになるかわからなくなった。そんな環境の元、国民たちは善良な王の統治下で安心して暮らしていた。





ここ、王族が住む王都からかなり外れにあるポツトマ子爵の領地では子爵の娘であるララ(12歳)が今日も元気に学校に通っていた。王都の学園に通えない子たちは地方の学校に通うのだ。



「ララ。今日は後で新鮮なミルクを届けるよ。母さんから持って行けってうるさくて……………。」


そうララに声を掛けるのは幼なじみでもあるケイティー・クラフ(12歳:子爵家)だった。ケイティーは茶色い短髪でちょっとそばかすがあり、その瞳は茶色い、どこにでもいるような男の子だ。


「ありがと!ケイティーの所のミルクは上質だからきっとみんな喜ぶわ。」


そう答えるララは腰まである白銀色の髪を後ろに三つ編みをして軽く束ねていた。ララの瞳の色は深い青だった。とても珍しい容姿をしており、この田舎町では特に異質だとさえ感じる程だ。だが、領主の娘ということで特に仲間外れにされたりなどなかったようだ。

そうして二人で話をしながら歩いている時だった。




〝ドッボ────────ン!! 〟  




バシャバシャ「だ…誰か…。たす…。」バシャ………………!!



大きな音と共に微かに声が聞えた。




「大変!誰かが川に落ちたんだわ!」


「急ごう!」


二人は慌てて音がした川沿いに駆け付けた。




女の子がおぼれてる!辺りには大人どころか、人が一人もいない。


咄嗟に二人は川に飛び込む。ケイティーもララもこの自然豊かな領地で育ったため、泳ぎは得意だったのだ。服のまま川に入ったから多少、泳ぎにくいが、二人とも必死で女の子の元に泳ぎ着いた。



二人で女の子をしっかりとつかんで川沿いまで連れて来て岸に上げてから女の子の状態を確認する。


「脈はあるわ。人口呼吸が必要ね、女の子だから私がするわね。」


そう言ってためらうこともなく、ララはその女の子に人工呼吸を実施した。

何度かしているうちに、その子が目を覚ました。


「よかった。意識が戻ったのね。」


ララがそう言ってほほ笑んだ。




意識が戻った女の子はララの笑顔を見て〝-天使………………。〟と心の中で呟いた。同時に女の子は顔を真っ赤にした。その様子を見てララは恥ずかしがって可愛いとすら思えたのだった。


女の子がすぐに起き上がってどこかへ行こうとしたので、


「だめ、まだ駄目よ。しばらくは安静にしていないと。親はどこ?」


と、女の子を静止して尋ねた。



「……………。わからない。」


女の子は暫く黙ったあと、そう答えた。10歳くらいだろうか…。年齢にしては整った顔立ちをしていた。




「あら、打ちどころが悪かったのかな?仕方ないから落ち着くまで私のところに来る?」


ララが女の子に向かってそう告げると女の子は静かに頷いた。



「よし、じゃあ、このまま帰るわ。ケイティー、また明日ね!」


「おぅ、また明日!」



ケイティーと別れてからララは女の子を連れてポツトマ子爵家に帰った。



「只今帰りました。」そう告げると執事が出迎えた。


「お帰りなさいませ。お嬢様。ずぶ濡れではございませんか?…おや、そちらは…?」


「あぁ、川でおぼれていたのを助けたの。ちょっと記憶が混乱してるみたいだから、暫くうちでお世話してあげようと思ったの。私のお部屋で寝かせるから食事とか追加で用意してもらえるかしら?」


「かしこまりました。」


執事はそう言ってメイド長の所に行った。



ララはしゃがみこんで女の子に向かって


「さあ、緊張しないで。しばらくはここで休んでちょうだいね。」


そう言ってニッコリと笑った。女の子の反応は静かだった。緊張しているのだろうか…。

そしてララはあることに気付いた。



「そうだ。あなたのお名前、憶えてるかしら?」


女の子は静かに首を横に振った。


「そう……………。」


ララは女の子の目をじっと見て…


「あなたのこと、シアンと呼ぶわ。あなたの瞳がシアンなんだもの。」


女の子はその呼び方が気にいったのか、パアっと表情が明るくなった。



「そう、気にいってくれたのね。シアン。」



そして両親に事情を説明し、しばらくシアンはポツトマ子爵家で預かることとなった。ポツトマ子爵家は貴族としては階級が低く、年に一度だけ、王都に行き、新年の挨拶で会うくらいの下級貴族だ。

まわりの同じような子爵家に比べてポツトマ子爵家は少し裕福なようだ。酷い子爵家になると爵位を維持するだけで生活がギリギリ、もしくは借金を背負っているところもあるようだ。

幼なじみのケイティーの所はどちらかというとギリギリの方に近いのだった。

裕福だったからララのこの急な提案であっても対応が出来たのだろう。



メイド長がお湯を用意してくれた。


「お嬢様。ずぶ濡れになってお戻りとお聞きしましたので、お湯を用意しました。どうぞお入りください。」


「助かるわ。でも先にこの子お願い出来る?」


「かしこまりました。」


女の子は抵抗しましたが、メイド長に連れられて行きました。しばらくしてからすっかり温まった女の子が戻って来て、変わりにララがお湯に浸かりに行く。

シアンは輝く金色の髪が背中まで緩やかにウェーブしている。大人になるときっと美人になるだろう、そう思えるような歳のわりに端正な顔立ちをしていた。







ご覧下さりありがとうございます。女の子の正体、作品の題名になっているので皆さまにはもうおわかりかと思いますが、主人公のララはまだ知りません。中世ヨーロッパ風のファンタジーを書くのは少し慣れてきましたが、登場人物の名前を考えるのはちょっと苦手かもと最近思います。

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