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第二王子は憂鬱~divine femto~ 学園都市ピオニール編  作者: 霜條
ゼノラエティティア暦35年10月4日 月曜日
73/145

間奏曲 ――名もなき女学生――

10月4日月曜日。

 あぁ――、不快な騒音だ。

 だが、この場を荒らす狂信者がやってきたのだと、周囲の者たちも深く理解してもらえたことは幸運か。

 あれは長き歴史を持つ、この崇高(すうこう)な地を汚す者だ。

 誰に敬意を払うべき者も分からぬ蒙昧(もうまい)な連中など、我らの領土に気安く招くべきではない。

 例え神の啓示の下、(もと)()された和平であったとしてもだ――――。

 涼しい顔をしながら舞台に上がる異教徒が、愚昧(ぐまい)な民衆に受け入れられている様を見てよく分かった。

 ――――所詮、(しょせん)我々とは相容れない存在なのだと。

 眼下(がんか)に広がる光景に、互いに今いる位置こそが正しく本来いるべき場所なのだと口元に笑みが浮かぶ。

 聖国では恐らく我らと同等の存在なのだろうが、この国で最も名のある女王に対しても不遜(ふそん)な物言いをしていた。()の国には礼儀などというものが存在しないのだろう。

 ――底が知れるではないか。

 下等な存在と仲良くしている姿がよくお似合いだ。

 無礼な物言いと共に、初対面で名指しされた時は少々取り乱してしまったが、聖国まで自分の顔と名が知れ渡っているというのは決して悪いことではないだろう。――――意味深に余計なことまで口走られたが、誰にも相手にされなかったことを見るにただの戯言(ざれごと)として受け取られていたようだ。

 冷静になってみればいい気味ではないか。ここ数日王子たちと遊んでいるようで、余暇(よか)でも過ごしに来ているかのような様子に失笑を禁じ得ない。

 周りの人間も大したことはない。――――あまりにレベルが低くて側に居ても不安が募るだけだ。

 どうにかせねばならないだろう。

 でなければこの『ラウルス()』の未来は暗い――。


「コルネウス――、お前があの薔薇を送ったのか?」

 集会が終わり、遠くに見えた不機嫌そうな男の元へと近付き声を掛けた。――同じ異教徒の女が胸に黒薔薇を差していた。

 話をする機会を(いっ)しているが、見た限り愛想の良いだけの頭の軽そうな女だった。発育もあまり良いとは言えず、子どもっぽい話し方が、幼さを強調している。――――誰か(・・)に似ていてあまり興味はない。

 さすがにあのような者に、決闘の印でもある黒薔薇を送る連中でないことは分かっている。

 送ったのはあの青目のガキだろう。

 このような場でも始終ふざけた態度をしていた。今日は女王もいたことは分かっていただろうに上から目線の物言いだ。

 ――――(あなど)られているというのに、それを誰も(たしな)める気配もないことが、さらに不快にさせた。

 声を掛けられたからか、相手はあからさまに不機嫌だ。隣にいたディートヘルムが苦笑している。――同学年であり、9年間もここでずっと顔を合わせている相手だ。馬は合わなくとも、どのような人物かは互いによく分かっている。

「……あぁ、連日寮に我が物顔で出入りしていたからな」

 まだ席を立つ気がないようで、忌々(いまいま)しさの残る空になった舞台を(にら)んでいる。

「ふぅん、……その程度で決闘を申し込んだのか? 案外器が小さいんだな」

 切れ長の黒い瞳を不快そうに歪めた。

「……先日、侍女殿と共に来た時は、どこかの部屋を与えられたのだと思っていたがそうではなかった。一昨日はアイベルに見送られ、昨日は殿下が親し気に部屋へと招いていた。……ここへ来て三日だぞ? ――あの(・・)殿下を懐柔する不届き者など、放っておくことなど出来ようか」

 お気に入りが取られて機嫌が悪いらしい。――黙っていれば美丈夫の部類に入る方だろうに、プライドの高さが年々視野を狭め、この男を残念にしている。

「しかも話をしてみれば、騎士道を侮辱する始末……。どちらの言が正しいか、武を以て試してもいいだろう」

(やっこ)さんも元々やる気だったしな。今の様子を見るに、今日の試合は予定より観衆が増えそうじゃないか」

「実に忌々しい……。だが烏合の衆などいくら呼ぼうと気にすることはない。我々が成すべきはどちらが殿下のお傍にいるべき相手か、それを明確にさせることなんだからな」

 学園に入る前から、王位継承者たちの事は誰もが知っている。――――ユスティツィア城にいる時からずっと見守って来たのだ。王位継承者(王子たち)を知らぬ者など、学園に留まらず、このラウルスには誰一人とていないだろう。

 ずっと先の将来、この中の誰かが王位を継ぐことはハッキリとしているだけに、誰に気に入られ、誰を懐柔し、誰の下につくかを考えるのは自然なことだ。

 連綿と続く長い歴史の中で、代々そうやって我々貴族達が王権を(よう)してきたのだから。

 従兄弟(いとこ)が第二王子の侍従となったことをきっかけに、コルネウスも幾度となく接触を試みてきた。――だが王子の気位が高いせいか全く受け入れて貰えず、ただその誰にも(なび)かない性格を彼は一層気にいっていた。

 遠くに立つ姿が見えた。――――いつもつまらなそうな目をしており、何かと兄や姉に(かば)われては、何事にも干渉しない消極的な態度が鼻につく。見た目の割に子どもなのだ。

 おまけにコルネウスたちが敬愛しているせいで、周囲の人間まで甲斐甲斐(かいがい)しく彼のために動くため、誰よりも傲慢に見える。

 興味がなくても、退屈にしていても、全てが彼のために動くだろう――――。

 それこそ王たる資質のひとつかもしれないが、そんな王を頂き、そんな相手に()びへつらうことになるなんてお断りだ。

「もしお前たちが負けるようなことでもあれば人を貸そう。腕の立つ奴がちょうどいてな」

「……なんだ、わざわざそんなことを言いに来たのか?」

 怒気を(はら)んだ声に、さらりと(つや)のある前髪の下から、コルネウスが冷たく睨んでいる。

 冷笑でもってそれを受け流す。――綺麗な奴が歪む顔は、何度見てもいい気分にさせてくれる。

「心配してるんだ。――――向こうでは司法があっても四家の、特に『青龍商会』は治外法権だと聞く。彼らは東方天の庇護の下、殺人も許された存在だというじゃないか」

 二人の、この声が届く者たちの反応がぴくりとする。どうやら知らなかったようで、ディートヘルムからも顔から余裕が消えた。――いい表情を見せてくれる二人に、愉快な気持ちが湧いてくる。

 それに彼らが知らないのも無理はないだろう――。

「奴らに目を付けられるということは死を意味する。――そうやって何事も闇に葬られたことも多いそうだ。ただの傭兵崩れと侮っていると、その首取られるかもしれないからな。重々気を付けるといい」

 辛うじて彼らの魔の手から逃れた者から聞いた話だ。――死人に口なしとは言うが、それを体現させる存在だそうだ。

 警備のために来ていると聞いたが、それだけではないだろう。

 あれだけ不遜な態度で、四方八方を出歩いている。――――あの王子の護衛という可能性もあるが、あれは聖国の中でも特に悪名高い蒼家の人間だ。

 あのような連中を身内の側に置くなど、女王もついに耄碌(もうろく)してしまったということか――。

「……なら、ますます傍に置くことなどもっての外。そんな穢れた存在、殿下のお側に置くなどと――――」

 何かに気付いたようで、顔が別の場所へ向きコルネウスが立ち上がるも、すぐに行き場を無くしたように呆然とどこかを見ていた。

 コルネウスの見ている方向を見れば、コレット嬢が早いとは言い難い小走りで階段の方へ駆けて行く姿が目に入る。よく第二王子と一緒にいるところを見かけるが、今はひとりのようだった。

「どうかしたのか?」

「いま……、殿下が足早にそこを通られたんだが……」

 その言葉にもう一度振り返るが、該当人物の姿は見えなかった。――だが先ほどいた場所にも姿はない。

「殿下が……? お急ぎになるところなど見たこともないが……」

 ディートヘルムが、不思議そうな声をした。この学園で最も位の高い存在だ。――歩けば道が開かれ、彼が現れるのを周囲が待つのが常だ。王子が、王位継承者たちが急ぐ用などそうそうあるとは思えなかった。

 もちろん第一王女もそうだ。美しく気品と教養を持ったその人は姫と呼ばれるに相応しく、彼女の手を取りたいと願う者も多い。――――だが第一王子の件があってから彼女から笑顔が減り、今までのように自由に振る舞うことを控えている。

 その不憫(ふびん)さが(いとお)しい。

 こちらには彼女の大事なものがあるため、誰よりも今は彼女の関心を買っていると言えるだろう。

 ――――――なんて気分がいいんだ。

 ちょうど考えていた相手がいとこのレティシア嬢と弟君、王弟殿下と理事を連れて悠然と歩いている。――彼らと話をしていなければ声を掛けに行けただけに、タイミングの悪さに小さく舌打ちする。

 聞こえていたのか分からないが、ディートヘルムも立ち上がった。

「ご忠告感謝しよう。だが、どのような相手でも負ける気はないし、騎士道に則り正々堂々と勝負するまでだ」

 180を超えるコルネウスと、170を超えるディートヘルムが並べば目の前に壁が出来たような感覚に陥る。

「お前も彼に面目(めんぼく)(つぶ)されて(くや)しいなら、自分でなんとかするんだな。――ジュール・フォン・ハイデルベルク。こちらはお前に協力するつもりはないからな」

「せいぜいゼルディウス殿下のご機嫌でも取っているといい。……あの方を囲って何がしたいのか知らないが、そろそろ寮にお帰りになるよう伝えてくれ。殿下たちが寂しくされているからな」

「……そういう態度が殿下を追い込んでいると分からないのか? お前たちのいる場に戻りたくないというんだ」

 誰も彼の価値を分かっていない。それ故に苦悩し、居場所を無くしている哀れな存在だ。

「誰が何と言おうと、この俺があの方をお守りするだけだ。――――このジュール・フォン・ハイデルベルクがな」

 この壁もただのハリボテだ。

 強い言葉でこちらに圧をかけようとも、力尽くで彼を取り戻すことは出来ない。――そんなことをしても第一王子は嫌がるし、姉弟も彼を尊重して無理やりするようなことは望んじゃいない。

 それを分かっているから誰もが手を出してこない――――。

 まるでこの手に全てがあるかのような、全能感をこの身にもたらしてくれる第一王子――――。

 望むがまま真綿に包んで大事に囲ってやろう。どこにも行けないよう、ゆっくりと彼の首を包んだ真綿で締め付けてやりながら閉じ込めてあげるのだ。

 誰も彼を望む者はどこにもいないのだと、ゆっくり聞かせてやるだけでいい――。

 外からの情報は全て遮断しているため、それを確かめる術は彼にないのだ。

 それに、半年間誰も彼に会いに来ないのだから、彼は身に()みて自分の存在の小ささを思い知っている。

 第一王女と第二王子の弱みがこちらにはある。――――この学園都市にいる女王も王弟も、彼がどこにいるか分かっていても手を出してこない。

 王位継承者の中で最も立場の弱い人間だが、最も強い切り札になる。

 そんな美味しい存在を、簡単に手放したりなどしてやるものか――――。


 午前の授業を終え、親しくしている者たちと歩けば、曲がり角でひとりが何かとぶつかり、よろめいた拍子にこちらにまで被害が及び床に手をつくことになった。

 周囲にいる者たちが慌てて手をとり立たせてくれたので、ぶつかってきた奴をひと(にら)みし、ついでに床に手をついている相手を睨んだ。

「――おいッ! 誰だ! 六大貴族がひとり、このジュール・フォン・ハイデルベルクの道を妨げるなど――」

 理不尽な出来事に声を荒げれば、甘い香りが鼻孔をつきその姿が視界に入る。――――学生服である深緑色のスカートからあられもなく白く肉付きの良い生足を見せ、太ももまで露わにしていることから生唾を飲んだ。

 こちらの声に反応せず、倒れたまま床の上にで小さく肩を震わせていた。特に乱れた様子はなく、この時期には珍しい三つ折り靴下を()いている。

 緩慢な動きながらこちらを見る気配がない。長い黒髪が顔を隠し、小さな肩を上下に揺れ、息を殺しているようにも見えた。

「……どうかしたのか?」

 不躾(ぶしつけ)にぶつかったことは(すみ)に置き、なるべく落ち着いた声色で話し掛け近くへ行く。

 ――――声から男がいると分かっているだろうに、露出した足を隠す気配もない。

 精神的に余裕のない者か、ただのあばずれの気配を感じ薄く笑いが込み上げる。――――どちらも好みのタイプだ。

 背を向けているが、長いストレートな髪が柔らかでしなりのある四肢と制服にかかり色つやを増している。服の上からでもわかる肉感のある身体つきが悪くないと、心が言っている。

 顔も良ければなお良いが、別にそこは二の次だ。――遊べれば顔なんてどうでもいいい。

「……ぶつかってしまってごめんなさい」

 弱々しく震える声の高さが心地よい。こちらに顔を向ければ、大きな黒い瞳に涙を浮かべ、長い睫毛がその瞳に影を落としている。迷いながら目を合わせるも、すぐに恥ずかしそうに()らし、(またた)きをすればたまった涙がすっとその頬に零れ落ちていく。

 その人のひとつひとつが心を奪っていく。

 思わず見とれ息を飲んでいれば、彼女の頬が徐々に紅潮していく。上体を起こし床についていた手で目元の涙を(ぬぐ)い、くすりと笑いこちらを上目遣いで見た。

「そのように見つめられてしまっては、泣くに泣けなくなってしまいますわ」

「……あぁ、すまない。こんなに美しい人がいたなんて知らなかった――」

 器量も良い。――こちらを向く姿を改めて確認をすれば、制服のジャケットが窮屈そうに豊満な胸を(おお)い隠している。

 気を良くしたのか、涙で濡れた彼女が微笑みを向けた。

 甘い香りがより彼女への気持ちを高めてくれるようで、なんともいい心地だった。――恋に落ちるとはこういうことを言うのだろうか。

「まぁ、お上手なのね。……ごめんなさい、少々哀しいことがあって泣ける場所を探しておりましたの」

「哀しいこと……? 何かあったのか?」

 彼女に手を差し伸べれば、安心したような顔でその手をとり立ち上がった。背丈は自分よりあるようで、目線が上がる。だが大きな女も嫌いではないので、全てが自分の好みに適している。――このような幸甚(こうじん)があるだろうか。

 両手でその手を取ってやれば、少し戸惑っているようだった。

「昼はもう取ったのか? ――よければお前の話を聞かせてくれないか」

 胸元のブローチを見ればひとつ下の学年だと分かった。制服ということは下流の学生だろう――。なら最後の学園生活となるはずだ。

 逃げないようにその手に指を絡めた。――自分の家名を聞いた以上、こちらの話を断るはずもないという自信があった。

「名は何というんだ。――ぜひお前の事を教えてくれ」

「――――なら、わたくしに名を頂けないでしょうか……。ジュール様の、――貴方サマの特別にして頂きたいのですわ」

 思ってもいなかった言葉に呆然と彼女を見れば、涙で腫れた少し赤い目元をにこりとさせ絡めた指をぎゅっと掴み胸元に寄せる。

「――わたくし、つい先ほど勇気を出して告白をしてみたのですがフラれてしまって……。おまけにその方のご友人様にも邪険にされてしまい少々自信がなくなってしまったの。――今は誰かに愛して頂きたいのです」

「……見る目のない者もいるとはな。このような美しい方をあしらうなどどこの粗忽者(そこつもの)だ」

 本当に見る目のないヤツだ。

 呆れつつ、彼女のために怒ってせれば、言いにくそうにしながらも気を許したのか眉尻を下げ悲しそうに笑みを作った。

「|第二王子様《》ですわ。――――ただ、思いの丈を伝えるだけで満足だったのですが、青い眼のご友人様から医者にでも見て貰えなんて言われてしまって……、頭のおかしい女だと人前でされるなどと思わなくて……」

「――――――は?」

 第二王子の件はなんとなく想像はつくが、あの異教徒が一介の女生徒にまで無碍な言葉を掛けたのかと怒りで頭が白くなる。

 その時のことを思い出したからか、その女学生はまたぽろぽろと涙をこぼし始めた。

「……だから『わたしく』ではいたくないのです。……哀れと思って下さるなら、どうかわたくしを貴方サマの愛で満たしてくださいませんか?」

 心細げに両手でこちらの手を握り、胸元に押し付ければ柔らかな感触が手先から伝わる。

 最初彼女の話が見えなかったが、名が欲しいとはそういうことかと理解した。――存在全てをこちらに(ゆだ)ねて来る豪胆さに少々後れを取ったが、思った以上に情熱的な提案だ。

 その全てをくれるつもりというのなら、決して悪い話ではない。――――望み通り全てを満たしてやろう。それだけの力が自分にはあるのだから――――。

「――いいだろう。それからお前を泣かせたあの無礼者だが、俺も腹に据えかねているんだ。よければお前のために見返してやろう」

 これだけ美しい人を頭のおかしい奴呼ばわりするとは――――。王子の後ろ盾を得て、気を大きくしているということだろうか。

 あの時の屈辱を思い出し、暗澹(あんたん)とした愉悦が腹の底から込み上げてくる。

「……そういえばあいつら、今度の舞踏会に出るとか言っていたな。――なら贅を尽くしお前を彼らの前に見せてやってもいい。一体どこの誰を無碍(むげ)にしたのか思い知らせるのも面白いだろう」

 この時期に告白したということは、舞踏会か誕生日の件だろう。それにこれだけ元が良い素材であれば、着飾ってやるだけでも相当映えるだろう。

 女気のないのは以前から知っていたが、このような女性にも目をくれないということは女自体に興味がないのかもしれない。

 それであれば、あの青目のガキを側に置いているのも理解できるようだった。ここいらにはいないタイプだろう。だから三日とかからず陥落(かんらく)したというのも頷ける。

 どのように飾り立ててやろうかと楽しく想像してみれば、こちらの気持ちとは裏腹に彼女は困惑した様子だった。

「……舞踏会に出てみたい気持ちはあるのですが、その……、できれば誰か分からないようにしてくださいませんか? あの二人に対面したときに、また何を言われるか恐ろしくて……」

 余程強いショックを受けたのだろう。先ほどまで可憐に頬を染めていたというのに、青ざめていく様に彼女の心の傷を思い知る。

 ――――と、同時に良い案が思いついた。

 あの王子の顔に泥を塗り、彼女の美しさを見せるける方法を――――。

 ついでにあの青目のガキは、彼ら(・・)に任せればいいだろう。蒼家の連中に興味を持ってはいるようだが、もうひとりの左翼とか言う男を探しているようだった。

 そんなのあの青目のガキを先に始末でもすれば嫌でも出てくるだろう。兄弟だと聞いているし、見捨てるような者であっても、邪魔な存在を消せて一石二鳥だ――。

「少し時間をくれないか。……お前のためにとびきり良い機会を作ってやろう」

 こちらの言葉を聞いて、その人は徐々に華やかな笑顔に変わる。

 まるで大輪の花のように、色鮮やかで美しい表情だ。

「ダリア――、お前の事はそう呼ぼう」

 まるで花瓶に生けられた花のようだ。――――この甘やかな香りが一層そういう気持ちにさせてくれる。

「……ダリア、わたくしも好きな花の名ですわ。――素敵な名を付けて下さりありがとうございます」

 これだけ華のある女性と、今まで出会わなかったのが不思議だ。――――運命的な出会いに神に感謝した。

 ダリアの腰に手を回し、皆と共にこの場を後にする。

 久し振りに派手で華麗な席を、ただひとりのために設けてやろう。

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