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第二王子は憂鬱~divine femto~ 学園都市ピオニール編  作者: 霜條
ゼノラエティティア暦35年10月6日 水曜日
118/146

間奏曲 ――憧憬の行先・上――

 (ぼく)には、(あこが)れる方が二人います。

 それは(なな)(うえ)のゼルディウス(にい)さまと、()つ上のディアス兄さまです。

 もちろん、(ねえ)さまのことは敬愛(けいあい)しています。

 ですが、大きくなったらどんな人になりたいかと()かれたら、お二人の兄さまのことが(おも)()かびます。

 お二人ともカッコよくて(やさ)しい、(ぼく)自慢(じまん)の兄さまなのですから。




 ピオニールに入学するよりも前、兄さまたちのお(かえ)りはいつも()(どお)しいものでした。

 ユスティツィアに(のこ)っているのは、――(ぼく)だけでしたので。

 お三方(さんかた)がお帰りになる日はキールとよく、ユスティツィア城の転移装置(てんいそうち)のある部屋の前で待っていました。

 危険な場所でもあるからと(しろ)のみんなに心配(しんぱい)されながら、いつお(もど)りになるのかと待つのが楽しみでもありました。

 一緒(いっしょ)()られないことは(さび)しいものでしたが、学園(がくえん)では学ばなければならないことも(おお)く、お(いそ)しいところだと()かされてもいました。

 それに、もうすぐで(ぼく)も学園ピオニールに入学できる(とし)になる――。

 憧れの兄さまたちと、ようやく一緒に居られると思うと、この(さび)しさも我慢(がまん)できました。


 (とびら)の向こうから姉さまと兄さまたちが(あらわ)れると、今までの(さび)しかった気持ちも、我慢(がまん)していた気持ちもどこかへ行ってしまい、(うれ)しい気持ちでいっぱいになります。

 (とびら)から先に現れたのは短い髪の大兄(おおにい)さまと、長い髪の小兄(ちいにい)さま――。いつどこでお会いしても、兄さまたちを見つけることは得意(とくい)でもありました。

 きりりとした眼差(まなざ)しに、堂々(どうどう)とした()居振(いふ)()い。目が合うと、(やわ)らかなお顔にすぐ変わる、ゼルディウス兄さま。

「ただいま、エミリオ」

 そしてお帰りの時はいつも一番(いちばん)最初(さいしょ)に、(ぼく)の名前を()んでくれます。

 だから嬉しい気持ちと一緒に、まっすぐに大兄さまの(もと)()けつけるのが好きでした。

「お帰りなさい――!」

 (よろこ)びに()される身体(からだ)ごと、大兄さまの(うで)()()みます。――大兄さまもこれは(ぼく)にしかされないので、とても嬉しい特別(とくべつ)です。

「エミリオってば、またこんなところで待っていたの。寒くはなかった?」

「元気にしてたか? しばらく会わない内に、また大きくなったんじゃないか」

 (ひさ)()りに会えたくすぐったさに顔を見合わせると、大兄さまに(かか)えてもらい、小兄さまと姉さまとも距離(きょり)(ちか)くなります。――物静(ものしず)かでお顔立(かおだ)ちが(とお)さまに()たディアス兄さまと、(あか)るくお元気(げんき)なアストリッド姉さま。

 なかなか()えない、見上げてばかりの兄姉(きょうだい)()に入れてもらえた気がして、嬉しい瞬間(しゅんかん)でもありました。

小兄(ちいにい)さま――、もしかして大兄さまより背が高くなられたんですか?」

 抱えられ、同じ(たか)さになる小兄さまに気付きました。以前(いぜん)お会いした時は大兄さまと同じ背丈(せたけ)だったのに。――(ぼく)もいつか、小兄さまくらい大きくなれるでしょうか。

「そうなんだよ。……ったく、追いつかれたと思ったらすぐこれだ。そのうち俺が、ディアスにお下がりでも貰うことになるかもしれないな」

「…………お(たわむ)れを」

「ふふっ、そんな事をしたら、どっちが弟か分からなくなってしまうわね。ディアスと兄の()を交代してみるのも面白いかもしれないけど」

 大兄さまと小兄さまが交代(こうたい)される――。姉さまも大兄さまも笑っていらっしゃいましたが、小兄さまは静かにされていました。

 第一王子がゼルディウス兄さま、第二王子がディアス兄さまなので、その順番(じゅんばん)が変わっても、どちらも大好きな兄さまであることに変わりありません。姉さまたちが笑っている理由が、(ぼく)にはよく分かりませんでした。

 目が合うと、(こま)ったようなお顔をされていたので、きっとディアス兄さまと同じ気持ちな気がします。

「ゼルの代わりが、俺に(つと)められるはずもありません」

「その図体(ずうたい)で、俺の後ろに(かく)れるのもそろそろ無理があるだろ……。俺に頼らなくたって、もう自分のことは自分で決められる。――そうだろ、ディアス」

「えぇ、貴方だってエミリオのお兄様でしょ? いつまでも私たちの弟気分でいるのもいいけど、次エミリオが入学したら貴方だってお手本になってあげなくちゃ、――ね」

 姉さまが僕にウインクすると、大兄さまと小兄さまの(かた)(たた)かれました。

「ほら、お父様たちのところに行きましょ。――顔をお見せするのが遅れると、後が大変だわ。仕事中でお忙しい今のうちに、サクッと報告しに行くのが吉ね」

「あぁ――、ようやく何もないんだ。父さんのところに行ったら、少し部屋で休みたい」

「……まさかお昼はひとりで食べるつもりなの? せっかくエミリオもいるのに」

「今朝も早かっただろ? 最近は遅くまで勉強してたから、少し疲れたんだ」

 二人がお話ししながら歩き出されると、――小兄さまもあまり元気がないご様子で、アイベルとお話しされているのが後ろに見えました。

 やはり学園での生活はお(いそが)しいのでしょうか。

 いつもなら、みんなで一緒にお昼を(いただ)くのに。――バラバラのタイミングが、(さび)しく感じました。

「エミリオ、あとで私と遊びましょうか。学校で流行っているカードゲームがあるの。あなたにも教えてあげるわ」

「……兄さまは?」

「――少し休んだら俺も行く。ディアスも(さそ)って先に三人で遊んでてくれないか。アイツにも気晴らしが必要だと思うから」

「分かりました。ゼル兄さまともご一緒出来るのを、楽しみにしていますね」

「あぁ、――悪いがまた後で」

 今日はお二人とたくさんお話しすることは我慢(がまん)しようと思いました。

 お休みの間、ずっと兄さまも姉さまもユスティツィアにいられます。

 きっとこれからたくさんお話しできる時間もあるから、今日は我慢(がまん)です。




 今年(ことし)(はる)、学園都市ピオニールに入学し大兄さま、小兄さまと同じ(りょう)()らすことになりました。

 (あこが)れだったお二人と一緒に()らせること、学園での勉強(べんきょう)だけでなく、兄さまたちが日々こちらでどんな暮らしをしているのか、(おし)えてもらうことがとても(たの)しみでした。


 クラスで毎日顔を合わせる内に、話せるクラスメイトも出来ました。

 そんな、ある授業(じゅぎょう)が終わったあとの休み時間――。ドンと大きな音が聞こえ、(まど)の外に何かが()ちてくるのが見えました。

 キラキラとしたものが(にわ)()ちていったので、(はじ)めは誰かが魔術(まじゅつ)をお使いになったのかと考えていました。この学園に来る前、基礎的(きそてき)制御(せいぎょ)方法(ほうほう)(なら)っていたものの、授業ではまだ使うことは禁止されていたため、どのようなものを学園で教わるのか興味(きょうみ)がありました。

 窓に()()るクラスメイトたちを、キールが止め、僕の(うで)を強く(つか)んでいたのを思い出します。

 すごく(いた)くて、――でも見たこともないキールの強い言葉から、窓に近付いてはいけないと、クラスメイトたちも言うことを聞いていました。

 なんだかそこから、色んなことが一気(いっき)に変わってしまったように思います。


 しばらく教室の(すみ)でキールに(かば)われながら、クラスメイトたちと座っていました。

 廊下(ろうか)から先生(せんせい)兵士(へいし)たちがやってきて、外に出ないようにと呼びかけられ、クラスメイトの数を確認(かくにん)し、怪我人(けがにん)はいないか、気分(きぶん)(すぐ)れない人はいないかなど確かめたあと、(りょう)(もど)るよう指示(しじ)がありました。

 なにか――、変なことが起きてるんだと、クラスのみんなも気付きました。

 クラスの男子たちと兵士たちに寮まで(おく)(とど)けられ、部屋で待機(たいき)するよう指示がありました。

 階段(かいだん)()がり、クラスメイトたちと(わか)れると、――それ以上(いじょう)、僕は(すす)めなくなりました。

「――――エミリオ様、私めがお側におります」

「……姉さまも兄さまも、大丈夫でしょうか……」

 階段の途中(とちゅう)、がらんとした寮に、兄さまたちの姿もないことが僕は不安(ふあん)でした。

「……何があったのかはまだ分かりませんが、事故であればヨアヒム様が迅速(じんそく)にご対応(たいおう)されるでしょう。ここには王都から(つか)わされた近衛兵(このえへい)に、この地で研鑽(けんさん)()警護隊(けいごたい)もおります。――学生たちの中にはクライゼル警邏隊(けいらたい)という警備組織に(ぞく)する者や、騎士見習いとして騎士道を学ぶ者など、多くの方がいらっしゃいます」

 不安で(つめ)たくなった手を(あたた)めるように、キールが両手で僕の手をそっと(つつ)んでくれました。

「いかなる有事に対して堅牢(けんろう)な備えがここ、学園都市ピオニールにはあります。――オクタヴィア様は現在ご不在ではありますが、大きな問題があればグライリヒ陛下も、殿下たちだけでなく皆様のために王都から指揮(しき)されることでしょう。――だから今はご心配には及びません」

 キールの言葉に、顔を上げました。

 いつも(そば)()てくれる僕の侍従(じじゅう)は、小兄さまに似て静かでたくさん話す人ではありませんが、大事なことをまっすぐに伝えてくれるところもよく似ていると思っています。

「お二人のお戻りを、まずはお部屋で待ちましょう。――ゼルディウス様もディアス様もお戻りになられましたら、改めて(うかが)いに参りましょう」

 (やさ)しく言い聞かせるキールの声に(うなず)き、僕は七階(ななかい)自室(じしつ)まで戻りました。


 ですが、その日からゼルディウス兄さまは寮にお戻りにならず、ディアス兄さまはいつも(かな)しげに(しず)んでいらっしゃいました。


 (だれ)かが兄さまたちは(なか)(わる)いと、話しているのを聞くようになりました。

 絶対(ぜったい)そんな事ないのに――。

 いつもお二人が一緒にいるのも、よくお二人で話していたのも僕は知っています。

 お二人に()ぜてもらいたくて、僕に気付くと(あいだ)(すわ)らせてもらい、三人で話したことだって何度(なんど)もあります。

 姉さまもその事は知ってるし、レティシアやコレット姉さまだって知っています。

 だから、ディアス兄さまがずっと寂しがっていらっしゃることだって、僕は知っています。

 


  ◇◇◇



 もし、今までで一番(いちばん)おかしな日があったかと聞かれたら、僕は『今日』の出来事(できごと)()(さき)に誰かに(つた)えるでしょう。

 朝はおばあ様のメイドであるゾフィが、兄さまのお部屋に来て聖国(せいこく)のお話をされました。

 放課後(ほうかご)はおばあ様のお部屋にイタズラを仕掛(しか)けただけでなく、おばあ様のお目覚(めざ)めの手伝(てつだ)いをしていると言う、エリーチェの話を聞きました。――おばあ様とはあまりお話しする機会(きかい)もなく、お(そば)()(がた)く、大きなお声が(こわ)いところがあります。

 でも、ココとモモに名前を付ける時に、僕が思いつた名をそのままつけて下さったので、おばあ様にもお優しいところもあるんだとエリーチェの話を聞いて思い出しました。

 だから、もう少し話を聞いてみたかったのですが、――エリーチェが(かく)し子かもしれないなんて叔父上(おじうえ)(おっしゃ)いました。

 でも、どうやら誤解(ごかい)だったようです。

 みんなが知らない家族が居たのかと少し(おどろ)きましたが、(ちが)うとなると少し残念(ざんねん)です。兄さまたちともエリーチェは気が合うようだし、一緒にいて楽しい方なので、僕は家族だったらいいなと少し思ってしまいました。

 でも兄さまは(ちが)ったようで、少しお元気がなくなってしまいました。

 そんな時に父さまとお話ししていたら、今度は姉さまが(あらわ)れました。ドアの(たた)(かた)乱暴(らんぼう)で、少し怖かったです……。あんな風に姉さまが誰かを呼んだことなんてないし、男子寮(だんしりょう)に現れるなんて一度も想像したことがなかったので、とても(おどろ)きました。あの時、兄さまと一緒に居られて本当に良かったです……。

 びっくりしたのも(つか)()、姉さまは泣いてしまいました。――僕はそんな姉さまを一度も見たことが無かったので、泣いてる姉さまに悲しくなってしまいました。

 気付けば僕も(なみだ)が出てきてしまいました。――泣くのはカッコ悪いし、僕も兄さまたちと同じ王子だから、誰が見ても手本となるべき人であるべきだと教わってきたのに……、どうしても止まらなくなってしまいました。

 小兄さまの手が(かた)(やさ)しく()でてくれた時、大兄さまのことを思い出し、もう一度泣いてしまいました。

 

 大兄さまのことで、姉さまがおばあ様とケンカなさったと聞きましたが、こんなに変なことが次々起こるなんて、やはり今日はおかしな日です。

 今もどうしてか兄さまのお部屋で、前に下町(したまち)で食べたルンデボーネを姉さまと一緒に食べ、今度(こんど)(よる)の学校へ(しの)()むことになりました。

 一日でこんなに(いそが)しかったのも、学園に来てから(はじ)めてな気がします。

 だからでしょうか、――姉さまも兄さまも、いつもよりなんだかお元気そうに見えました。

 姉さまはご冗談(じょうだん)もよく言われ、お(しと)やさがなくなっています。まるでユスティツィアで姉弟(きょうだい)だけでいる時みたいです。

 フィフスが()げたマシュマロの中身(なかみ)を、先ほどキールに味見(あじみ)をさせようとしたら兄さまが止めていました。

 ルンデボーネにマシュマロをつけ、(わた)そうとしただけだったのですが、両手の(ふさ)がったキールに有無(うむ)を言わせぬ(せま)り方が目についたようです。

 そのルンデボーネは結局(けっきょく)、フィフスが自分で口にしていました。(どく)がないことを証明(しょうめい)したかったようですが、――僕もあの迫り方ではキールが少し可哀(かわい)そうだったので、兄さまが止めてくれてよかったです。

「そんな、無理に食べさせようとしなくても。あなたが毒を持ち込むなんて誰も思ってない」

「私が持ち込まなくても、仕込まれていたら事だろう。従者として、そんな現場に遭遇(そうぐう)でもしたら自信を無くしてしまうかと思ったんだ。」

「どの目線での心配なんだ――」

 ――この(ごろ)、兄さまといて気付いたことがあります。

 (いえ)(もの)以外(いがい)の人といるときは言葉少めになるのに、フィフスといる時は小さなことでも目につくのか、あのように注意(ちゅうい)したり言葉をかけるとこをよく見かけます。

 それが少しだけ、(うらや)ましいと思うときがあります。

「フィフスはその恰好(かっこう)で外へ行くつもりなの? コートは持ってきてないのかしら」

「外で左翼が私のコートを持って待っている。合流がてらあとで受け取るつもりだ。」

「待たせているって……。それは、セーレも彼の事を心配する訳ね……」

 だけど、(ほか)(した)しい人をお作りにならないことも知っているので、親しむべき他人がいることは良い変化ではないかと、キールが言っていました。

 僕もここに来てから同い年の知り合いが()えました。兄さまも姉さまも知らない話題や、姉弟(きょうだい)でいる時とは(ちが)う話が出来ること、同じような気持ちを持った子や、違う考え方を持つ子と話すのは、姉弟でいる時とは違う楽しさがあります。

 僕も兄姉(けいし)のことは大好きですが、――兄さまは僕とは違う人であり、僕が(ひと)()めし続けて良い訳でもありません。

 友だちといる時間、姉弟といる時間、家族といる時間――。いろんな時間や経験(けいけん)()むことが何よりも大切(たいせつ)だと、ヴァイスもよく学生たちに言っています。

「――――セーレ様と話をしたのか。」

 姉さまがフィフスに(あき)れていると、アイベルも戻ってきました。小さなサンドイッチが()ったお(さら)を手に、(つくえ)()き、僕にも(すす)めてくれました。

 兄さまにも声を掛けていましたが、まだ食べる気が起きないのか、見向(みむ)きもしていませんでした。少し心配です。

「えぇ。だけどフィフスには特にないって言ってたわ。……あなたがとんでもない人だから、セーレも言うべき言葉を持っていなかったのね。(した)っている割にあなた、一方通行ね」

 サンドイッチをつまむ姉さまがソファに座りながら、後ろに立つフィフスに指を突き立てて言うと、彼は笑っていました。

「あぁ、そうかもしれないな。今何か貰うべき言葉はないし、私も貰ったところで困っただけだ。何もいらなかったからちょうど良い。」

「……変なの。どんな言葉でも、尊敬している人なら嬉しいと思うものじゃないの?」

「お前たちと話しをしていたという事実だけで、私は満足だ。もし今後もセーレ様と話す機会があれば、私の事は伝えなくていい。他の話をしてあげてくれ。――貴重な時間を、余計なことで浪費(ろうひ)させたくない。」

「……余計なことだなんて、セーレはそんな風には思わないんじゃないのか」

「良い知らせだけ届けられれば充分だ。私たちが仕事でここに来たことも、これから何をするかもご存知だ。早く終わらせ、(うれ)いを減らす方がずっと良い。――お前だってそうは思わないか?」

 フィフスと兄さまが、お互いに(ゆず)らず話している。――昨日怒っていらした雰囲気に近いものを感じ、思わず姉さまにくっつきました。

「フィフスってば、セーレに嫌われてたりするの? 何か余計なことをしてそうだものね、あなたって。」

「――――この話はやめにしましょう。外で左翼が待っているのなら、早く校舎へ行った方がいい。雨の中待たせるのは可哀そうだ」

 不機嫌(ふきげん)そうに兄さまが話を切り上げると、アイベルと一緒に衣装ダンスのある隣の部屋へと姿を消されました。

 ソファの背もたれの方を向いて座る姉さまは、静かに兄さまを見送ると、

「……あなたってケンカを売る天才ね。もう少し折れるとか、穏便に済まそうとか思わないの?」

譲歩(じょうほ)したところで話が長引くだけだ。自分を簡単に譲るときは、相手を(わな)()める時くらいしかしない。」

「そう……。なら気を付けておくわ」

「是非そうしてくれ。」

 顔を見合わせて二人が笑っておられました。

 意外と姉さまとフィフスも気が合うのでしょうか。

 少しだけ、分かり合っているお二人を(うらや)ましく思いました。

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