フットサル
5月に入った休み、4人で初めて魔獣狩りに出かけることになった。同行者は、レジーナとエマのお付き3人ずつと、オビトの岩砕流道場の門下生5人。オビトのお父さんが、姫を気遣って人手を出してくれた。魔獣の追い立て役が、11人もいれば、前回に近い結果を出すことができるだろう。オビトが盾役と止め役。オレが、魔獣の足止め役で、レジーナとエマが、おまけだ。みんな、おまけのために働くんだけどね。
前回の狩りでオレは、スキルやレベルが、上がらなかった。オレの念動力は、この世界の理から外れているのだろう。でも、オレのレベル上げは、後でいい。今は、レジーナとエマがやりたいことができるように、体力や知力や技量が上がる方が大事だ。でも、タンク役と止め役のオビトは、スキルやレベルが上がるだろう。良いことだ。今日も、張り切って行こうと思う。
戦闘の打ち合わせは、もう学園で済ませてある。レジーナの護衛のメルド大尉の隊とエマの護衛のエイギル少佐の隊は、この日のために訓練を積んでいる。プロミネンス家の助っ人には、魔獣の血抜きとか、馬車の護衛を任せることになった。でも、参加したいとも言われたので、朝2名、昼3名が、交代で加わることになった。交代の3人に、昼はホーンラビット中心になるので、大変だと思うけどと言うと「望むところだ」と、言われた。そういうところは、オビトと変わらない。
「今日も付いてきたんですか、ヨハンさん」
「グリーン様もですじゃ」
馬車の中の絵は風景画に代わっているが、その中でグリーンが手を振っている。ローマン王国組は、相変わらずエマに甘い。
「じゃあ、みんないいか。メルド大尉、エイギル少佐。お願いします」
「任された」
「こっちも行ける」
メルド大尉が、オビトのところの門下生に教えながら、土ネズミの巣穴に燻り出し用の煙草を投げ入れた。堪らず土ネズミたちが出てくる。
「ダーク君の方に追い立てろ」
「こいつらデカいぞ」
門下生が慌てる。
「その通りだ。二人とも、落ち着いて」
門下生二人が驚いて、連携を崩す。それを織り込んでいた追い立て組のエイギル少佐達が、冷静に土ネズミをオレ達の方に追い立てていく。
オレは、気を開放した。
ズバン!
ビクビクビクビク、ビクビクビクビク、ビクビクビクビク、ビクビクビクビク、ビクビクビクビク。
10匹はいる。巨大な土ネズミたちが動かなくなった。
「オビト、シールドバッシュっぽく一撃入れろ」
「おう」ドン!
「レジーナ、エマ。やってくれ」
「うん」ズッ!
「はい」バスッ!
もう最初から二人に任せて大丈夫な気がする。
「どんどん突いていけ。オビトは、止めだ」
「任せろ」
「オビト君、グリーンスネイクが行ったぞ。姫の前に出るんだ」
「はい!!!」
「ダーク君」
「了解です」
グリーンスネイクの頭を押さえたが、胴体がくねくねして抑えきれない。オビト一人での盾役はまだ無理で、補佐にメルド大尉のところのカイとアベドがついてくれる。
「姫様今です」
「エイ」ズブッ!
「ヤア」ズブッ!
姫たちは、スキルを得るために戦闘に参加するだけでいいのに、結構グリーンスネイクを弱らせている。
やるじゃないか。
「後は任せろ」
ズバッ!
午前の成果は、土ネズミ32匹。グリーンスネイク4匹。それも中に3メートル級のグリーンスネイクがいた。
その3メートル級を防御しきったころから、オビトの調子が上がった。土ネズミとグリーンスネイクを討伐して、防御と技術スキルが上がったのもあるだろうが、自信がついたのだ。
今日は、余裕がある。姫たちは、狩りの合間に短剣術の指導を受けた。オレとオビトは、いつもの大太刀。オビトのところの門下生が興味深そうに見ていたので、仲間に入れた。
そして、昼食になった。遠くにひょっこりホーンラビットが顔を出した。
「あの角、危ないです」
「ここからが本番ね」
「そうなのか?」
「昼から、ホーンラビットなんだけど、体長が70センチはある上に角があるだろ。怪我をするなよ」
「旨いよな、ホーンラビット」
オビトは、ホーンラビットが肉の塊にしか見えないようだ。
「昨日も言ったけど、土ネズミは耐久力。グリーンスネイクは技。ホーンラビットはスピードが上がるんだ。朝の討伐で、姫たちのスピードが速かっただろ。前やったとき死ぬほど、ホーンラビット狩りをした。今回も、これでもかってやるからな」
「そうなんだ」
姫たちは顔を合わせてニコニコしている。朝の討伐で、自分たちのスキルが上がっているのを実感できたのだろう。
護衛の人たちは食事もそこそこに、ホーンラビットを探して、斥候をしている。
姫たちの護衛6人が連携した。それに、岩砕流の門下生が3人付く。この3人には、オビトに止めを刺されたホーンラビットの血抜きを順番に任せることにしているから主力は6人だ。
足の速いホーンラビットに対して、大包囲網が出来上がった。2匹が追い立てられていく。
「行ったぞーーー」
ヴンー
ビビビビビビビビ
「きゅぴー」
「きゅう」
バタバタ。
あの脚力で地面をけられて、姫たちに万が一があってはいけない。2匹とも空中に浮かせた。
「オビト本番だぞ」
「任せろ、ウワー」
オビトは、ホーンラビットに蹴られて吹っ飛んだ。そこにすかさず姫たちが入ってホーンラビットの足に斬撃を入れる。
「エイ」ズバッ!
「ヤッ」ズバッ!
ホーンラビットが弱ったところをオビトが止め。
「そりゃ」ズバン
ドバン
オビトがまた蹴られた。でも姫たちがけん制してくれた。戦闘に復帰したオビトが止めを刺していく。
「ごめん」
「大丈夫よ。オビトも金色に輝いているわ」
「ちゃんとスキルが身についていますよ」
「次行ったぞー」
みんなオレの能力の足止めを期待して、アバウトだ。こっちは、暴れるホーンラビットを足止めするだけでなく、姫たちにケガをさせないために浮かせているから大変なんだけど。
くそー、やってやる。
ヴンー
ビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビビビビビビビ
「きゅぴー」
「きゅう」
バタバタ。
ドン「ぐおっ」オビトが持ちこたえだした。
「エイ」ズバッ!
「ヤッ」ズバッ!
ズバン「オリャーー」オビトも楽しそうだ。オビトだけでなく、岩砕流の助っ人にも肉を分けるとメルド大尉に言われたからな。
これが、夕方まで続いた。そして、翌日もそうなった。やはりオレのスキルは上がらなかった。異能の力と地力は上がった気がする。
週明け、ボルケーノに行かないで学園で朝食を取る。オビトが友達を連れてくると言ったからだ。レジーナは知っているようだが、オレとエマは興味津々。オビトは、魔物狩りのとき、ディフェンダーが欲しいとずっと言っていた。オレは、まあまあやっていたと思っていたが、止めとディフェンダーの2役はきつかったようだった。
「フレイって、どんな奴だ?」
「家が土木建築屋さん。ダークと気が合うんじゃない」
「そうなんですか」
「浮遊魔術にはまっていた子。フレイは魔法科よ。エマは、見たことあると思うわ。魔法科で一番背が高い子」
「あっ、なんとなく」
「本名は、フレイ・ブリッジ・ストーン。王都やフィールドインにある石橋は、ブリッジ男爵家が手がけたものよ」
「あの運河にいっぱいある石橋を?」
「そうよ」
そうこうしているうちにオビトがフレイを連れてきた。フレイが難しい顔をしていた。なんとなくわかる。レジーナというか、姫たちと関わりたくないよな。
「みんな、フレイだ」
「フレイです」
「フレイって、今まで私を避けていたでしょう」
「そんなことは・・・。はい」
「こいつフットサルをやりたいんだと。俺に教えろっていうんだ。代わりに、姫たちのディフェンダーをやってくれって言ったわけ」
「誠心誠意やらせていただきます」
「じゃあ、仲間ってことだ」
「エマです」
「こいつはダークよ」
「よろしく」
「フレイは、風属性が出たんだ。普通、リベラルをやりたいと思うだろ。でもキーパー志望なんだ」
「絶対キーパーってわけでもないよ。オビトがフットサルをやりたいんだったら、魔獣を倒さないとなって言うんだ。姫たちの盾役をやらせてください」
「歓迎よ」
「今日から一緒に朝食を取るだろ。オレ、朝いつもは、ボルケーノに行っていないんだ。朝の護衛も頼めるか」
「オビトに聞いてる。家もそうしろって」
「ははは」
フレイが、オビトにバンバン背中をたたかれている。こういうのを嫌がっていたのだろう。それでもやらせてくださいという。フットサルって、そんなに面白いんだ。
仲間が一人増えた。
今月から、午後の授業が始まった。しかし、今日は、まだみんな非番だ。
「そうそうヨハンの職場が決まったのよ。午後は、王宮に来ない?」
「本当ですか!」
オビトが、オレ達の前にドンと座って、朝食のプレートを置いた。その隣にフレイも。
「ヨハンさんってだれですか?」とフレイ。
「私の爺やなんです。私が生まれた時から世話をしてもらっていて、家族同然の人です」
「エマのお付きで、サモル王国迄、入試についてきたんだけど、受かっただろ。残りたいって言うから、レジーナに口をきいてもらってたんだ」
「すごいわよー。マトバの宮廷付きになったのよ。奥さん主体だけどね」
「いきなりか。すごいな」
「どういう事?。二人で盛り上がってないで教えてくれよ」
レジーナとオビトだけ盛り上がっている。
「マトバ様って宰相の?」とフレイ。
「そう」
「フレイ、それってすごいことなのか」
「宰相と言ったら、国を実質動かしている人だぞ」
「その奥さんだろ」
「ヒルデガルド夫人が、社交界を回しているって言われているのよ」
「そうなのか?。いきなり、そんな人の側付きになって、ヨハンさん大丈夫なのか」
「爺なら心配いりません。ああ見えて爺は、お茶からカクテル迄、何でも作れる人なんです。それで、引き抜かれたんじゃないでしょうか」
「そういえば、ボルケーノで、そんなことやったって、アマンダが言ってたな。『うちに欲しいんだけど』って、何度も言われた気がする」
ここ数日、それどころじゃなかった。
「明日から出仕なんですって。それで、もう宮廷に来ているんだけど、今日はまだ非番じゃない。どうせならエマも誘って、うちの家族と食事会をしないかなー、なんて思って」
「行きます」
「じゃあ、早めに来て。王宮を案内してあげる。ヨハンも待っているわよ」
「嬉しい!」
「ダークはどうする?」
「王宮に?無理!」
レジーナの家族って王家一家じゃないか。
「オビトとフレイは?」
「すまん、フレイに、フットサルの基礎を教える約束をしているんだ」
「そうなんです?。オビトは、フットサルをやってたんですか」
「空中のじゃないけどな」
貴族のたしなみったやつだろうな。
「フレイは、飛ぶやつがやりたいんだろ」
「一通り知っておきたいじゃないか。地上のがベースに決まってる」
「わかったわ、また今度ね」
オレ達3人は、誘うんじゃないと、露骨な顔をして見せているのに、レジーナは、お構いなしだ。
結局午後は暇になった。そこで、フレイに付き合って、フットサルをやることになった。
フットサルは、フィールド4人キーパー1人の5人制。コートは、36メートル×24メートル。センターサークル3メートル。ペナルティーエリアは、ゴール前の10メートルになる。
オレたちは、オビトが書いた簡略コートを見ながらルールを教えてもらっている。
「空中フィールドは球形だろ。なのに地上のは、円形じゃあないんだな」
「大事なのはペナルティゾーンだ。ここに入った場合。味方は、ボールを持ったやつの前に出てはいけない。俺たちは、子供のころから、この平面のフィールドで、遊びながらルールを覚えるんだ」
「あれだろ、使っちゃいけないのは手だけだろ」
「腕もだ。平面は子供用だからな。攻撃魔法もルール違反だぞ」
「俺、キーパーやりたい」とフレイ。
「フレイは、フィールドの広さに慣れろよ。ダークがキーパーな。キーパーは全身使っていいけど魔法とかは、ずるだからな」
念動力も使うなってか、面白い。
・・・・・・・・・・。そう思った時もありました。まったく球が来ない。
オビトは、フレイにまったく球を取らせない。足技とヘッドだけで、フレイを翻弄している。技が多彩すぎて、フレイとオレは、目が点になった。
「なあ、その球捌きから教えてくれ」
「オレも、オレも」暇すぎる。
「そうだな、膝だけで、玉を落とさないところかな。立体フィールドだとこの技は、大事だぞ。周りを見るときに使う」
そう言って球を膝だけで蹴り出した。まったく地上に落ちてこない。
「すごいな」
「本当だったら、球が落ちたら交代なんだけど、別の球でやってみるか」
オレたちは、コクコク頷いた。
それから1時間、オレとフレイは、無心で球を追いかけた。偶にオビトがやってきて新し技を披露する。ヘッドだけとか、足だけとか、踵を使うとか、とにかく飽きない。オビトは、木剣を持ってきて自分の修業を始めた。偶にオレに聞いてくる。そこからまた無心に木剣を振っている。同じようなもんか。
「二人とも、同じぐらいの技量だな。今度は、二人で練習してみるか」
また、オレたちは、コクコク頷いた。
ただ、球をパスするだけ。それだけで面白い。
「オビトー」
「どうした?」
「俺達、動きたいんだけど」
「すまんすまん。ドリブルな。魔球技場のドリブルは、最初にやった落とさないやつをやりながら移動するんだけど、平面だとこうな」
今度は、フィールドにポールを立てて、往復するのを教えてもらった。気が付いたら夕方だった。
オレは、前世でスポーツをした記憶がない。目茶目茶ハマった。部屋に帰って、興奮気味にエリーにフットサルの話をする。エリーは、「うんうん」と、聞いてくれた。
それからは、ずっと平面のフットサルばかりやっていた。当然、浮遊術も姫たちに頭を下げながら教えてもらう。この二つに完全にはまった。




