相棒のドロイドが作れそう
マナによる量子コンピューターは、とても優秀。それを作るきっかけはバザールの小間物屋さん。
さっき、エマが滞在しているウッドホテルの宿泊料を聞いた。最安値の部屋で1泊金貨1枚。と言われた。とんでもない高級ホテルだ。安宿を探して、王都を歩くことにした。
銭貨10枚=銅貨1枚
銅貨100枚=大銅貨1枚
銅貨100枚=銀貨1枚
銀貨10枚=金貨1枚
金貨100枚=白金貨1枚
白金貨=100万銭貨
王都の貨幣価値が分からないので、バザールを冷やかしに行く。誰も値切らないバスケット1本が、銅貨7枚なので、おかずの贅沢をしなければ、銅貨が10枚もあれば1日分の食事代が賄えることがわかった。お米だと1升銅貨5枚。普通盛りのご飯12杯分。買うならお米のほうが安い国。
バザールを歩いていて、魔石屋を見つけた。ヨハンが金貨十枚も持たせてくれていたのを思い出した。オレは、あれが作れるんじゃないかと魔石屋のお兄さんに声をかけた。
「お兄さん、魔石なんか露天においていいのか」
「俺の本業は鑑定だよ。ここにあるのは、安いものばかりなんだ」
「これは、デカくない?」
「よく見ろ、色が分からないぐらい透けているだろ。これは光曜石の半端だ。光曜石というのは叩くと薄く割れる。ここまで薄いとすぐ使い物にならなくなるがな。丁度いい厚みだと、これだけの面積だ。ものすごく広い部屋でも明るく照らせるって品物だ」
「へー」
「本当は、厚めのを作って平べったい光源を作るんだ。それだと、長持ちだし、光の魔石の塊より明るいんだ。そういう光曜石だと坊主じあ逆立ちしたって手が出ない。その光曜石を作る過程で、こういう薄っぺらい半端が出る。これだと、使うと明るすぎるくせにすぐ終わってしまう。だからタダ同然で売っているのさ」
「ふーん、何かに使えないか研究してみるから、金貨1枚であるだけくれよ」
「本気か?」
「もし廃棄する薄い光曜石が使えるようになったら、お兄さんも大儲けだろ」
「そうだけど、こんなものをねぇ」
光の魔石が、ここまできれいに平べったいんだ。この上に、回路、おっと魔法陣を直に書き込めば、光通信のCPU演算装置が出来上がる。こっちの世界だと、魔法陣を魔石に直接書き込むって感じか。魔法も科学も同じようなものだ。光通信だし、量子コンピューター回路を書き込もう。後はメモリの代わりになる魔石か。これも同じ光曜石でいいか。それと、演算回路と量子演算回路の得意な演算への振り分け回路だな。ここは、全属性の魔石がいるか。
「お兄さん。おまけに、その砂粒みたいな魔石も、あるだけ全属性くれよ」
「いいけど、闇の魔石だけは、別払いだ。数がないんだよ。その代わりこのデカい黒曜石だけどな」
※黒曜石も光曜石と同じく、割ると薄くて平べったい魔石になる。
「(願ったりかなったりだ)幾らだ?」
「銀貨1枚。何に使うのか知らないが、闇の魔石なんか使い道がないだろ。割ると光曜石と同じ薄くて平べったい魔石になるが、誰も使い方を知らない。だから市場に出回らないんだ」
「使い道がないのか。なら研究したい」
オレは、しぶしぶ銀貨を払った。実際は、これで、マナによる量子コンピュ-ターCPUの素材が、全てそろったことになる。
「変わり者の学生だな。今度、闇の魔石をもっと仕入れとくから買いに来な。金貨を出してくれる客だ。面倒見るから、ひいきにしてくれ」
「ありがと、また買いに来るよ」
いい買い物をした。それにしても、このバザールは、人しかいない。薄気味悪い。故郷の港町ポートレイのバザールは、異人種や亜人種でごった返していた。
魔石に回路図・・おっと、魔法陣を直に書こうと思ったら、アダマンタイトの針がいる。いると言っても、針の先ほどの量でいい。これだと銀貨数枚で買える。それから、光曜石と黒曜石を合わせたウエハーを収納するハードケースか。これぐらいは、自分の魔法で何とかする。ドロイドのCPUを保護するのはチタンがいい。チタンの元である金紅石は見つけている。しかし、それを精製するのが難しい。この世界の連中は、チタンや透明アルミといった宇宙開発素材の概念がない。アダマンタイトや、ミスリルがあるのだからそっちに目が行くのは仕方ない。
次は、鍛冶屋に向かった。半端のアダマンタイト屑は、こういうところにしかない。
不案内な王都で鍛冶屋街を探し、そこで、小間物職人を紹介されて、それでまた王都のバザールに戻ってきた。アダマンタイトで、魔石に魔法陣が書けるよう先端に加工できるのは、小間物職人のスミスしかいないという。アダマンタイト屑は、銀貨1枚で、何個か譲ってもらえた。後は、これの先端を尖らせてくれればいい。
その小間物職人の家は、バザールの繁華街にある路地裏の更に奥まったところにあった。
「すいません。スミスさんはいますか」
「なんでぇ、この忙しい時に・・」
スミスは、どう見ても、ただ寝ているだけで、仕事なんかしているようには見えない。
「これなんだけど。先っぽを尖らせてくれませんか。それで、普通の鉄かなんかで、筆にして貰いたいんだ」
「なんだこれ、アダマンタイトの屑か。そんなの魔力を通したら好きな形にできるだろ」
「魔石に魔法陣を彫れるぐらい尖らせて貰いたいんだ」
「ふっ、ちょうど退屈してたんだ。そのアダマンタイトで、魔法陣を書いたら俺に見せに来てくれ。それを約束してくれるんなら、銀貨3枚で引き受けよう」
「お願いします」
「坊主、名前は?」
「ダーク。ダーク・サンドストーム」
「ダークな、よっしゃ引き受けた。そこに居ろ、すぐ作る」
スミスは、消し炭ほどのアダマンタイトに、これでもかと魔力を流し込み、信じられないぐらいとがったアダマンタイトのペン先を作って、持ち手に引っ付けて魔法陣のペンを仕上げてくれた。その替え芯も。気が付いたら、夕方になっていた。
「オレ、まだ宿をとっていないんだ。お勧めの宿を紹介してくれ」
銀貨3枚を払いながらスミスに聞く。
「おう、それなら、おれの家に泊まって行け。飯も出すぞ。その代り、魔石に魔法陣を書いて見せてくれ」
まあ、電卓用ぐらいだったらわけないか。マナによる量子ビットだと、1ビットで古典コンピューターの256ビットと同じだから、回路も、魔法陣にしか見えないだろうし。
※古典コンピューターは、ON=1、OFF=0で1ビット。英数字は、8つの点がないと表現できないから最小のビット単位は8ビット。マナは、火水風土の4通りに変化する。つまり4の4条で256ビット。光属性の魔石に回路図を書くわけだが、そこに闇属性の魔石を合わせると、マナが量子と同じようにONとOFFの性質を併せ持つようになり、性質が倍となり8通りとなる。つまり8掛ける8条通りの組み合わせを元々持っていることになる。これは、古典コンピューターの200万倍の処理能力があることになる。前世の学者で、量子コンピューターは、古典コンピューターの9000兆倍のスピードとうそぶく奴がいたが。マナコンピューターでも、1600万倍しかない。古典コンピューターにもいいところがある。得意不得意の問題もあるが、量子コンピューターを大きく言いたがるやつは、何処にでもいるものだ。
「分かった」
オレは、こそっとマナ量子のリセットに使う暗黒魔石を数字表示として組み込んだ。
そんな訳で今夜は、スミスの家に、お世話になることになった。おれが欲しいのは、データーを蓄積し、情報処理をして話し相手になってくれるドロイドだ。この世界での名称は、オートマータという。ドロイドで通す気だけどね。高性能なロボットを作ろうと思ったら、永遠と魔法陣を描いてくれて、それも詳細に書いてくれる超極小のナノボットが必要になる。CPUなんて、同じ回路を繰りかえしているだけ。メモリに至るとそれがとんでもない繰り返しになる。
「スミスさん家にも、アダマンタイト屑がありますか」
「あるぞ」
「最初は手書きだけど、その後は、超小型のゴーレムに魔法陣を書かせたいんだ。スミスさんは、それを作れます?」
「馬鹿言っちゃあいけねぇ。小さくていいんだろ。魔石コアの大きさを言え。大きさがわかりゃあ作って見せらあ」
「このペン先ぐらい」
「そんなに小さくていいんなら、いくつでも作ってやる。材料費込みで1つ大銅貨1枚でいいぞ」
「最初は手書きなんで、魔法陣を大きく書くしかないけど、多分、それを小さいゴーレムに書かせると小さく書けるんですね。それを繰りかえすと、オレらの目には見えない魔法陣を書いてくれると思うんです」
「ふっ、おもしれえ。俺の仕事を助けるゴーレムも作れるか?」
「多分研究すれば。オレ、スミスさんの仕事をよく知らないし」
「その言い方だと、作れるかもしれないんだな。付き合うぞ」
そんなわけで魔法陣を描くゴーレムを作成することになった。スミスの仕事は、魔法陣を書く小型ゴーレム用のペン先を制作することだ。ゴーレム自体はコアまで作ればなんとかなる。おれの方は、電卓を作るとスミスに言った。それは、手書きで電卓の回路を書くだけなので、そんなに手間はかからない。ゴーレムの本格的なコアは、人の目に触れないところでやらないとまずいと思う。演算は、光の魔石。表示部分は、闇の魔石を粉にしたものを光曜石に張り付ける。表示板は、光るのではなく黒くなるのがみそ。
回路にON,OFFをつけようと思ったら、光の魔石だけではだめで、マナをリセット状態にする闇の魔石がいる。実際は、その闇の魔石側にも同じような魔法陣を描いてくれるゴーレムが必要だ。最初は、魔法でコアを作るが、単純な命令しかできない。魔法陣付きのコアを使うと、より細やかなことをしてくれるようになる。その最初の切っ掛けが、ここスミスの工房だ。
魔法陣の作り方には、転写という魔法がある。それは、付与魔法みたいなもので、普通だと、時間経過で消えてしまうが、このようにハードにしてしまえば消えることはない。この方法を昇華させていくと、魔力〈魔石からでもいい〉というエネルギーはいるだろうが、付与魔法を永続させることができる。
今だと、例えば、ちょっとした衝撃によって魔法陣が歪められただけで、コアは、壊れてしまうだろう。それは、それで好都合な話だ。小間物屋で、小さいゴーレムの原型を作るのは、いたしかたない。しかし、この技術を広める気はない。この技術だと、やがて前世の文明を作れてしまう。こんな中世のような魔法文明の世界に、前世の文明を与えてしまったら、惑星ごと滅ぶだけだ。他人に、この技術を見せるのは、ここまでにしよう。おれは、前世で一緒にいたようなAIロボットの相棒が欲しいだけなのだから。
翌朝
「ふあー」
エマが学園の聖堂に行くのは翌日なので、今日は友達のリュートに会いに行く。
「友達のところに行くのか。これは、簡易地図だ。もってけ」
「ありがとうございます」
そこには、城壁で覆われた王都と、王都の外の街の地図が簡易に描かれていた。王都は、川下の西へと延びている。王都に近いところをフィールドインと言う。ここは、亜人も人間も住んでいるところ。その先のスラムは、人族は住んでいない。リュートは、そのさらに先の海岸縁の洞窟に師匠と住んでいる。
「済まねえな。遅くまで付き合わせっちまって。まっなんだ。俺を助けるゴーレムは、当分できないってことは、よくわかった。ちょっとの衝撃で壊れるもんな」
「オレ、まだ15歳ですよ」
「足し算ができる魔道具を作っただけでも大したもんだ。魔法学園の聴講生になるんだってな。研究を期待しているからな」
「頑張ります」
「おう、またな」
おれは、魔法陣を描くペンと小さいゴーレムをポケットにしまって、スミスの家を後にした。
電卓は、消費魔力がほとんどかからない。魔法陣(古典コンピューターの回路)も単純だ。それを1つあげた。引き算もできる電卓を作ることが出来れば、商品価値が出る。スミスでも、そのうち作れるようになるだろう。これぐらいの物なら、今の魔法文明にマッチしていると思うし、十分な対価を彼に払ったと思う。