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野良猫のボク。

作者: カカ

ぼくは小学校をサボり、毎日のように自宅の近所にある公園で野良猫たちとじゃれていた。学校のことは、もう考えたくなかった。何ヶ月も前から、ぼくの心はぐちゃぐちゃになっていた。クラスの連中にいじめられる毎日。ぼくはそのことを誰にも言えなかった。どうしていいか分からなかったから、ただ黙って耐えていた。


公園の隅で、野良猫たちは自由に暮らしていて、ぼくの心も少しだけ解放されたような気分になれた。猫たちは、ぼくを無邪気にじゃれついてくれる友達のように感じさせてくれた。そうして一日が過ぎていく。家に帰ると、またいじめられたことを思い出すから、できるだけ家に帰りたくなかった。


その日もいつものように、公園の大時計を見上げると、昼過ぎを指していた。お腹が空いたなと思い、家に帰ることにした。


だけど、帰ろうと歩き出したとき、急に車の音が近づいてきて、何もできずにぼくはその車に轢かれてしまった。


目を覚ますと、周囲の風景がいつもと違っていた。公園の中にいることは分かった。でも、何かが違う。手を見ると、人間の手じゃない。ぼくは、驚くことに、野良猫の子猫になっていた。


自分が死んだことに、最初は信じられなかった。でも、しっかりと見回すと、ぼくの記憶の中には確かに人間だった頃の自分の姿が残っている。あの苦しい日々が、今でも心に焼き付いている。


幸いにも、ぼくが転生したこの公園には「地域ねこボランティア」という団体があって、定期的にエサをくれるし、雨の日のために簡易なシェルターも設置されている。猫としての生活に、最初は戸惑ったけれど、次第にその生活にも慣れていった。着るものは要らないし、食べ物にも困らない。自由で、気楽な毎日が待っていた。


それからしばらくして、ぼくの前にひとりの少女が現れた。彼女は、ぼくが人間だった頃のクラスメイトで、実は密かに好きだった子だった。驚いたことに、彼女は時々公園に来るようになり、座っているベンチに近づくと、ぼくの方に手を差し伸べてきた。


「ねぇ、君。君は、あの頃の…?」


ぼくはただ「にゃーにゃー」と鳴くしかできなかったけれど、彼女はとても優しくぼくを撫でてくれた。その手の温もりが、どこか懐かしい。


「わたし、好きだったクラスメイトの男の子が車に轢かれて死んじゃったんだ。」


ぼくは思わず目を大きく開けた。彼女が好きだった男の子、それがぼくだったということに、驚きと戸惑いが混じった。


「えっ!?ぼくのこと、好きだったの…?」


もちろん、ぼくは言葉を発することはできない。ただ猫として「にゃーにゃー」と鳴くしかなかった。でも、彼女は微笑んで続けた。


「なんだか、君がその生まれ変わりみたいな気がして…」


ぼくは驚きながらも、心の中で彼女の言葉を受け入れた。これが運命なのだろうか?それとも、ただの偶然だろうか?だが、どうでもよかった。彼女がぼくに優しくしてくれることが、何よりも嬉しかった。


「君を『ボク』って呼ぶね。」彼女はそう言って、ぼくのことを名付けた。


それからというもの、彼女は定期的に公園に来て、ぼくにおやつをくれたり、撫でてくれたりした。ぼくはその度に「にゃーにゃー」と鳴き、彼女に甘えていた。心の中では後悔が募った。あの頃、ぼくは彼女に告白しなかったことを。もしも告白していたら、もしかしたら今も違う未来があったかもしれない。だけど、それはもう叶わぬ夢になってしまった。


ある日、いつものように彼女が猫のおやつを持ってきてくれて、ぼくに食べさせてくれた。彼女が帰る際、公園の外に出たところで、再び車の音が聞こえた。そして、彼女は目の前で車に轢かれてしまった。


その瞬間、ぼくは何もできない無力さを感じた。心の中で叫んだ。彼女もまた、命を奪われてしまったのだ。


そして、次に目を覚ましたとき、ぼくは再び野良猫として生まれ変わっていた。今回は、彼女の姿が近くに感じた。驚くべきことに、彼女もまた、今度は雌猫として公園に転生していた。


ぼくはすぐに彼女に気づいた。彼女の目もまた、人間だった頃の記憶を持っているようだった。


「ボク、また君と一緒にいるんだね。」彼女は嬉しそうに言った。


「うん、そうだね。今度こそ、二人で仲良く暮らそう。」ぼくもまた、喜びを感じながら答えた。


そして、ぼくと彼女はこの公園で、寿命が尽きるその日まで、共に過ごすことになった。猫としての生活は、どこか不思議で切なく、でも温かかった。過去の後悔も、今はどこか遠く感じられた。二人でいることで、ぼくは少しずつ、心の中に平穏を見つけていった。

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