なぜ憎まれるのか理解できない・・・
少し修正しました。6月19日 18:45
兄のギャラと私、カリナとお父様のお友だちの長男のヴェルと長女のアレッサ、次女のエレノアは幼馴染だ。
領地が隣同士だったのでしょっちゅう行き来して、互いの家に泊まって遊びも勉強もみんな一緒に楽しんでいた。
兄とアレッサ、私とヴェルの結婚式ごっこなんかしたりしていたが、兄が子供の面倒を見るような立場にいつしかなっていて、それについでヴェルも兄のマネをするようになっていった。
一番年上の兄が学園に行く年齢になって、その翌年ヴェルが学園に行った。
兄たちから手紙が届いては残された私たちは一緒に手紙を読んで「早く学園に行きたいね」と学園に行くことを楽しみにしていた。
一人残されるエレノアだけが半泣きで「私も一緒に学園に行く」と泣いておじさんとおばさんを困らせていた。
私とアレッサが学園に入ることになって、領地から一緒の馬車で兄たちから聞いた学園のあれこれなんかを話しながら希望を胸に学園に向かった。
王都にタウンハウスを持たない私たちは兄たち同様寮に入ることになり、寮の部屋は同室になった。
私達は喜んで「クラスも同じだといいね」と話していたのだけど、それほどうまく行かずクラスは離れてしまった。
この時初めて私とアレッサの違いを学園から示された。
私はSクラスでアレッサはCクラスだった。
学園長が話す。「クラスは貴族平民関係なく成績順である」と。
私は傲慢にならないように気をつけながらアレッサに勉強を教えたりしながら一年生は無事終わった。
兄が卒業してしまって少し寂しかったけれど、ヴェルとアレッサが居るので心強かった。
二年生のクラス分けで私はSクラスのままでアレッサはDクラスに落ちて、寮の部屋だけでなく建物すら別れることになった。
SクラスはSとAクラスで寮の編成がされ、BとC、DとEが同じ部屋になるように組み替えられていた。
アレッサはヴェルにDクラスに落ちたことでおじさんにかなり怒られたと落ち込んできた。
私もできる限り勉強を教えたつもりだったので、クラス維持もできず落ちた成績に首を傾げるしかなかった。
それでも昼は一緒に食べようと約束していたのだけれど、二年生になるとその約束は守られることはなかった。
昼の休憩時間自体が違ったのだ。SとAクラスは一教科六十分の授業で、BとCが五十分、DとEは四十五分。
どのクラスも朝は四時間で休憩時間すら別になってしまった。
それからは三年生になっても私はSクラスのままで、アレッサもDクラスのままだったため接点を持つことが本当に難しかった。
ヴェルが卒業のとき「将来を一緒に過ごす事を考えてくれないか」と言われた。
そして私が卒業する少し前に婚約打診があり、ヴェルが学園まで会いに来てくれて二人で何度か互いの気持の確認をして婚約することになった。
私は結婚までの間王宮の文官として働くことになり、アレッサは働き口が見つからなかったのか領地へ帰ることになったとヴェルから聞いた。
何度かアレッサに手紙を出したけれど一度も返事は返ってこなかった。
ヴェルも王宮の文官として勤めていたので二人とも王宮が用意してくれる寮に入って仕事をしながら二人の関係をゆっくり育んでいた。
ヴェルのお父様が爵位をそろそろ譲りたいと言い出したのが私が王宮で勤めて四年が経った頃だった。
「そろそろ結婚しないか?」と聞かれ、まだ働いていたかったのだけどそろそろ行き遅れと言われる年になっていたので結婚を了承した。
王宮で結婚の届け出をしてからヴェルと私は王宮勤めを辞め、互いの領地に一旦戻った。
兄とアレッサは結婚するのだとばかり思っていたのに、兄はアレッサを選ばなかった。
兄に「どうしてアレッサと結婚しないの?」と聞くと「成績が悪すぎる。領主夫人の業務を任せられない」と言われてそういうものなのかと納得した。
兄が選んだ人は私より一つ年下の穏やかな雰囲気をまといながらも一本芯が通った人で、学園で関わりはなかったもののすぐに仲良くなれた。
兄たちの結婚式と私たちの結婚式は合同で行われることになり、三ヶ月後と決まった。
私は既に結婚の届けはしていたけれど、結婚式が行われるまでは両親の元で花嫁修業という名の両親に甘える時間を与えられた。
そうは言っても学園に入学してから七年のブランクが有り、既に大人になっている私は両親にどう甘えればいいのか解らなくてぎこちない時間を経て自然になった頃、結婚式の日になった。
両方の両親、領民に祝われて兄たちと私たちの結婚式は無事に終わった。
結婚式が終わると私は両親、兄夫婦に別れを告げてヴェルと一緒にヴェルの屋敷へと向かった。
ヴェルの屋敷に向かう馬車の中で、気になっていたことをヴェルに尋ねた。
「ヴェル、アレッサとエレノアが見当たらなかったのだけど?」
「カリナ・・・アレッサはもう昔のアレッサではないと思ってくれ」
「どういう事?」
「アレッサは学園で歪んだ子になってしまったんだ」
「えっ?意味がわからない・・・んだけど」
「会えばわかるよ」
それっきりアレッサのことを話さなくなくなったヴェルに不安が掻き立てられた。
ヴェルのご両親も同時に屋敷に着いて使用人たちに温かく迎えられた。
子供の頃からよく知る人たちばかりなので心から「これからも色々助けてください。よろしくお願いしますね」と言葉をかけると優しい顔でみんなに「こちらこそよろしくお願いします」と言ってもらえた。
その使用人の背後から「カリナがこの家に来るなんて許さないわ!!」と大きな声がした。
声のする方を見るとそこにはエレノアがアレッサの口を押さえようとしているところで、私は目を瞬いた。
「アレッサ!エレノア!!会いたかったわ!!」
「会いたくなんてなかったわよ!!厚かましいのよ!!兄様の花嫁になろうなんて!!」
「カリナお姉様!あえて嬉しいです!結婚式に行きたかったのですが、アレッサ姉様の押さえが必要で・・・」
エレノアはアレッサを押さえるのを諦めたようにアレッサから手を離した。
お義父様とヴェルが私の前に立ちはだかりアレッサが私に向かってくるのを止める。
「あんたでしょう?!ギャラ兄様と私の結婚を邪魔したのはっ!!」
「えっ?」
「私とギャラ兄様は結婚するはずだったのに!!」
「えっと、そんな予定はありませんでしたよね?」
お義父様とヴェルを見る。
「アレッサ!何度も言っているだろう!ギャラから何の打診もなかったし、こちらも打診しなかったと!」
「おかしいじゃない!なんで?!子供の頃からギャラ兄様と結婚する予定だったじゃない!!」
「アレッサのクラスがCクラスになったときにその話は消えたと学園に居る頃から伝えていただろう?!」
「そんなはずないわ!ギャラ兄様も私のことが好きだったはずだもの!!」
それから一時間アレッサはお兄様と結婚できなかったのは私のせいだと言い続けて力尽きたようにその場に崩れ落ちた。
一時間もの間私を責め立てる言葉を聞き続けて私も疲れ果てた。
ヴェルに私の部屋に案内されて、ソファにぐったりともたれかかる。
「アレッサは一体どうしてしまったの?」
「学園で成績が振るわなかったのも、ギャラ兄と結婚できなかったのも全部カリナのせいだと思いこむことでアレッサは最後の自分を失わずにいる状態らしいんだ」
「どういうこと?」
「私にも理解できていない。自分に都合の悪いことは全部人のせいらしい。何度諌めてもこちらの言うことを聞き入れないんだ。とくにカリナに思うところがあるみたいで、カリナのことを敵視しているんだ」
「そんな・・・どうして私が?」
そんなアレッサと暮らしていけるのか不安になる。
私の不安が理解できたのか「明日、父上とアレッサは領地の端にある別邸に引っ越すことになっているから安心してくれ。エレノアは来年結婚するからそれまでは俺達がエレノアを過不足無く嫁がせてやらなければならないが、エレノアのことを頼んでもいいか?」
「それは勿論・・・」
「ありがとう」
目の前にある少し冷めたお茶を飲む。
ヴェルが目元を赤くして「籍を入れてから今日という日が来るのを楽しみにしていたんだ」と言うので私は耳まで真っ赤になった。
その後アレッサが騒ぎを起こすことはなく夜を迎え、名実ともにヴェルの妻になった。
色々な疲れでぐっすりと眠っていたのになぜか目が覚めた。
まだ眠くてもう一度眠ろうとした。
胸に一瞬の痛みと熱さ感じた。
胸に手をやるとベッタリとした何かが手についてそれを月明かりの中で見てみる。
胸が痛くて仕方ない。声も出ない。
ヴェルに手を伸ばして叩くとヴェルが「どうした?」と言って起き上がる。
血のついた手をヴェルに差し出す。
「カリナ!!どうしたんだ?!」
「あっーーーーーハッハハハハハハッ!!ざまを見ろ!ザマァ見ろ!!やってやった!私を貶めたカリナをやってやった!!ははははははっ!」
アレッサがベッド脇で果物ナイフを握りしめて高笑いしている。
騒ぎを聞きつけて義父母や使用人が部屋の中に入ってくる。
最初はアレッサに釘付けになったもののヴェルが「医者を!」と叫んでから私が刺されていることに気がついて使用人がバタバタと動き出した。
義父がアレッサからナイフを取り上げて殴りつけるのが見えた。
そこで私は意識を失った。
あまりにも酷い痛みで目が覚める。
痛みを感じることで生きているのだと理解できた。
そしてアレッサに刺されたのだと思い出す。
「うっ・・・」
「カリナ!!」
ヴェルが私の手を握りしめている。
「大丈夫だ。時間は掛かるけど、元気になれるから!!」
「う・・・ん」
「痛みを和らげる薬だから飲み込んで」
水と薬が口の中に入れられ条件反射で飲み込む。
一口水を飲むと喉の乾きが顕著になりコクコクと水を飲む。
喉が上下するだけで刺された胸が痛む。
薬が効いてきたのか少し痛みがましになり、意識が沈んでいった。
何度か目覚めては薬を飲んでまた眠ってを繰り返して、意識を保っていられる時間が増えていった。
そのことで死ぬことはないのだと安心する。
アレッサは遠い療養所に入れたからとヴェルから聞かされた。
犯罪者として罰すると貴族牢で優雅な暮らしを送ることになるので、療養施設に入れることになったとヴェルは言っていた。
それが誰のための処遇なのか解らないけど、アレッサが私の側に居ないのならそれでいいと思った。
アレッサは療養施設でも人を恨み憎み続けているらしい。
私が死ななかったからこんな目に遭っていると私を最も憎んでいるらしい。
どうして私がそこまでアレッサに憎まれるのか理解できない。
ベッドの中でできることが増え、それから暫くしてベッドの上で起き上がれるようになった。
まともな食事が取れるようになり、ベッドから離れられるようになった。
人として当たり前の生活が送れるようになるまで二ヶ月かかった。
ドレスが着れるようになった時、ぶかぶかになっていて自分の痩せ具合が怖くなった。
着ていたドレスが少し大きい位になるまでにもう半年かかった。
胸にはピンク色に盛り上がった醜い傷跡が残った。
ヴェルに見られるのが嫌で夜をともに過ごすことができない。
ヴェルに「別れて欲しい」と申し入れているけれど「馬鹿なことを言うな」と断られている。
ヴェルに抱きしめられて「愛しているんだ」と言われて別れずにいるけれど、肌を晒せない私は子供が産めない。
「この傷も含めて愛しているんだ」と言われても傷を見せた途端拒絶されたらと思うと怖くて仕方なかった。
鏡に映る傷の醜さに自分でも顔をしかめてしまう。
唐突に部屋の扉が開けられヴェルが許しもなく部屋に入ってくる。
傷を見られたくなくて胸元を隠す。
その腕が掴まれベッドに押し倒される。
私の傷にヴェルが口づけた。
そして何度も何度も「愛している」と言った。
抵抗する力が抜けてヴェルの顔に手を添える。
それでも「愛しているんだ」とヴェルは繰り返す。
「子供の頃からずっと好きだったんだ。こんな傷くらいでこの気持は変わったりしない」
「ヴェル・・・大好きよ」
私が不幸を一人で背負っている間にエレノアは嫁いでいた。
幸せに暮らしていると時折手紙をくれる。
これで普通に暮らしていけると誰もが思った時、療養施設からアレッサが子供を産んだと連絡が来た。
義父母が施設へと行きアレッサに誰の子か尋ねたが、アレッサにも誰の子供か解らないらしい。
可能性のある男の名前をつらつらと挙げるそうだ。
それは施設の男性職員全員の名前だったらしい。
アレッサが産んだ子供はアレッサによく似ていて、義父母はアレッサと孫可愛さにその子供を引き取った。アンヴェイと名付けられた。
義父母はアンヴェイと養子縁組をして我が子として育てることになった。
私はアンヴェイが不幸を連鎖させるのではないかと不安でならなかった。
ヴェルも同じ不安を持っているようで、私たちの子供たちにアンヴェイを近づけることを許さなかった。
そして私たちの子供とアンヴェイが学園に入学する。