ピクチャーロイド エリー
ピクチャーロイドは絵の住人。光属性で、絵の中を縦横無尽に動く。
「聖堂はすぐそこよ。聖属性の魔法の鍛錬所にもなているわ。ここからは静かにしてね。大司祭様が、エマ様のために祈りをささげているのよ」
会堂に入って、すぐメルド大尉とローマン王国のアベド少佐を見つけた。二人ともでかい上に恰幅がいい。後ろにいるのを見つけて並んだ。ちょうど祈りが終わり、歓談の時となった。相当長い式典をしていたようだ、ここに居なくてよかった。
オレと近衛たちは、エマとレジーナの近くに行って控えた。オレを見つけたメアリが、駆け寄ってきた。
「ダークさん、いやな思いをしませんでしたか。今頃入学試験だなんておかしいです」
「あんなの帰りうちだよ。ねっ、ルイーザ先生」
「そうね。ペーパー試験も、ほとんど満点だったのよ。あの問題って、ここの卒業試験よ。ダークは、もうサウザンド魔法学園を卒業できるわ」
「ダークは、そんなに賢かったのか」
「おれ、ポートレイのミナミ塾出身なんです。それに、両親からいろいろ教えてもらっていましたから」
ミナミ塾は、グラン自治区の有名な塾。
「文武両道ね。すばらしいわ」
「ルイーザさんって、聖拳士の。[ペコッ]エマ様がお世話になります」
聖堂に入ってから、様付けじゃあなくなった。オレは、こそっとメアリに聞いた。
「さっきは、なんでダーク様だったんだ。恥ずかしいよ」
「ああいう人たちは、権威に弱いんです。様をつけると、ダークさんの立場をはっきりさせることができるじゃないですか」
「そっか、助かったよ。ありがと」
「どういたしまして、でも試験の結果がよかったのなら問題ありませんね。エマ様に言っておきます」
「うやむやにしたら駄目よ。エマ様とレジーナ様に、苦言を呈していただいた方がいいと思うわ。平民というだけで、王女と聖女様の従者をいじめようとするなんて、普通じゃないわ」
「わかりました、そう伝えます」
メアリは、男爵家の長女だ。だから、サウザンド魔法学園に、普通に入学できるのに、エマの侍女として入学した。侍女は、エマが望めば、同じ学び舎で就学できる。結果は同じことだと思うけど、メイド服にこだわったのかな。侍女は、制服を着なくていい。父親に特注してもらったメイド服を自慢していたから、そうだと思う。
エマの周りにいる主要人物は3人だとメルド大尉に教えてもらった。学園長のマクレガー・リドル・メイザース。大司教のジョシュア・バトラー・イェイツ。王国の宰相マトバ・ブルース・ポートレット。そして、用もないのにエマにつかず離れずひっついているおまけが、宮廷侍従長のダラス・フォン・テオドラ。なんだかいやな感じの男だ。
やっと挨拶が終わったのか、エマがほっとした顔をしてオレたちを見た。ローマン王国のアベド少佐が、すぐ反応した。
「ダーク、姫のもとに行くぞ」
「はい!」
「エマ様、お疲れ様です」と、エマの護衛のアベド少佐。
エマのホッとした顔にレジーナの嬉しそうな顔。オレは、今日の主役のエマの近くに行った。
「ダーク、この方が、私たちを寮に案内してくれます」
「寮長のフレイヤ・ルナ・ポートレットです。彼は、男子寮監のジミーです。ダークさんを男子寮に連れて行ってくれます」
「ジミー・セオドア・カーターです。ダークさんは、こちらにどうぞ。荷物は、部屋に運んであります」
フレイヤさんは、学園長の娘さん。自身も伯爵の地位を持つ王妃様のお友達だ。
それにしても優雅で上品な物腰。
そこにレジーナがそそっと寄ってきた。
「ダークも、学園の生徒ね」
「さっき、入学試験を受けさせられたからどうかな」
「なんですって。編入の話をしたときに、そんな話はなかったわ。おじ様に文句言ってくる」
「この人、非常勤講師のルイーザさん。彼女が言うには、問題ないって」
「マイレディ、その通りです」
ルイーザがオレに、こそっと言ってきた。
「ちょっとダーク君。レジーナ様にため口?」
「そうしないと怒るんだ」
「レジーナ様らしい」
「ルイーザ先生がエマをサポートしてくれるのでしたね」
「はいマイレディ」
「よろしくね。ダークは、入寮手続き?」
「そうなんだ。明日の入学式の時は、馬車止めの前で待ってるよ」
「そうして。エマは、もう少し、歓談させてあげたいから、私が守るね」
なんとなく分かると、宮廷侍従長のダラスを見た。
男子寮寮監のジミーの後についていく。柊寮の屋根裏部屋に連れていかれた。ここに預けた荷物があった。今朝、入試を受ける前に荷物を預けたが、いつものデイバック1つのみ。中には着替えと歯磨きなど、ちょっとしたものが入っているだけだ。大事な魔石や魔法陣を描く超小型ゴーレムは自分で持っている。
「ダーク君済まない。空いている部屋が屋根裏部屋だけなんだ。急だったから、片付けをしていない。悪いが、片付けてくれるかい。ここは、私がアトリエにしていた所でね。ごちゃごちゃしているが掃除はしている。天井は低いが、天窓があるし、広さは4部屋分だよ。私が使っていたベットもある。倉庫がわりだったからピアノもあるし、好きに使いなさい。部屋にある荷物は、1階におろしてくれ。私の絵だけは、階段の踊り場でいい。後で取りに行くよ」
「了解です」
「普通の寮生は、二人部屋になる。従者は別室に控えることになるが此処は、一人部屋だ。ダーク君の場合、従者は同室になる。それは、仕切りで何とかしてくれ」
「問題ないです」
従者なんかいない。リュートを登録しとくか。
屋根裏部屋は、思ったより天井が高く、天窓から日差しが入って明るかった。夏は暑いんだろうなと思うがそこは荒野暮らし。やり方はいくらでもある。
それにしても、古そうな家具や調度品がいっぱいある。中でも、縦型のピアノは、重量物だ。闇魔法というか念動力で運べないことはないが、念動力を些事に軽く使っていると、面倒ごとが増えそうな気がするので、極力使いたくない。入り口付近に置くことにする。古風な食器棚もそうだ。中身を整理するのは無理だと思うし、これも結構な重量物なので、入り口付近に配置した。おかげで、リビングっぽい部屋となっていく。ソファーや机やベッドは、使っていいと言っていたからそのままにして、寮で集会でもしていたのかな、大量の椅子や簡易の長机を1階まで降ろした。寮は、3階建てなので、結構な重労働。
「ちょっと、丁寧に扱いなさい」
ギョ!
きょろきょろしたが、誰も掃除を見に来ていない。
「ここよ、ここ。新入生ね。絵の世界があるって知らないのは仕方ないけど、絵は、私たちの世界とあなたたちの世界をつなぐ窓よ。壊れないように丁寧に扱いなさい。
「えぇっっと」
自分が持っている絵を見ると、絵の中の少女がプンプンに怒っていた。
「掃除で、1階におろすだけなんだけど」
「ダメよ。ジミーは、絵の管理がずさんなのよ。私を、そうね、大きな窓の対面に飾ってちょうだい」
「ごめん、そこだと、オレのプライベートがないんだけど」
「仕方ないわね。ピアノの上でいいわ。ここにも横に窓があるし」
ジミーは、こういうのを階段の踊り場に置けと言っていた。絵は、20枚ほどあり、異国の風景画や、習作っぽい静物画がほとんどだ。
「他の絵は、いいのか?」
「ジミーのへたくそな練習画はいらない。風景画は、全部飾っときなさいよね」
「この6枚?」
「そうよ」
絵画の少女に言われるまま、ピアノの上に飾った。全部で7枚。
「ふう、これで、薄暗いところから解放されたわ。私は、エリーよ。あなたは?」
「ダークだ。今日から、ここに住む」
「屋根裏部屋に?。なにをやらかしたの」
「今度話すよ。それより今日中に掃除を終わらせないと宿代がかさむんだ」
「わかったわ、ちょっとお友達のところに行っているから、後でね」
絵画のくせに、絵からいなくなった。どうも、彼女が、ルームメイトになるっぽい。
絵のほかに彫刻があったが、それは、エリーのように話さなかったので階段の踊り場に降ろした。ここは、ジミーのアトリエ兼倉庫だったので、塵や埃が少ないのは助かる。荷物を下した後は、簡単に掃除するだけで済んだ。