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第二王子は憂鬱~divine femto~ 学園都市ピオニール編  作者: 霜條
ゼノラエティティア暦35年10月2日 土曜日
27/145

22.『策士』は雨上がりと共に⑦

 太陽が高くなってきたようで、まとう空気が朝よりも暖かくなる。街並みを抜ける風が、日向にいる間は心地よく感じるも、ひとつ日陰に入ると建物を秋風も足早に通り過ぎようとするのか、すっと寒さが染みる。

 バルシュミーデ通りと呼ばれていた賑やかな中心地を今は離れている。どのあたりを歩いているのかわからないが、通りを一本入っただけなのにだいぶ静かだった。道を囲う建物は住宅のようで、この辺りはどれも静かな休みを満喫しているようだ。

 立ち並ぶ建物はどれも落ち着いた清楚なデザインで統一されており、昨日迷い込んだ廃墟群に比べて安心感のある場所だった。――ただ建物たちのせいで狭い道に落ちるのは日陰ばかりだ。そのせいで人気(ひとけ)が少ないのかもと思う。

 少し前までいた通りも悪くはなかったが、このあまりにも静かな道もただ歩いているだけでも気持ちが落ち着いてくるようだった。

「ここは、どのあたりに位置しているんでしょうか?」

 少し硬い声でキールが尋ねた。人気のない通りだからだろうか、向かう先がまだ見えない中不安なようだ。

「ここは山の手エリアと下町エリアの境にあたる場所だ。周りは住宅群なんだが、主に教師たちが住んでいるそうだ。――もしかしたら、お前たちが知っている人に会うかもな。」

「先生たちってこの辺りに住んでいるんですか?」

 この学園都市には生徒の他に教師や兵士、運営に携わる者たちがいるのは当然なのだが、彼らが普段どこで生活しているかは想像したことがなかった。彼らも人の子だ。どこかで彼らの人生があり生活しているのは当然のこと。――言われるまで気にしたことがなかったことに気付く。

「聞いた話ではそうだ。――だから基本学生が近寄らない。下手なことして教師に見つかると面倒だからと聞いたが、……なぜ教師に見つかると面倒なんだ?」

「なにか怒られるようなことをした、とかでしょうか。僕も先生に見つかって面倒だと思ったことはないので想像ですが。……フィフスはどんな学校に通っていたんですか?」

 彼の隣で、どのような話が訊けるかと期待に満ちた弟の顔が見えた。

「私も左翼も学校は利用したことがない。教育も指導も全て家がするからわざわざ外で学ぶ必要がなくてな。……一応学校機関というのはあるんだが、こちらと違って大きなところは研究が中心だし利用できる者が限られている。小さなところは基礎的なことしか扱ってないから、こちらと違って学ぶ自由が少ない。――どうにかしたいとは思っているんだが、一朝一夕で解決できる問題ではないから難しいな。」

 話すフィフスは笑っていた。

「こちらと違って成人年齢が低すぎるのも原因のひとつだろう。男は15、女は12になると成人として社会に出される。――自分のために時間を使えず、社会のために使われる。……昨年に段階的に年齢を引き上げたが、また時期を見て上げることになるだろう。」

 真面目な面持ちで、自分の国について考えているようだった。――同い年だというのに見ている物の差に愕然(がくぜん)とするばかりだ。

「……なぜお前が落ち込むんだ?」

「え? 兄さま大丈夫ですか?」

 フィフスの怪訝(けげん)な顔と弟の心配そうな顔が並んでいた。今の発言に後方にいたアイベルも何事かと慌てた様子だ。

「なにか、顔に出てただろうか……」

 一気に注目されてたので、反射的に片手で口を隠した。そんなに分かりやすい態度を取ったつもりがなかったので、気恥ずかしい。

「いや、そんな気配がしただけだ。」

「そう。……フィフスはしっかりしていると思って、少し考えていただけだ」

「左翼、褒められたぞ。」

 後方にいた左翼に振り返り自慢げにしている。――いちいち彼に報告するのはなんだろう。先ほども昨日もこんなシーンがあったと思い出し、なんだかより居たたまれなくなる。呼ばれた方は相変わらず何の反応もないのがまた困る。

「別にしっかりなんかしていないさ。全て受け売りだからな」

 今度はこちらに自慢げに素直に報告してくる。誇らしげにこちらを向く瞳が、日陰の中でもきらきらとしていた。

「……そういうことも言っていいの?」

 飾らないにもほどがある。――そういうことを言わないのが普通ではないのだろうか。おかしさから言いえぬ温かいものが込み上げてくる。

「フィフスは素直なんですね」

 自慢げな様子がおかしかったようで、エミリオも笑っていた。

「教えてくれる人のおかげだからな。――私が褒められるということは、同時にその人たちも褒めて貰えたようで誇らしい。」

 謙虚で驕らない姿勢がどこまでもまっすぐだった。どのような場所にいても変わらなさそうな芯の強さが眩しくて、思わず目を細める。

 和やかな空気が日の当たらないこの場所に満ちているようだった。人気のない道に警戒をしていた侍従たちも、少しだけ緊張を解いているようだった。

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