錬成術
午後は、2時限とも錬金学を受講している。昼一番は、錬成術。次の授業は、魔道具錬金だ。魔道具錬金の授業は、今のところ歴史や魔道具の分別や種類など座学ばかりだ。でも生徒数10人と錬金学科にしては多い。錬成術の授業は、いきなり実践だった。宮廷魔術師の人が先生で来ているのだけれど、人に教える事が出来ない人のように思った。アイザック・ノーストウエスト・スミス先生は、錬金術士の職人?なんじゃないかと思っている。こっちの授業も最初は、10人ぐらい生徒がいた。今では、7人しかいない。
錬成術の最初の授業は、純水錬成だった。やり方は、水に魔力を込めるというもの。一応浮遊術の授業で、みんな鳴き鳥の羽毛に魔力を注げていたので、そういうものかと、みんな頑張って純水を作ろうとした。当然規定量の魔力を注入できない。アイザック先生曰く、錬成の基礎は純水を作ることだ。錬成は、そこから色々発展させる技術だとのたもうた。
最初先生は、学園の入試基準が魔力30だったと完全に忘れていて、錬成職人を育成するものだと思って講師を引き受けたと言っていた。授業が始まって1か月ちょっと。ドタバタしていたが、やっとまともな授業の体となって再開した。しかし、それまでに部活に行くと言って3人辞めた。それで急遽学園側から授業は、最低でも5人いなくてはいけない通常は7人だとお達しを貰い、誰もこの授業から逃げられなくなった。
「みんなすまなかったね。ダーク君の魔力が520あったものだから、てっきり実習生の育成かと思ったんだ。ちゃんと基礎からやるから、安心したまえ」
オレのせい?
「ちなみに僕の魔力は、2021だよ。まず純水とは、なにかというところからだね。
純水は、魔法薬の元だよ。純水を使って、いろいろな薬を作っている。治療薬、毒薬、体力薬などの薬だね。その他に、鍛冶士たちが、剣などを打つときに、高価なものだと付与魔法を付けるんだけど、その工程にも純水が使われている。みんな、教壇の周りに集まってくれるかな。錬成を見せよう。これは、実践をしてもらいたいのではなくって、純水の性質を見てもらいたいからなんだ」
教壇の上には、厚手のコップが6つ並べられていた。その中に水が入っている。
「ここに6つのコップに水が入っている。4属性の魔力を注いだものと無属性とタダの水だ。この中で、純水なのは、無属性の魔力を注いだものだけになる。これに、ヒール草を調合するとヒールポーションが出来上がる。薬学だと、純水は高価で値が張りすぎるので、魔法で調合するのを勧めているよ。じゃあ、ただの水と純水にヒール草を調合するよ」
アイザック先生は、ヒール草をペースト状にしたものを水と純水に混ぜた。
「見たまえ。水の方は、ヒール草が、ほとんど溶けないで沈殿しているだろ。対して純水は、うまく調合できている。これなら、ヒールポーションを素人でも作れる。純水は、高価なものだから、大赤字だけどね」
出来立てのヒールポーションは、少し青緑に輝いていた。
「じゃあ、薬師たちは、どうやってポーションを作るんですか」
エレノアが、率直に質問する。彼女、相当変わってる。研究したいのは、召喚だからジャンルは違うけど、ヒパティア先輩に会わせたら、話があうんじゃないかな。
「まあまあ、とりあえず、残り4属性を付与した水にヒール草を混ぜてみるね」
火属性の水=溶けたけど、泡が出続けている
水属性の水=綺麗に溶けた
風属性の水=少し溶けたっぽい
土属性の水=ヒール草は沈殿した
「分かるかな。ヒール草は草で水溶性なんだ。水属性と親和性が高いって解るだろ。この四属性の中で、ヒールポーションになったのは、水属性の水だけだよ」
アイザック先生は、純水から作ったポーションと水属性の水から作ったポーションを並べた。
「まずは、本題を聞いてくれ。エレノア君の質問は、その後答えよう」
また何か質問しようとしたエレノアが、それを飲み込んで頷いた。
「今2つのポーションが出来上がった。違いが分かるかな」
「純水のポーションの方が青っぽいです」
「水属性の方は緑っぽいんですけど」
「ワム君、ヒューム君、正しい観察眼だよ。見てわかる通り、ヒール草は、どちらの水にも溶けたけど、出来栄えは同じじゃない。この青いポーションは、上級ポーションだ。ミドリっぽいポーションは、中級ポーション。純水の有用性がわかてもらえたかな」
今までいやいや授業に来ていた生徒たちの目が輝きだした。
「このポーション、ちょっと舐めてみるかい」
みんな興味津々で、中級と上級のポーションをなめた。ワムとヒュームとサウジは、味の品評をしている。オレは、なめるには舐めたのだが、いつものごとく、ドーンと不動で、表情を変えない。エレノアは、もう他の失敗作を舐めようとしていた。
「エレノア君ストップ」
先生が止めたけど遅かった。土属性の水をなめて、物凄く渋い顔をしている。
「先生が舐めていいと言ったのは、ヒールポーションだけだよ。他のみんなも気をつけてくれ。今日の失敗作は、なめても死ぬことはないけど、中には毒に変化するものもある。即死性のあるものは、1年では扱わないけど、危ないからね。錬金科は、薬学と違って、そういうタガが緩いんだ」
「先生、とても苦いです」
「仕方ない。中級ポーションを小さじいっぱい飲みなさい」
エレノアは、苦さから解放されて、天にでも上るような顔になった。
「こら!、ダーク君。今言ったことを聞いていなかったのかね」
オレも、火属性が付与された水の失敗作が気になったのだ。泡が出ているし。
炭酸ぽい味だな
「ダーク君大丈夫か」
「これ、結構うまくないですか」
「えっ」「そうなの?」
「そうなのか?。火属性は危険だと思うし、僕も舐めていないんだ。先輩たちに、役に立たないと言われて鵜呑みにしていたよ」
そう言って、先生が、火属性の失敗作を舐めた。
「けっこう爽やかだね。もう少し多めに飲んでみるか」
「先生、量が多いと危ないんじゃないですか」
サウジが心配する。サウジの親は錬金術師で、それなりに、この世界のことを知っている。
「そうなんだけど、こういうのをやめられないのが、錬金術士の嵯峨かな。本当にヒール薬として役に立たないか検証したいんだ。量は少しずつだから」
MR1、解析終了したか?
解析完了です。ヒール草が水のプラズマによる気化を水溶しながら繰り返しています。ヒール草は、無機物に気化されました。これによる人体の影響は、ほとんどありません。 まだ還元されていないヒール草が泡を出しているんだな。
そうですマスター。
ありがとう。
またどうぞ。
「あはは、ヒール効果はないけど面白いな。辛いけど刺激は、長続きしなくて、少量だと爽やか感が残るよ」
これを見て、他の生徒も、みんな火属性の失敗作を舐めた。
「ダーク君は、どう思った」
「毒は無いと思いました」
「ぼくもそう思う。でもこれからは、僕の指示に従ってくれ。今日は、言うのが遅れたから僕の責任だけど、危ないことが多いからね」
「分かりました」
今度から解析は、こっそりやろう。
「失敗作の話をしよう。火属性は、僕にとって新たな発見だった。こういうことがあるから、錬金術はやめられない。風属性は、ミドリ臭くて飲めたものではない。タダの水もそうだよ。土属性は、エレノア君が感じたように苦い。そして、これらは、殆どヒール薬として役に立たない。薬学じゃあ教えないってことだね」
「あのう先生」
「そうだったね。純水は、高価なものだ。純水を使ってヒールポーションを作っていたんじゃあ採算が取れない。じゃあ、薬師は、どうやってヒールポーションを作るかだったね。この、水だけを使ったために、ただ濁っただけの失敗作を使ってポーションを作るよ。この掻き混ぜ棒は、杖だよ。この杖を使って、魔力を流しながら混ぜる。どうだい、だんだん透明になってきただろ。純水とまではいかないけどこの溶液に魔力を付与出来た。これが初級ポーションだよ。術者によって出来不出来ができるのは、その人の得意属性の関係だよ。その意味は分かるね」
みんな納得した。
その後試しで、薬学科よろしくみんなでヒールポーション初級を作った。
「もう時間だね。純水は、無属性の魔力をこれでもかってぐらい水に注入したものだ。純水は、魔力との親和性が高い。無属性だから、どの属性とも相性がいい万能水だと覚えてくれ。次の授業では、規定値に達しなくていいから、魔力を水に流して純水を作ってみよう。それと同時に、魔力を上げる方法を話そう」
これまでの1か月は、まともな授業がなくてストレスをためていたが、今回の授業で、みんな錬成術の授業に残っていてよかったと胸をなでおろした。
エレノアは、この錬成術の授業で一緒の人なんだけど、とても変わっている子だ。ある時、校庭の隅でしゃがみ込んで何かをしているから、興味本位でのぞき込んだら、蟻を召還していた。蟻の巣の近くで、蟻を召還して、蟻たちを助けなさいと、召還した蟻に話していた。「何しているんだ」と聞いたら、「蟻を召還しているの」と答えが返ってきた。「そりゃあ、見ればわかるよ。それで何しているんだ」。「えーっと、召喚した蟻に、巣の蟻を助けてってお願いしたのよ。そうすれば、私にも、蟻のことがわかるようになるの」。それじゃあなぜ、蟻のことが知りたいのかまで、突っ込んで聞く気になれなかった。女の子なのに虫に興味があることだけでも他の女子と違う。とにかく変わった子だ。




