聖女の卵ローマン王国エマ姫
聖女という職業は貴重だ。戦争があるとき、聖女がいる側が官軍となる。聖女とは、それほど民に慕われている存在。聖女と同じく希少で、戦神とまで言われる職業が魔導士。そしてその更なる上。神々の領域と言われる職業がある。
メルド大尉が予想した通りエマ姫は、王都の一番大きな通りの一番立派なホテルに滞在していた。ローマン王国側の対応してくれた人は、老齢の付き人の方だった。
「ヨハン・ペン・クラークですじゃ。エマ王女の護衛長であるジョーンズ大佐は、所用でおりません。私が対応します」
「レジーナ王女護衛のメルド大尉です。彼は、ダーク・グラン・サンドストームです」
「ダークです」
「なんですと!。ダーク殿は、ポートレイの方なのですか」
「実家は、グラン自治区の荒野で、ウオーターファーマーやってます」
「分かりました。今すぐ姫に取り次ぎますじゃ」
オレとメルドは、目を丸くして驚いた。
「なんか、話が早い」
「姫も言っていたが、グラン家というのは、そんなにすごいのか」
「ウオーターファーマーなんて、住民の下働きみたいな仕事ですよ」
「そうなのか?。だが、ダークへの態度を変えないといけないな」
「やめてくださいよ」
「あーーー、居た。やっと追いついた」
「姫」「レジーナ!」
「私を呼んどいて、普通は、停車場で、私を待つんじゃないの?」
「失礼しました。取次は終わりましたので、姫もお加わりください」
「レジーナ、話は聞いたか」
「うん。エマは、聖女の卵なんでしょ。友達がいたら、学園生活を普通に送れるってことよね」
「ピクチャーロイドが言うには、相当落ち込んでいるみたいなんだ」
「サウザンド魔法学園の入試の実技は、攻撃魔法中心なのね。ヒーラーのエマには厳しい内容だったと思うわ。あれじゃあ、エマの良さなんかわからない。お母さまにダークの話をしたら、男友達より女友達の方を先に作りなさいって言われていたの。私もお友達が欲しい。私もエマに会うわ」
「頼むよ」
「カイ、アベド、姫をエスコートせんか」
「ハアハア」
「ハァ・・」
護衛のカイ少尉とアベド少尉が、遅れて入ってきた。
「「失礼しました」」
さすが軍人、切り替えが早い。カイ少尉とアベド少尉は、自分のことを下っ端だと思って、姫の馬車に同乗しようとしないで走ってきたそうだ。
「おや、御客人が増えましたかな」
「レジーナ様です」
「レジーナです」
「おお、ドラグーン王家の」
ヨハンさんが、我々を快く迎えてくれた。
ウッドホテルの最上階は、VIP用で、広々としている。護衛3人は、こに入ることをせず別室で待つことになった。
「エマ様。本家の方とレジーナ様ですじゃ」
「ダークです」
「レジーナよ」
レジーナは、簡易の服。しかし、ドレスのスカートをつまむような仕草をしてあいさつした。これに対してエマがレジーナに返礼する。
「エマです。あの、ダーク様。本家の方が私に、どういった御用です?」
一番落ち込んでいる時に本家の人がやってきた。
「オレの友達にピクチャーロイドの友達がいるんです。エマが落ち込んでいるから、親戚のレジーナを連れて行けって言われて」
「エマさんでしょう。お友達になりたい」
「レジーナ様は、ドラグーン王家の方ですよね」
「レジーナでいいわ。親戚でしょ」
「オレもダークで。オレ、平民だし」
エマの驚きももっともだ。グラン家との直接の交流は、グラン王国が滅んでから秘匿されていた。本家が直接会いに来るなど、何百年も無かった話。
「さっき、サウザンド魔法学園の入試の話を聞いたよ。あれじゃあエマの実力は測れない」
「エマは、聖女になる人なんですってね。あんなので落ち込むことなんてない」
「私が聖女ですか?」
「ピクチャーロイドに聞いた」
「あの、そのピクチャーロイドというのは」
― グリーンだよ
「グリーン?」
「グリーン様が!!!」
「グリーン様ですじゃ?」
おいおい、エマの後ろの絵が動いたぞ。
「ダーク様は、何処でグリーン様とお知り合いになられたのですか」
「ダークでいいよ。オレは、友達から聞いたんだけど、あれが本人?」
そう言ってエマの後ろの全身緑の服を着た妖精の絵を指さした。
「ええ、グリーン様です。見守ってくださっていたのですね」
「何で、絵のふりをしているんだ。さっき動いていただろ」
― 君、僕の声が聞こえるんだ
「自分でグリーンて言ってたじゃないか」
「ああっ、絵が動いてる!」
「姫様」
エマとヨハンが、絵に向かって手を合わせた。
― こういうの苦手だから、絵のふりをしているんだよ
「二人とも、こういうの苦手なんだって。拝むのをやめてほしそうだよ」
「ダーク殿は、グリーン様の声が、聞こえるのですじゃ?」
「私、グリーン様と話がしたいです」
「話がしたいって、どうする?」
― いいよー
「ちょっと、私には、グリーンの声が聞こえないんだけど」
「そうなのか」
― 普通は、聞こえないかな。ダークはすごいね
「すごい気さくそうなんだけど。聞きたいことがあるなら話してみればいいんじゃないかな」
「私が聖女の卵だって言うのは本当でしょうか。私はグリーン様の声が聞こえません。聖女は、グリーン様の声が聞こえるのではないのですか」
― ぼくたちの声は、光属性が強い人じゃあないと聞こえないみたい。エマは、珍しい水属性の聖女だよ。サモル王国のサウザンド魔法学園は、浮遊魔法もそうだけど、水魔法を得意としているからね。いいチョイスだと思うよ
オレは、頑張ってグリーンの話すニアンスのままエマに話しかける。
「私、サウザンド魔法学園に入学していいのでしょうか」
― いいと思うよー。レジーナもいるし。今、友達ができたじゃないか
レジーナが頷く。
「ダーク様・・・」
「ダークでいいって」
「ダーク、ありがとう」
「私もですじゃ。グリーン様を見れただけで、望外の喜びですじゃ」
ヨハンさん、泣いているよ。
グリーンは、拝まれるのが苦手で、早々に退散した。
この後ヨハンがお茶を淹れてくれたので、エマのお付きのメアリも交えて、もう少し話しをすることになった。
サウザンド魔法学園は、学園というぐらいで、全寮制の学校だ。しかし、レジーナ王女は、偶に公務があることから、通いとなっている。エマ王女は、入寮する。その時のお付きがメアリになる
「わたしは、男ですから、姫のお付きにはなれません。代わりに弟子のメアリが姫に付きそいます。残念なことです」
メアリがペコっと頭を下げた。メアリは、ヨハンのお茶を覚えるためにくらいついていてエマ王女の目に止まった。
「ヨハンは、執事の最高峰の人です。お茶がおいしいでしょう」
「レジーナ。ヨハンさんをどうにかできないか」
「マトバおじさまに相談してみるね。ヒルデガルドおばさまが、人を欲しがっていたと思うわ」
マトバは、サモル王国の宰相。ヒルデガルドは、その夫人。
「よろしくお願いしますじゃ」
「ダークは、聴講生になりたいんだったよね」
「半年契約だからね」
「半年契約って?」
「私の護衛。その後、実家のウオーターファーマーの石の水道管を鉄パイプにするんですって」
「グラン森林で、2年も鉄鉱石を集めていたんだ。オレの友達が竜騎士見習いなんだけど、半年後に修業を終える。集めた鉄鉱石は、グラン森林の中心にあるんだ。飛竜じゃないと運べない。だから、半年後に鉄鉱石を運んでもらう予定なんだ」
「大変そう」
「それまでエマ様も、ダーク殿に護衛を依頼してはどうですじゃ」
「いいんですか?」
「学園の中には、近衛を連れていけないのよ」
「そういう事か。いいよ」
確かレジーナには、オビトがいたと思うんだけど。まあいいか。
「あと、魔の森にレベル上げに行きたいの。レベルを上げないと、魔法を学んでいても途中で、壁にぶつかるって家庭教師に言われたのよ」
「私も一緒に行きたいです」
「王都側は、弱いのしかいないし、そうするか」
レジーナがオレを雇うのは、これが本命だよな。
「冒険者登録するでしょう。そうしたら、お金の流れが分かりやすいわよ」
「そうする」
「じゃあ、ギルドに指名依頼することにするから」
「そういう事であれば、私どももそれでお願いしますじゃ。これは、私のポケットマネーですがお納めください。これで、装備を整えてくだされ」
そう言われて軽い気持ちで金を受け取った。後で何か食おうと思って茶巾の中を見ると金貨が10枚も入っていた。
「オレ、そろそろ帰っていいかな。まだ、宿を取っていないんだ」
「何とか直ぐ寮に入れるようにする。今日は宿を取ってね。マクレガーおじさまに相談に行く」
マクレガー・リドル・メイザース公爵は、レジーナの叔父。サウザンド魔法学園の学園長。
「本家の方に会えるなんて思っても見ませんでした」
「明後日は、エマ様が学園の聖堂で祈りを捧げますのじゃ。そこで会うのはどうですじゃ」
「じゃあ私もエマに付き添うわ。ダークもそうして」
「了解」
オレは、手をふりながら部屋を出た。レジーナは、オレを見送って、エマともう少し話しをする気だ。レジーナが、「お母様に会って」とエマに頼んでいる。シーラカンス爺さんたちの頼み事は何とかなった。後は、海王のところに連れて来いと言われている。姫二人だろ、結構ハードルが高いと思った。