ジェヴォーダンの獣
私はジェヴォーダンが大好きだ。最初は本当にちっちゃかったけど、今はこんなに立派に育った。とは言ってもポメラニアンだから結局小さいけどね。
でもでも、小さい身体なのに力持ちなんだ! 私のことをタックルで吹き飛ばすことができるんだよ!
「ただいまー」
「わん!」
「ジェヴォーダンただいま゛ッッッ!!」
特に用事もない限り、私はずっとジェヴォーダンと一緒に居た。ずっと一緒に居たかった。でも、犬の寿命は人間のそれよりはるかに短い。人間でないものと比べたら尚更だ。
日に日に弱り、ついに寝たきりになったジェヴォーダンを見て私はもうすぐ別れる日がくるということを悟った。
そして、ジェヴォーダンはその身体にのしかかった苦しみから解放されたかのように死んでいった。悲しくない、と言えば嘘になるけど天国で元気にはしゃいでいると考えればだいぶ楽になれた。
そういえば、ちょっと前の話なんだけど動物を虐待する人を非難する出来事があったんだ。もちろん虐待するのはいけないことだけど非難する人も言うだけ言って行動に移さないんだよね。こういうのを偽善者って言うんだろうね。
「………ん」
私は木の幹にぺたっと貼り付けられていた貼り紙を見つけた。なんでもここらじゃ有名な動物保護団体のようで、それなりの寄付金が集まっているらしい。貼り紙に貼られた動物達は片足が無かったり内臓が飛び出していたりしたが、それも寄付金のおかげですっかり治ったとのこと。
「………」
私は人間はなんて騙されやすい生き物なんだろうと思った。
「寂滅」
夜、新聞を読んでいた姉さんが私を呼んだ。
「何、姉さん」
「男性39人、女性79人、性別不明12人が殺害されたらしい」
「何それ切り裂きジャック?」
「切り裂きジャックは女性だけだよ」
「それで、犯人は捕まった?」
「それがな、目撃証言によれば牛のサイズをした狼で、剛毛と鉤爪を持っている、んだとか」
「ようするに獣害ってこと?」
「なんなら獣災だな」
外出る時は気をつけるんだよ、とだけ姉さんは言って自分の部屋へ向かった。
「…………」
私は窓を開ける、冷たい風が顔を嬲る。下を見れば小さなワンちゃんが居た。
「あれ、貴方帰ってきちゃったの! そうなの! 帰ってきちゃったの!」
「わん!」
「よちよちよち! ん? どうしてあんなに人間達が死んだのか知りたいの?」
「わん!」
「……人の善意を利用した邪悪がどうしても許せなかっただけだよ、ジェヴォーダン」
私の尾骨あたりから、狼の尻尾が生えていた。
60人から100人が殺されたこの事件はこう呼ばれるようになる。
―――ジェヴォーダンの獣、と。




