BD2-2
翌日、レオ・シルバーを連れて王宮に参内した。エマとジャック・グリーンもオレに同席する。もちろんファーストレディーだ。オレは、エマの従者の位置。
レジーナに聞いてはいたが、国賓級の待遇。もちろんエマのために用意された。なんでこんなことになったかというと、貴族たちが、BD2を見たいと言ったからだ。レジーナはこれから公の席でもBD2を連れて歩く。それを通達しないわけにはいかなかった。
ファンファーレと共に入場。
MR1、彼らの顔認識しとけよ
はいマスター
MR1とBD2と脳内通信できるのは、オレとヒパティア先輩だけ。現在先輩は、MR1のドローンカメラ10台と、映像を共有している。
お城の謁見の間の広いこと。天井もバカ高い。サモル王国は小国なのに、この広間を貴族が覆いつくしていた。
国中の貴族が集まっているんじゃないか。
オレは子供なのに背が高い。エマの従者としては申し分ない見栄えだ。着ているのは学生服だけどね。それも無表情で、ドーンと構えている。前世では、こんなの些事だった。順番は、エマ、ジャック、そして、オレとレノが並んでエマに従う。オレの身長はもう2メートル近くある。BD2も長身。エマのドレスは明るい黄色。優しい笑顔で入場した。
エマが所定の位置に立った。
「ヤトカムイ様、マーガレット様。ご機嫌麗しゅうございます」
エマが正式な挨拶をした。王家も全員立ってエマを迎えた。エマは、レジーナと目が合って、くすっと笑っている。
「エマ王女。よくいらっしゃった。従えているモスグリーンのゴーレムもBD2なのか」
「左様です陛下。ジャック・グリーンと申します。ジャック、挨拶して」
「ヤトカムイ様、マーガレット様。そして皆さま。ご機嫌麗しゅうございます」
観衆からドヨッと、ため息が漏れる。話すゴーレムというだけで珍しいのに、申し分ない挨拶。王妃が王にそっと手を添える。これは、「あなた、座りなさい」と、言う合図だ。これを「まあまあ」と、横目で見て、ジャックにもあいさつした。
「ジャックもよく来た」
ジャックは、返礼として上半身を大きく曲げた。
王が座り、王妃や子供たちも座る。レジーナだけ、前に一歩出た。正式な挨拶をしてエマに話しかける。
「エマ、ここまでレノを連れてきてくれてありがとう」
「私は、レノを連れてきただけですわ」
二人で頷いて、また二人で、くすっと笑う。
「レノ、前に出なさい」
レジーナの指示で、メタリックシルバーのレノが前に歩み出る。
「私の家族に挨拶して」
「マーガレット様。ウイリアム様。ハリー様。レノ・シルバーです。よろしくお願いします」
「うん!」
下のハリーが元気よく返事をした。
「ヤトカムイ・ノバ・ドラグーン様。どうぞよろしくお願いいたします。この、レノ・シルバー。レジーナ様に、誠心誠意務めさせていただきます」
レノが深々と頭を下げた。
「頼んだぞ、レノ」
「みんなにも挨拶して」
レノが振り返って観衆に挨拶した。
「ご列席の皆様、レジーナ様より名前を賜ったレノ・シルバーと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
また観衆がどよめいた。挨拶を返す者、驚きを隠せない者、そしてBD2を欲しがる者。しかし、BD2の製作者がだれか明かしていない。ここにいるけどね。
どうだMR1。アウグスト伯爵夫人は撮ったか。
ばっちりです。観衆も全員記録しました。
仕事完了だな。後は好きにしていいぞ。
ありがとうございますマスター
MR1は、レノ・シルバーの晴れ姿を余すところなく撮り始めた。ジャック・グリーンは、夏休みにエマが国元に帰ってからこうなる。
この後、BD2の同時通訳スキルが試される。
「レノは、通訳を得意としている。我はと思うものは前に出よ」
そこへ、さっきMR1が、中心的に撮影していた女が前に出た。
「ミレーネ・アウグストでございます。わたくしは、帝国標準語のネイティブでございます」
「帝国標準語からか、面白い。ミレーネ、なんでもいい。レジーナと話してみよ」
※ロア帝国標準語は、ロシア語とする。
「レジーナ様、ここからは、帝国標準語で、よろしいですね」
「どうぞ」
同時通訳が始まる。
「デビュタント〈社交界デビュー〉というのは、15歳からですが。帝国では、12歳になったら、同年代の女子が集まって、お茶会をします。それは、同じ年にデビューする女子と先に顔見知りになっておくためです。そうすれば、社交界で、きょろきょろしなくて済むからです。レジーナ様も15歳になられました。もう、お茶会は開かれましたか?」
「まだです。私のお友達のエマは、聖女になられるかもしれない人です。ですが、相当修行をしないと聖女にはなれないと言われています。私たちは、成長期です。今やらなければいけないことがあります。今しかできないことをです」
「その通りですが、利害関係のないお友達を作るのも、今しかできません。お茶会をされるのもチャレンジです」
「その通りですね。お茶の時間も大切です。アウグスト婦人の進言を考慮します。ありがとうございますした」
「どうだミレーネ」
「少し、硬い感じはありますが、まったく問題ありません。
「硬いぐらいが、ちょうどいいでしょう。いらぬ誤解を生まなくて済みます」
「マトバの言を良しとする。他にはどうだ?」
「お父様、レノは、これから他国語を覚えるんです。今覚えているのは、帝国標準語とローマン語だけです」
「そうなのか」
「急にいっぱい言葉なんか覚えられません」
「だがな、うん?。ローマン語を覚えているのか。それなら、エマ姫と話しなさい」
「あなた。ここは公の場ですよ。他国の姫にポンポン注文しないでください。それに、ローマン語とサモル語は、あまり変わらないじゃないですか」
「そうだった」
本当は、海中で、人魚とも話せるけどな。レジーナも、それを知っているけど、あまりBD2が優秀だと、いらない詮索をされる。こんなところが落ちか。
「それでも、十分優秀だと思います」
「そうだな、ありがとうミレーネ。皆の者、レノは、これから、レジーナの供をする。公の場でもそうだ。見知ってくれたな」
「「「「「は、はー」」」」」
レノが、ペコっと頭を下げている。
「エマ王女、ご苦労だった。この後お茶を出そう。宮殿に来なさい」
「はい、オジサマ」
エマがニコッとして。スカートを持って深くお辞儀をした。そして、ジャックと、供のオレを連れて下がった。
オレは、入り口にいるエイギル少佐にエマを渡し、お役御免となる。
「ダーク、本当にお茶会に出席しないんですか」
「レジーナの家族と普通に話せないんだろ。行っても意味ないさ」
「そうですけど」
「ヒパティア先輩が、お菓子のお土産を期待してたぞ。後でもっていけばいいだろ」
「分かりました」
「エイギル少佐、さっきのレノの試しを見てましたか」
「扉は空いていたからな。あれが帝国の女か」
「気をつけてください。エマも」
「はい」
「今のところ、やれることは少ないがな」
「エマが、なかなか聖女の頭角を現さないように、立ち回ればいいんです。そうすれば、レジーナも動きやすいですから」
「わかった」
「ダークは、どうするのです?」
「来月には、海に潜りたいんだろ。護衛をしてくれる竜騎士のシドに会いに行くよ。セビンさんと、レジーナの護衛のカイさんと待ち合わせ。顔合わせだよ。全員で、スラムに行ったら怪しまれるだろ」
「セビンを頼む」
「気をつけて」
竜騎士でもシドは特別だ。シドは、リトルリザードマン。シドの相棒のブルーは、空も飛べるが海に潜ることができるワイバーン。二人とも海に強い。友達のリュートと相棒のレッドも海に潜る修行中。レッドは山のワイバーンなので苦戦中。後1カ月でオレたちについてこれなかったら、同行を断念する。




